データで振り返る“スマホシェア”の5年間、Google躍進で国内メーカーに衝撃

2024年5月24日(金)6時5分 ITmedia Mobile

国内主要なスマホメーカーの勢力図を振り返る

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 調査会社IDCの市場調査データを元に5G前夜の2019年から2023年までの国内スマホ市場の動きを振り返る。Apple一強の市場動向はますます支配的になり、2023年には国内メーカーの退潮とGoogleの台頭が鮮明になった。
●不動のApple、日本メーカーの苦戦
 5G前夜の2019年からの5年で変わらないのは、Appleが依然として不動の位置を占めていることだ。スマートフォン出荷台数シェアの半数以上を占める日本での影響力は減るどころか、むしろ高まる傾向にある。総出荷数におけるAppleのシェアは2019年には46.2%を占めていたが、2022年には52%となっている。
 一方で、日本メーカーの勢いの弱さも気になるところだ。低価格帯スマホを主力としていた京セラは2023年に、個人向け携帯電話事業の撤退を表明。FCNTは経営破綻した。
 AppleやSamsungなどのグローバルメーカーに対して、販売規模が小さい日本のスマホメーカーはチップ調達などで不利な立場になる。この解決策の1つは、グローバルメーカーの傘下に入ることだ。シャープは2016年に台湾の鴻海精密工業に買収された。2023年に経営破綻したFCNTは、スマホ設計・出荷部門を中国Lenovoが買収。Lenovoの製造リソースを活用して事業再建を進めている。
 この流れから外れているように見えるのが、Xperiaを擁するソニーだ。2020年、2021年、2023年にはシェア6位に甘んじている。2019年以降、高価格帯のXperia 1シリーズを中心にラインアップを刷新したものの、出荷台数ベースでは伸び悩んでいる。今夏発売の「Xperia 1 VI」や「Xperia 10 VI」が巻き返しの一手になるか、注目だ。
●Pixelが新たな「台風の目」となるか
 中国メーカーは2019年にOPPO、2021年にXiaomiが日本市場に参入している。両社とも大手キャリアへの取り扱いを進めて浸透しつつあるが、出荷台数ベースのランキングでは上位に入らず、大きな影響力は持てていない状況だ。
 一方でPixel シリーズを展開するGoogleは、日本市場への勢いを増している。2020年にはソフトバンクがPixelの販売を積極的に後押しをしていたが、2023年にはNTTドコモが取り扱い、3キャリアが取り扱うスマホとなった。IDCのデータでは2023年に3位にランクインしており、日本市場の変化を象徴づける機種となった。
 次ページからは、2019年からの5Gスマホのメーカー別シェアの推移を、象徴的な動きとともに振り返る。
●2019年:5G前夜にセット割規制
 2019年9月、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は5Gプレサービスをそれぞれスタートした。翌年開催の東京オリンピックに合わわせて、5Gの商用サービスをスタートさせる計画だった。
 この年にはソニーの新フラグシップ「Xperia 1」が登場している。Xperia XZシリーズに変わるフラグシップとして、縦長21:9比率のディスプレイが注目を集めた。
 一方でこの年には、携帯電話出荷の構造を大きく変える政策が実施された。総務省は「通信と端末の分離」をうたい文句に、スマホの値引き規制を実施した。具体的には“最大2万円まで”という上限が設定された。
 ただしこの規制には“抜け穴”がある。単体で購入可能な場合は、値引き販売が許容されている。キャリア各社はこれを活用し、重点販売機種に対して集中的に値引きする販売戦略を取った。この規制は結果として、高額機種を売りづらい市場が形成する一方で、重点機種に選ばれやすいAppleに有利な規制となった。
 2019年のメーカー別推移出荷台数は以下の通り。IDCの調査に基づく推計で、上位5位までのメーカーが示されている。2019年のAppleのシェアは46.2%。2位以下はシャープ、Samsung、FCNT、ソニーと続いた。
●2020年:コロナ禍の5G本格スタート
 東京オリンピックに合わせて2020年に開始する予定だった日本の5Gサービスは、オリンピックの開催延期により、ひっそりとスタートを迎えた。
 2020年3月の5G商用サービスの開始に合わせて、ドコモは6機種、auは7機種、ソフトバンクは4機種を投入した。ドコモは「Galaxy S20+ 5G Olympic Games Edition」や、LG製の2画面スマホの「LG V60 ThinQ 5G」など、ハイエンドモデルを中心にそろえたのに対して、auとソフトバンクはXiaomiやOPPOなどの低価格なスマホもそろえた。
 ソフトバンクは2020年以降、Google Pixelを重視している。2020年10月発売の「Pixel 4a(5G)」は国内でソフトバンクが独占販売しており、5Gへの移行キャンペーンにおいて主力機種となった。
 2020年10月には、iPhone 12シリーズの発売により、iPhoneも5Gをサポートした。iPhone 12 miniは5G対応のスマホの中では最も軽量な機種となっている。2020年のAppleの出荷シェアは47.1%。2位以下はシャープ、FCNT、Samsung、京セラとなった。ソニーは6位だった。
