広島大、遺伝子に傷をつけるDNAの原料を生細胞で可視化する技術を開発

2024年5月17日(金)22時22分 マイナビニュース

広島大学は5月16日、DNAを構成する4種類の塩基のうち、「グアニン」が酸化された損傷塩基「8-oxo-7,8-dihydroguanine」(8-oxo-G)を持つ、遺伝子に傷をつける損傷ヌクレオチド(ヌクレオチドとは、4種類の塩基のいずれかに糖とリン酸が結合したDNAの基本単位)である「8-oxo-dGTP」などを生細胞で可視化する技術を新たに開発したと発表した。
同成果は、広島大大学院 医系科学研究科(薬学部)の藤川芳宏助教(研究当時)、同・河合秀彦准教授、同・鈴木哲矢助教、同・紙谷浩之教授らの研究チームによるもの。詳細は、核酸に関する全般を扱う学術誌「Nucleic Acids Research」に掲載された。
ヒトを含めた現在の地球の生物は、DNAを用いて遺伝情報を保存し、また子孫に伝えている(ウイルスの一部にはDNAを持たないものもいる)。DNAは、アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種類の塩基で構成され、遺伝情報はそれらの連なり方で記されている。つまり、DNAは遺伝情報が記された媒体だが、その構成自体が遺伝情報自身でもあるため、塩基の連なり方の変化は遺伝情報の変化にもなる。この遺伝情報の変化は「変異」と呼ばれる。
細胞内では、DNA上の必要な部位から目的の遺伝情報がRNAに転写され、生命活動に必要なありとあらゆるタンパク質が作られている。そのため、変異が起きると、悪影響が出る恐れがあり、誤ったタンパク質が作られたり、タンパク質の合成が途中で機能停止してしまったりし、結果として、その細胞は異常を来してがん化につながることがあり、変異がいくつも蓄積していくと、それだけがん化のリスクが高くなる。
変異の多くは、DNAの損傷(化学的修飾)により引き起こされる。この化学的修飾は、DNAの原料であるヌクレオチドにも生じ、損傷したヌクレオチドがDNAに取り込まれてしまうと、変異やがんの原因となる。4種類の中で最も酸化されやすいのがグアニンで、酸化された場合は8-oxo-Gなどの損傷塩基が生じてしまう。ただしそれにそなえて、たとえばヒト細胞では「MTH1」のように、8-oxo-Gを持ったヌクレオチドである8-oxo-dGTPを分解する酵素も存在している。
なお、がん細胞は盛んに有毒な活性酸素を産生するため、細胞内に8-oxo-dGTPが蓄積していることが知られている。しかし、がん細胞自身にとっても8-oxo-dGTPは毒性があるため、ずる賢くMTH1などを利用して分解を行っている。そこで研究チームは今回、抗がん剤の開発につなげられる可能性があることから、8-oxo-dGTPを検出するための技術を開発することにしたという。
今回の研究では、大腸菌が持つ8-oxo-dGTP分解酵素の「MutT」を、8-oxo-Gに結合するが分解は行わないように改変したものが用いられ2つに分割された。その分割断片の片方には、蛍光の点を作る足場となるタンパク質を、分割断片のもう片方には緑色蛍光タンパク質を結合させ、8-oxo-dGTPが結合すると蛍光が点として観察されるようにしたという。この人工的なタンパク質を発現するヒト細胞が作製され、8-oxo-dGTPなどで細胞を処理した結果、予想された通りに蛍光が点として観察されたとした。
さらに、細胞内のMTH1の量を減らした場合や、MTH1の活性を阻害する物質を細胞に作用させた場合、酸化剤で細胞を処理した場合にも蛍光が点として観察されることが確認された。
がん細胞は8-oxo-dGTPを分解するためにMTH1などを利用しているが、今回開発された8-oxo-dGTP検出システムを使うことにより、抗がん剤候補となるMTH1阻害剤を効率よく見つけることが可能となることが確かめられた。また、DNAやDヌクレオチドを酸化する物質をモニタリング(監視)するためのバイオマーカーとしても利用でき、今回の技術を応用することで、抗がん剤の開発につながるとしている。

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