全社導入と“潜在層”の開拓 - 進化するkintoneのSMB戦略とは?

2025年4月22日(火)7時0分 マイナビニュース


サイボウズの「kintone」事業がDXの波に乗って好調だ。ノーコード/ローコードというkintoneの特徴が生きるのは中小企業。同社が目指す2028年度に連結売上高509億円という目標においても、「kintoneと中小企業市場は重要な役割を果たす」と語るのは、サイボウズでSMB(Small and Medium Business)事業を担当すると蒲原大輔氏と谷口修平氏。両氏にkintonの中小企業と自治体向けの戦略について話を聞いた。
中小企業のニーズにフィットするkintone
「kintoneと中小規模企業・組織はわれわれの屋台骨です」と切り出すのは蒲原氏。中小企業(以下、SMB)のkintone導入実績は3万社を上回る規模だという。サイボウズはエンタープライズ(大企業)向けにもkintoneの拡大を図っているものの、現在でもkintone導入企業の9割がSMBだ。
kintoneがSMBに好評な理由の1つは、「全社導入のしやすさ」だという。
「大企業の場合、各部署にすでに専用システムが入っており、全社で入れるとなると棲み分けなどの問題が生じます。また、全社導入するという意思決定も複雑になります。これに対して、SMBは経営層が号令をかけて全社的に活用することができます」(蒲原氏)
また、「組織変革の武器として導入いただいているケースも多い」「経営のコックピットという位置付けで、全社のあらゆる情報をkintoneにためて、視覚的に表示して経営の意思決定をするというお客様もいる」と、蒲原氏は付け加える。
全社導入に加え、SMBとkintoneの相性の良さは「DX人材不足」というSMBの課題解決にもフィットしているようだ。「プログラミングの知識がなくてもkintoneであれば業務改善できるという部分が受け入れられている」と蒲原氏は語る。谷口氏は「高度な専門システムを求めない範囲でできることの幅が広いのがkintoneの魅力。そこが全社導入につながっている」と分析する。
サイボウズのグループウェア「サイボウズ Office」のユーザーが、サイボウズ Officeではできないことをkintoneで、という流れも大きいとのことだ。
価格面については、「kintoneは月1万円から始められ、中小企業にとっても敷居が低い形になっている」(蒲原氏)とのことだ。
伴走支援で導入から活用へ
これまでサイボウズはkintoneのSMBに向けた取り組みとして、主として認知度の向上、導入・活用支援の2軸で取り組んできた。認知度の向上はテレビCMをはじめとしたプロモーション、導入・活用支援は「伴走支援」というアプローチをとってきた。伴走支援とは、単にシステムを納品するだけでなく、顧客が継続的にkintoneの活用・改善ができるようにスキルを移転する支援方法のこと。
そこで重要な役割を果たすのが「パートナー」という存在だ。蒲原氏は「オフィシャルパートナーは500社に達しており、われわれではリーチできないお客様に届けていただいている」と胸を張る。
例えば、同社のSMB顧客はあらゆる業種を網羅しているが、最近のトレンドとして製造、建設、公共系などが伸びている。これは、その分野に強くノウハウのあるパートナーの貢献が大きいという。最近では地方銀行と協業を通じて、その地方銀行が持つ中小企業ネットワークを活用した展開も進んでいるそうだ。
このような認知向上、活用支援に加えて、今後の戦略として以下の3つを掲げている。
全社導入の促進
潜在層の開拓
基幹システムとの連携強化
このうち、「全社導入の促進」と「潜在層の開拓」は既存の取り組みの延長と言える。
全社導入の促進は新しいテーマではないが、今後さらに全社導入をしっかり支援していく。「全体の比率から見ると、全社導入はまだ低い。経営層向けのセミナーなどを通じて、全社で使うプラットフォームとしてのポジションを確立していきたい」と蒲原氏は意気込む。
潜在層の開拓は、まだkintoneをよく知らないユーザーに認知、そして導入にチャレンジしていく。ここではこれまでのプロモーションでは届かない層に対しての道筋を探っていく計画だ。
基幹システムとのシームレスな連携
SMB向けの戦略の3つ目は、新しい取り組みとなる。
基幹システムと連携することで、基幹システムを補うような形でのkintoneの使い方を広げていくというものだ。基幹システムとの連携はこれまでも可能だったが、連携の仕組みを構築しなければならないなどハードルが高かった。2024年にオービックビジネスコンサルタント(OBC)が「奉行クラウド」で、標準機能としてkintone連携を搭載したが、このような提携を進めていく。
