北大など、低コスト・高容量・長寿命に寄与するLIB用鉄系正極材料を開発

2024年5月1日(水)15時7分 マイナビニュース

北海道大学(北大)、東北大学、名古屋工業大学(名工大)の3者は4月26日、低コスト化・高容量化・長寿命化の共立が可能なリチウムイオン電池(LIB)用正極材料を開発したと共同で発表した。
同成果は、北大大学院 理学研究院の小林弘明准教授、東北大 多元物質科学研究所の本間格教授、名工大大学院 工学研究科の中山将伸教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する材料と化学・工学・生物学などとのインタフェースに関する全般を扱う学術誌「ACS Materials Letters」に掲載された。
現行のLIBの正極材料には、コバルトやニッケルなどのレアメタルが使用されており、電気自動車の増産などによる需要の増大と共に資源枯渇や資源偏在性が深刻化すると予測され、価格高騰などのサプライチェーンリスクへの不安が増大している。そうしたリスクを回避しつつ技術革新を目指すためには、レアメタルフリーな金属資源を用いた正極材料の開発が重要となる。安価な鉄を用いた「リン酸鉄リチウム」(LiFePO4)はサプライチェーンリスクの低い正極材料として注目されているが、さらなる高エネルギーを有する新しいレアメタルフリー正極材料の開発が強く望まれていた。
そのような背景の下で研究チームは近年、リチウム、鉄、酸素からなるレアメタルフリー正極材料の研究開発により、逆蛍石構造を持つリチウム鉄酸化物「Li5FeO4」が、上述のLiFePO4に対して2倍以上の可逆容量を示すことを発見している。この高容量の発現は、Li5FeO4を「メカニカルアロイング」によって準安定化(室温・大気中において不安定でありながらもそれを長時間維持できる状態)を実現することで、これまでに利用できなかった鉄と酸素の還元反応の両方の利用が可能となったことを明らかにしたとする。なおメカニカルアロイングとは、粉末原料と硬質ボールとを機械的に衝突させ、その衝突エネルギーで合金や新材料を合成するプロセスを指す。
しかしLi5FeO4は、サイクル特性が悪いという課題を抱えていた。この材料は充電時に酸化反応が進行し、それが過度に進行すると、固体中の酸素までもが気体として放出されてしまう。放出された酸素は元には戻らないため、サイクル特性を向上するためには、この酸素脱離反応を抑制することが必須だった。そこで研究チームは今回、同反応を抑制するため、材料に新しい元素を導入することを試みたという。
周期表の13〜18族の元素は「pブロック元素」と呼ばれ、特に13〜16族の元素は酸素と強く共有結合をすることが知られており、Li5FeO4のリチウムや鉄と容易に置換することが可能だ。そこで今回は、Li5FeO4の鉄の一部をアルミニウム、シリコン、ゲルマニウム、リン、硫黄の元素を置換した材料の合成を試み、それに成功したとする。
合成された材料のサイクル特性を評価したところ、繰り返し10回目時点での酸素還元反応の容量維持率が50%から最大90%に大きく向上することが見出された。特に、酸素還元反応の挙動はシリコンを導入した材料が最も性能が高く、鉄の還元反応も合わせた正極全体のエネルギー密度では、リンやゲルマニウムを導入した材料が高い性能を示したという。
そこで、その正極材料の酸素還元反応に関して、放射光を用いた分光分析と計算科学の双方から分析が行われた。すると、置換されたpブロック元素が酸素と共有結合し、酸素脱離抑制に寄与していることが見出され、これによってサイクル性が向上したことが考えられるとした。これを受け研究チームは、正極の性能や元素の資源性を考慮すると、シリコンやリンの導入がレアメタルフリー正極材料の高性能化に有効であることが考えられるとしている。
今回の研究により、レアメタルフリー(低コスト)化、高容量化、サイクル性の向上が達成されたLIBの正極材料が開発された。これにより研究チームは、さらなる要素技術の開発による長期サイクル化が期待できるとしており、また今回の技術はリチウム空気電池など、ほかの次世代LIBの開発にも展開可能としている。

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