早大など、コオロギの行動を個別かつ同時に定量化するAIシステムを開発

2024年4月24日(水)21時3分 マイナビニュース

早稲田大学(早大)と東京農工大学(農工大)の両者は4月23日、昆虫の秘められた日常を解き明かすことを目的とし、深層学習をベースとしたソフトウェアの「DeepLabCut」を活用することで、日周リズム研究でよく使用されるコオロギにおいて、移動運動の他、摂食や睡眠様状態など、複数の行動を個別にかつ同時に定量化するシステムを構築することに成功したと共同で発表した。
同成果は、早大 総合研究機構の片岡孝介主任研究員、同・大学 理工学術院の朝日透教授、同・大学大学院先進理工学研究科の早川翔大大学院生、農工大大学院 農学研究院の鈴木丈詞教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、生物学および生物医学に関する全般を扱う学術誌「Biology Open」に掲載された。
生物は、昼行性や夜行性の違いはあっても、睡眠や摂食など、だいたい毎日同じ時間に決まった行動を取って生を営んでいる。それには、生物の体内時計が生み出す24時間周期の概日時計に基づいた日周リズムが重要となり、昆虫においても同様である。
昆虫の日周リズムに関するこれまでの研究では、移動運動に焦点が当てられており、その日周期性を測定するために通過センサなどが使用されてきた。しかしそれらの方法では、昆虫の姿勢を解析したり、摂食や睡眠様状態といったほかの行動パターンを捉えたりすることは困難だったという。
そうした中で、今回の研究では、コオロギを用いた観察が行われた。同昆虫は、キイロショウジョウバエのような、長らく研究に使われてきたモデル昆虫と比べて体格が大きな種が多く、解剖学的および生理学的な解析がしやすいという優れた点を持つほか、闘争や求愛における聴覚コミュニケーションなど、特異的かつ多様な行動も示す。さらに最近では、大量生産技術が開発され、食材や飼料原料としても利用されている。そうした理由から、コオロギは現代においては、神経科学・動物行動学・応用昆虫学などのさまざまな分野で有用な昆虫の1つに数えられている。
そこで研究チームは今回、コオロギの日周リズムに関連する複数の行動(移動運動、摂食、睡眠様状態)を、同時にかつ長期間にわたり定量化する新しいシステムを構築することにしたという。なお昆虫は脳波測定が難しいため、動かない時間が続いたり、反応が鈍くなったりする状態を睡眠様行動という。
今回開発されたシステムは、深層学習をベースとした行動解析用ソフトウェア「DeepLabCut」が利用されている。個体に対する物理的なマーキングを必要とせず、検出したい任意の部位の座標情報を、作成したモデルから自動的に検出することで、時系列に沿った姿勢情報を正確に取得することが可能(コオロギの身体のキーポイントを自動でラベリングできる)。
同システムを利用することで、観察者の主観的なバイアス無しにコオロギの行動パターンを分析することが可能となり、従来の通過センサベースの手法よりも多様なデータを得られるようになったという。特に、睡眠様状態を従来の不動時間ではなく、姿勢に焦点を当てて推定することに成功し、より正確な睡眠様状態の評価が実現されたとする。
今回の研究成果は、昆虫の日周リズムに関する深い理解を提供するだけでなく、昆虫の行動学研究における新しい可能性を開くという。特に、非侵襲的な手法を用いた行動分析の可能性を広げるものとする。一例として、今回の研究で用いられた技術と音響システムを組み合わせることで、コオロギが発する鳴き声など、個体間での聴覚コミュニケーションのメカニズムを解明する研究などへの展開が期待できるとした。
また、今回の技術による行動解析は、コオロギなどの食用昆虫の生産や農業害虫の管理に向けた生理生態の解明の他、さまざまな昆虫の日常的な振る舞いなどの解明が期待できるという。これにより、持続可能な農作物生産や生物多様性の保全、さらには昆虫学の楽しさの普及に寄与することが期待できるとした。
さらに、今回の研究で構築されたシステムは、コオロギに限らず、ほかの昆虫や小型動物にも適用可能な汎用性を持っているとのこと。今後の課題としては、さらに多くの昆虫種に対するシステムの適用や、行動分析の精度向上に向けたアルゴリズムの改良が挙げられる。また、行動データと遺伝子発現データの統合分析により、行動の分子生物学的基盤を解明する研究も期待できるという。研究チームは今回の研究成果を基盤とし、コオロギならではの魅力的な生物現象を探究していきたいと考えているとした。

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