「kintoneと基幹システムの連携がシームレスになれば、kintoneでワークフローを回して承認されたら自動的に基幹システムに情報が流れ、逆に基幹システムからkintoneに情報を取り込むようなことがスムーズになる。前工程はkintoneで柔軟に行い、後工程は基幹システムで処理するのが理想」と蒲原氏。うまく行けば、全社導入の後押しにもなるとみる。
これらの戦略について、パートナーとの協業によって推進していきたいと蒲原氏は話す。
SMB向けのノーコード/ローコードツールは他社からも提供されているが、差別化のポイントは「現場で使える」「豊かなエコシステム」「活発なユーザーコミュニティ」だ。
エコシステムでは先述のように500を超えるパートナー企業があるが、コンサルティングとプロダクトに分類される。コンサルティングは導入や活用の伴走支援となり、プロダクトはプラグインを開発するパートナーだ。「kintoneでできることを増やしていただいている。ここは大きな強み」と蒲原氏は胸を張る。
ユーザーコミュニティは3600人以上が参加するなど、大きなコミュニティに成長している。「ユーザー同士で質問して教え合うなど、使い方などを検索するとSNSや動画サイトなど何かしら情報があるという状態になっている」(蒲原氏)とのことだ。
中小企業にもAI機能を、「アプリ生成AI」などの新機能
機能面でもSMB向けの戦略がある。
最初に蒲原氏が紹介したのが、サイボウズ Officeとの連携機能だ。2025年1月に、サイボウズOfficeのスケジュールとkintoneアプリを連携する機能の提供を開始した。これにより、グループウェアとしてサイボウズOfficeを利用中のユーザーがkintoneを併用する際の利便性を向上している。連携機能を紹介するセミナーの集客も好調だ。
さらに、2024年10月に「メール共有」オプション機能を発表した。これはkintoneの利便性をメール対応業務に広げることをビジョンとし、ワンクリックでkintoneアプリにメールからデータ転記が可能となるというものだ。
またAIに関しては、2024年11月にkintoneの検索機能とRAGを組み合わせてアプリに蓄積されたデータを検索できる「kintoneAIアシスタント」のベータ版を発表した。
「kintone AIラボ」を通じ、開発中のAI機能をベータとして提供する取り組みも進めている。4月15日に、AIとチャットしながらアプリを生成する「アプリ作成AI」をリリース。「生成AIがアプリの要件を理解し、適切なフィールドを提案・生成するため、経験が浅いユーザーでもアプリを容易に作成できる」と、蒲原氏は「アプリ作成AI」の特長を説明する。
あわせて、先述のkintoneAIアシスタントは「検索AI」として名称変更した。
このようなAI機能は、中小企業のAIに対するニーズに応えるものとなる。「AIというと大企業が先行しているイメージがありますが、SMBのお客様も高い関心を寄せている。AI活用においてデータ化は必須。AIを使う一歩手前のデジタル化の支援も引き続き重要な取り組みになる」(蒲原氏)。
産業まるごとkintoneで支援
kintone、さらにはサイボウズにとってSMBは引き続き重要なセグメントだ。
サイボウズは2月に発表した2024年度の決算発表で、連結売上高「509億円」という目標を打ち出した。この数字は、2023年度の倍増だ。「エンタープライズの比率を高めるという方向性はあるが、引き続きSMBは重要」と谷口氏は語る。「(509億円という目標達成にあたって)kintonとSMBが占める割合は大きいと想定している」(谷口氏)
パートナーの原動力も大きい。谷口氏は、パートナーが特定の業種向けにkintoneベースでアプリケーションを用意する「セミオーダー」の動きを紹介した。弁護士向けなどのアプリがあり、「kintoneで何ができるのか?を知りたがっている潜在顧客にとってわかりやすい入り口になっている」とのことだ。
自治体については、コロナ禍で大きく加速した勢いを継続していく。当時、大阪府が保健所業務のためにkintoneを活用し2週間でシステムを開発、これを当時の知事がSNSで発信したところ、一気に他府県にも波及した。このエピソードを振り返りながら、「緊急時でも迅速にシステムを構築できるというkintoneの特長が評価された。これを受けて自治体向けコミュニティが立ち上がり、そこでkintoneアプリの共有が進んでいる」と蒲原氏。実は、蒲原氏自身も公共機関からkintoneに転職したという経歴を持つ。
今後は「全社導入をスタンダードにする」というビジョンを進めるほか、「産業を丸ごとkintoneで支援」というアプローチも模索する。蒲原氏は、「業種ごとの組合、地域の商工会や連合会といった組織に入っていき、1社では難しいkintone導入を関係する企業に丸ごと使っていただくようなモデルを考えている。モデルを1つ作って、全国に波及させていきたい」と説明した。

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