●2021年:ミッドレンジに5Gが広がる
 官邸による携帯料金値下げの要望を受けて、2021年春に携帯各社は20GBで3000円台の割安な料金プランをスタートした。ドコモの「ahamo」がその代表例だ。割安な料金プランを提供する分、端末値引きが縮小される傾向が強まった。
 4月には楽天モバイルがiPhoneの取り扱いを開始した。第4のキャリアとしてユーザー数を拡大した結果、Appleを扱えるようになったと思われる。
 またこの年は、ミッドレンジ帯のスマホで5G対応が広がった1年になった。Androidスマホで出荷数が最も多いシャープがその主力の「AQUOS sense 5G」で5Gをサポートした。
 12月には、FCNTが「arrows We」を発売した。このモデルはセット割で一括1円の値付けが可能になるように、2万円台をターゲットとして開発されたエントリーモデルだ。arrowsブランドとしては8年ぶりにauでの出荷を実現するなど、ヒット作となった。
 2021年のデータではAppleの出荷比率は47.0%を占めた。2位以下はシャープ、京セラ、FCNT、Samsungの順で、ソニーは6位に入った。
●2022年:ソニーも2万円5Gスマホを投入
 楽天は細身な5Gスマホ「Rakuten Hand 5G」を2022年2月に発売した。この機種は楽天モバイルでオリジナルモデルとしては最後のモデルとなっている。
 5Gのエントリースマホに、ソニーモバイルも参入した。2022年5月の「Xperia Ace III」は、ドコモ、au、UQ mobile、Y!mobileの4ブランドから出荷された。手のひらに収まるサイズながら、バッテリーが長持ちすることを特徴としており、発売後2年に渡って出荷を継続するロングセラーモデルとなっている。
 この時期からスマホの出荷価格が多様化する傾向が強まった。コロナ禍からの半導体不足に加えて、円安が急速に加速したことで、フラグシップ級の製品の出荷価格が急速に高騰した。
 また、2022年頃から5Gの基地局の整備が進む一方で、データ通信がつながりづらいという新たな問題「パケ止まり」が浮き彫りとなり、SNS上でもたびたび指摘されるようになってきた。最も指摘が多かったドコモは2023年に対策を発表。KDDIやソフトバンクも自社のネットワーク品質向上についての説明する場を設けた。
 2022年のAppleの出荷比率は49.1%。2位以下はシャープ、FCNT、Samsung、ソニーの順だった。
●2023年:撤退相次ぎ、Googleが台頭
 2023年は、スマホメーカーの淘汰(とうた)が続いた年だ。まず、ソフトバンクの後援を受けて参入したバルミューダは、2023年でスマホ事業から撤退した。最初のモデル「BALMUDA Phone」が市場の支持を得られず、後継機種の計画も頓挫した格好だ。
 京セラも新規スマホの出荷終了の方針を示している。スマホ新規開発は2023年度で終了する方針という。ただし、法人向けに引き合いの強いタフネススマホの開発は開発を継続する方針で、auで出荷しているTORQUEシリーズの開発も続ける。
 2023年5月には、FCNTが経営破綻した。スマホの設計・出荷部門はレノボグループへ事業を譲渡された。arrowsやらくらくスマホを有するスマホメーカーは、米モトローラと同じ資本系列に入ることになった。製造部門のJEMSは切り離され、ファンド傘下に入った。
 国内メーカーの不調が伝えられる中で、勢いを増しているのがGoogleだ。この年のデータでは初めてトップ5に入った。
 2023年5月に発売した廉価モデル「Google Pixel 7a」はドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアでの発売を実現した。ドコモの井伊基之社長はPixelの背景を「お客さまからの要望があった」としながら、「これまでは私どもの周波数が特殊だったので、コミットメント(出荷台数の確約)をしないと作っていただけない状況だった」とふり返っている。
 また、同年末には総務省がスマホ値引き規制のガイドライン改定を実施した。値引き額の上限を2万円→4万円(税別)に緩和した一方で、単体販売での“抜け穴”をふさぐ改定となった。これに対してキャリア各社はスマホ購入プログラムを拡充。2年後の端末返却を条件に残価を割引する形態で、“実質12円”のような低価格販売を続けている。
 2023年のAppleのシェアは52%。2位はシャープで、Google、Samsung、京セラと続いた。ソニーは6位に入っている。
 Googleは5月に「Pixel 8a」を発売。こちらもドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアが扱い、さらにシェアを伸ばすことが予想される。FCNTは再始動を経て2年半ぶりにエントリースマホの新モデル「arrows We2」を発表した。シャープもPixel 8aのライバルになり得るエントリースマホ「AQUOS wish4」を発表し、例年通りなら秋頃に「AQUOS sense」シリーズの後継機も登場するはずだ。Appleの1位はしばらく揺るぎないだろうが、Googleと国内メーカーのシェア争いに今後も注目したい。

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