京大など、ソフトロボット用人工筋肉が自身を制御できることを発見

2024年4月26日(金)16時15分 マイナビニュース

京都大学(京大)は4月25日、ソフトロボット用アクチュエータとして利用される人工筋肉(AM)が生み出す、豊かな動きをニューラルネットワーク(NN)として計算に活用することで、AMをさまざまなパターンに制御できることを発見したと発表した。
同成果は、京大大学院 情報学研究科の明石望洋助教、東大大学院 情報理工学系研究科の中嶋浩平准教授、ブリヂストンらの共同研究チームによるもの。詳細は、さまざまな分野の基礎から応用までを扱う学際的な学術誌「Advanced Science」に掲載された。
現在、ソフトロボット用アクチュエータとして利用されているマッキベン型空気圧AMには、非線形性・履歴依存性があるため、固有の制御が必要だ。そこで研究チームは今回、同AMの複雑なダイナミクスを「物理リザバー計算」(PRC)における計算資源として積極的に活用することで、従来は外部装置が担ってきたAMの動作推定や制御を、AM自身のダイナミクスによって行えるかどうかを調べることにしたという。
PRCは、さまざまな物理現象を計算に利用し、物理現象の時間発展をNNの代わりに用いることで、物理現象に現れる非線形性や履歴依存性を計算に活用することを特徴としている。そこでまず、AMのダイナミクスを計算に活用可能なのかどうかを調べるため、計算能力の指標である情報処理容量の解析が行われた。その結果、AMから測定された圧力・電気抵抗・長さ・加重などのセンサ値が、入力をどの程度非線形・履歴依存に変換しているかが定量的に示され、PRCに用いることが可能なことが示されたとした。
次に、それらのセンサ値によって実際にPRCが行われると、AMの長さセンサの値を、圧力値・電気抵抗値・荷重値など、ほかのセンサの値によって推定できることが判明。従来、AMの制御にはレーザーセンサによる長さの測定が必須だったが、同センサは固い部材であり、AMの利点である柔軟性や軽量性を損なうものとされていた。それに対して今回の手法であれば、同センサを必要としないで済む可能性が示されており、AMの利点を発揮するための重要な成果といえるとした。
さらに、AMの制御もPRCで可能かどうかが試みられた。周期的なパターンや、カオスのような複雑で予測困難なパターンを、外部の非線形性振動子や記憶装置を用いずに、AMに埋め込めるかどうかの確認である。ここでは、PRCが生成した出力を入力に戻す閉ループ構成とすることで、AMの自律的なパターンが制御された。結果、従来はシミュレーションのみだった非線形振動子の埋め込みや、AMでは初となるカオスの実機実験による生成も確認されたという。これらの基本的なパターンは「中枢性パターン生成器」(CPG)として、ロボット制御においては、ロコモーションなどの繰り返し運動に活用される。その意味で、今回の実験では、ロボットに外部的に取り付けていたCPGをAMへ内在化できることが示されたとした。
最後に、上述の複数のパターンを同時に埋め込む分岐埋込の実験が行われた。ある条件を変化させた時に現れる、動作の急激な変化は「分岐現象」と呼ばれ、計算機上のNNに学習させる手法が分岐埋込として近年報告されていた。今回の研究では、AMに与える荷重値を分岐条件として、特定の分岐現象をAMの動作に埋め込めることが確認された。これにより、周期的なパターンのみを学習させた際にカオスパターンを生成できることや、その逆も可能なことが示されたという。これは、多数ある所望のパターンをロボットに学習させたい時に、ある特定のパターンを学習させるだけで、まとめて一挙に学習させられるといった、ロボット制御の学習に要する本質的な効率化の可能性が示唆されているとした。
またソフトロボットは、やわらかさ故にその材料特性が比較的早く変化し得るため、少ないデータでの学習が実用上重要とされている。それに加えて環境が変化した時に、自動的にパターンを切り替える自律的なスイッチング機構としての活用も期待される。このような分岐埋込の物理機構での実証は世界初とした。
今回の研究成果は、ロボットの外部装置・中央処理機・通信の負担を減らすことにつながり、ロボットのハード・ソフト両面でのよりスマートな設計に貢献することが期待されるという。また、今回示されたように、制御器だけでなく、身体を効果的に使って情報処理を行うロボットの研究・開発が進めば、生物のように脳と身体を巧みに扱う、しなやかな知能に対する構成論的理解につながることも期待されるとする。
そして、今回得られた分岐埋込の成果は、従来の計算機において困難だった情報処理であっても、その物理現象の計算特性に合致していれば、省計算能力で実行可能なことが示唆されているとした。これらの物理現象が用いられた計算の研究に対しても、より高度な情報処理の実現や効果的な活用方法に対する知見を与えることが期待されるとしている。

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