企業における自動化のこれまでとこれから - RPAからAIまで 第6回 AIとの連携で広がる自動化の可能性

2024年4月26日(金)10時40分 マイナビニュース

生成AIの登場に伴い、RPAに代表される自動化ツールと生成AIの連携による自動化の可能性は、ますます広がりをみせている。そこで最終回となる今回は、AIとの連携で広がる自動化の可能性をテーマに自動化とAIの今後を解説する。
自動化とAIのあゆみ
自動化とAIは切っても切れない関係にある。実際、UiPathは2017年頃から自動化とAIの連携に取り組んでおり、その少し後から、RPAベンダーとAIベンダーの両方が、相互に連携する動きを見せている。
2019年に「UiPath AI EXPO」を開催した際には、34社以上の日本のAIベンダーの参加に加え、2000名以上のユーザーの登録があった。当時は、多くの企業で「紙」でのやり取りや確認が発生する業務の自動化に対するニーズが高く、その解決策として特にAI-OCRが注目されていた。自動化とAIとの連携は、AI-OCRから広がっていったと言えるだろう。
例えば、製品ラベルが法規制に則って正しく記載されているかを調べる検査にAI-OCRとAIの画像分析モデルを活用した消費財の製造企業がある。
この企業では、デザイン会社から送られてくる製品のラベルデータについて、製品説明やJANコードなどのテキスト部分を AI-OCRで、ブランドロゴマークなどの画像部分はAIの画像分析モデルで読み取り、読み取った内容を製品マスタのデータと照合し、その結果を担当者が目視で確認し、問題がなければラベルの発注指示を出すという自動化プロセスを構築した。
AIが出力した結果に、あえて人間が介在して制御する「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の考えに基づいた自動化とAIの活用事例だ。この企業では9名が検査業務を担当していたが、このプロセスの導入後は、0.5人分の工数で対応できるようになったという。
その他、自動化とAIの連携の事例としては、AIのImage Similarity Search(類似画像検索)機能を活用した事例もある。フリマサイトやオークションサイト上での、いわゆる「転売品」の出品有無をAIが自動巡回で確認。転売品を発見した際はサイト運営者に削除を依頼する。この一連の業務を自動化とAIの連携で実現した。
AIが、自動化を強化する
自動化とAIの連携を考える時、以下の3つの視点が必要となる。
「相互に必要性を持つ」
「頭脳と手足の関係」
「検証ではなく業務としてAIの活用」
「相互に必要性を持つ」という視点で考えると、「AIが自動化を強化する」という側面がある一方で、「自動化がAIに価値を与える」という側面もある。
「AIが自動化を強化する」とは、AIによってRPAでの非構造化データの活用が可能となったり、人の判断が必要な工程をAIが代替することで一気通貫の自動化が実現できたりすることだ。
一方、「自動化がAIに価値を与える」とは、 AIがもたらす予測、分類、分析に対して具体的なアクションをRPAが行うことで、AI単体では実現が難しいビジネスプロセスの自動化を行えるようになるということだ。
「頭脳と手足」という視点で考えると、AIがいわば頭脳でRPAは神経系となる。RPAが神経系となって、それぞれの企業で使われている独自システムやセンサーなどと連携しながら自動化が図られていくイメージだ。
AIの精度の検証に注力した結果、具体的な活用業務や効果について判断がつかず、業務での利用を見送るケースは少なくない。 AI単体ではなく、具体的な業務イメージの中で検証を行うことが重要であり、AIにRPAのアクションを加えたPoCを実施し、業務自動化の現実性、効果を確認していくことが重要となる。
こうした活動により、実際に 「メールから自動的に請求書をダウンロードし、AI-OCRにより請求書を読み取った後、読み取ったデータをシステムへ登録する」、「チャットボットへ住所変更の方法を問い合わせた後、必要情報を入力すると自動的にシステムへ変更が反映される」という事例が出てきた。
生成AIと自動化の今後の展望
業務におけるAI活用の可能性は、生成AIの登場でさらに加速すると考えられる。UiPathが発表した「自動化とAIのトレンド:2024年版〜2つの革新的なテクノロジーが来年どのような価値をもたらすかの7つのトレンド」では、「2024年は、AIの実行・実装、AIと自動化によって生み出される価値が進んでいく年になるだろう」との展望を示している。
生成AIが及ぼす経済インパクトも大きくなっている。生成AIにより生まれる新規産業やビジネスの市場規模よりも、労働者の生産性向上やコストセービングによる経済効果のほうが圧倒的に大きいとされていることにも注目だ。
欧州議会の報告書によると、AIによる世界経済へのインパクトは2030年までに世界のGDPの約14%にあたる15兆7000億ドルに達するとされている。2023年の日本のGDP(4兆2106億ドル)の3〜4倍にもなる経済効果である。
ただ、Pew Research Centerのレポート によると、「AIへの期待よりも懸念のほうが大きい」という回答が2022年に比べて増加し、2023年には52%と半数以上に達したとされている。そこで人のチェックの介在やセキュリティ、ガバナンスを担保 する仕組み、成熟したAIガバナンスポリシーが必要になる。将来的に不適切なAIの利用が発生しそうになった場合などを想定して、それを監視・予防する仕組みやガードレールのような仕組みの構築・組み込み、「野良AI」の発見と最適化も必要になる。
日本における自動化とAIの今後
さて、これまで6回にわたって「企業における自動化のこれまでとこれから」をテーマにコラムを執筆してきた。最後となる今回のまとめとして、自動化とAIの進展の方向性について触れておく。
まず今後、AIはテキスト・画像・音声・動画などさまざまなデータから情報を収集し、それらを統合して処理できる「マルチモーダルなAI」への進化がさらに進むだろう。自動化と連携においても、このマルチモーダルなAIとの連携が拡大していくと予想される。
例えば、部品工場で製造設備のセンサーが取得したデータや製造工程を流れる部品の画像データなどをもとにマルチモーダルAIがより精度高く異常を検知し、設備のメンテナンスなどの指示を自動化できるといった仕組みの構築が考えられる。
AIが、より多元的な情報をもとにアウトプットを行えるようになることで、人間の仕事の質が今まで以上に高まっていく。データ分析や異常検知などはAIに任せることで、人間は人間にしかできない業務に集中できるようになる。
今後、自動化とAIはお互いを補完する関係性になっていくだろう。日本では人手不足がますます深刻になる中、働きがいや従業員満足度の重要性がますます高まっていく。自動化とAIを組み合わせたソリューションを活用すれば、従業員がより働きがいを感じられるような業務に集中できる環境を整えることも可能になる。
前述したようなリスクもはらんではいるが、バランスを模索しながら、さまざまな業種の現場で、自動化とAIを組み合わせたソリューションの存在感がさらに高まっていくだろう。
著者
UiPath株式会社 プロダクトマーケティング部 部長 夏目 健
UiPath株式会社 プロダクトマーケティング部 山崎 麟太郎

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