次世代スイッチの主流となるか!? 磁気式アナログ検出スイッチ搭載の75%キーボード「VK720A」を普段使いの視点で試す

2024年5月24日(金)12時5分 ITmedia PC USER

エレコムのゲーミングキーボード新モデル「VK720A」。写真はJIS配列/ホワイトのTK-VK720AWHだ

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 エレコムのゲーミングブランド「ELECOM GAMING V custom」から、ゲーミングキーボード「VK720A」が登場した。前モデルの「VK600A」が5列の65%キーボードだったのに対し、VK720Aはファンクションキー列が追加された75%キーボードとなり、eスポーツだけでなく業務用途にも使いやすいレイアウトになっている。
 バリエーションはUS配列とJIS配列で、それぞれカラーがブラックとホワイトの計4モデルだ
●「ELECOM GAMING V custom」から新モデル登場!
 PCの周辺機器で知られるエレコムには、「ELECOM GAMING V custom」というブランドがある。「最適って、最強。」をコンセプトとし、数値性能だけでなく、感覚的な使い心地を重視したハイクラス・ゲーミングデバイスシリーズだ。
 第1弾は2022年9月に発売されたゲーミングキーボードとゲーミングマウスで、キーボードのキースイッチはメカニカルスイッチだった。その1年後、2023年9月にラインアップに加わったVK600Aでは、磁気式アナログ検知スイッチが採用された。
 そして2024年5月、新たなゲーミングキーボードのVK720Aが発売される。VK720Aはゲーミングキーボードとして高いポテンシャルを持ちながらも、一般業務で利用しても効率改善が期待できる懐の深さを持ったキーボードに仕上がっている。本稿では、本来ゲーミングキーボードであるVK720Aを一般業務観点から見ていくことにしよう。
●ゲーミングキーボードの新トレンド「磁気式アナログ検知スイッチ」
 現在、主流のキースイッチには大きく分けてメカニカルスイッチ/メンブレンスイッチ/静電容量無接点方式スイッチの3つがある。
 メカニカルスイッチは機械的な接触でキーのオン/オフを判断する仕組みで、接点部分の作りによってタクタイル/クリッキー/リニアなど異なるフィーリングが得られる。Cherry製MXスイッチの互換品が多く販売されており、ユーザー自身でスイッチを交換できるキーボードも多い。
 メンブレンスイッチでは1枚の薄膜状シートに全てのキーの接点を設け、各接点の上にラバードーム、さらにその上にキーを乗せた形になっている。キーを押すとラバードームがつぶれて接点が接触し、指を離すとラバードームの復元力でキーが戻る。安価に作成できる反面、フィーリングについては価格なり、といったところだ。
 静電容量無接点方式スイッチは、ラバードーム内に円錐型のコイル(コニックリング)があり、コニックリングの変形による静電容量の変化を検知する。物理的な接点がないために耐久性が高く、どれくらい押下されたのかを検知できるため、キーがオンになるアクチュエーションポイントを調整可能といったカスタマイズ性も高い。
 そして、最近ゲーミングキーボード用スイッチで存在感を増してきているのがVK600A/VK720Aで採用されている磁気式アナログ検知スイッチだ。キースイッチのステム(軸)に磁石が付いており、基板側のセンサーによって磁界の変化を読み取る仕組みで、静電容量無接点方式スイッチと同様に接点がなく、押下距離をリニアに検出することができる。
 VK720Aでは、押下始めから終わりまでリニアに変化する、タクタイル感のないスムーズな入力感で、VA600Aの30〜60gから30〜50gに軽減した押下圧と合わせてかなりソフトな印象だ。
 この磁気式アナログ検知スイッチの機能面での大きな特徴が、キーのオン/オフをデジタルで読み取るのではなく、押下距離をアナログで読み取ることができるという点だ。最終的にキーボードからPCに送られる時にはキーオン/オフの二値情報になるが、キーボード側では「何mm押下されたらキーのオン信号を送る」「押下状態から何mm戻ったらキーのオフ信号を送る」という処理を行うことになる。
 これによって、実現されている機能が追従式アクチュエーションポイント/リセットポイント、いわゆるラピッドトリガーと2ndアクション(セカンドアクション)だ。
 通常のキースイッチは「初期状態(キーが下がっていない状態)からどれだけ下がった位置にキーがあるか」によってキーオン/オフが決まる。このオンになる位置のことをアクチュエーションポイント、オフになる位置をリセットポイントと呼んでいる。
 VK600A/VK720Aでは、これらのポイントがキーの位置を追従するように変化する。そのため、キーが絶対的な座標としてどこにあるか、をオン/オフの判定に使用するのではなく、「押し始めてからどれだけ押し込まれたか」「戻し始めてからどれだけ戻ったか」という相対的な移動距離で判定する仕組みになっている。
 キーを押下げる速度はタイプする力や速度を速めることで上げることができるが、キーが戻る速度はスプリングやラバードームの復元力に依存する。反発力を上げれば戻りは速くなるが、その分押下には力が必要になる。VK720Aの追従式アクチュエーションポイント/リセットポイントでは、軽い力での押下と素早いキーオフが両立できる。これによって、キーを連打したときにも非常にスムーズに認識される。
 2ndアクションは浅く押した時と、深く押した時に異なるキー信号を送る仕組みだ。「歩く」と「走る」を異なるキーにバインドできるゲームの場合など、キーを軽く押し下げていると歩き、深く押し下げれば走る、というように1つのキーで操作を使い分けることができる。
●VK720Aの進化ポイント 交換できるスペースバー
 VK600Aが5列の65%キーボードだったのに対し、VK720Aではファンクションキー列を加えた6列の75%キーボードになった。キーレイアウトも今までのJIS配列のみの展開から、JIS配列/US配列にモデルが拡大している。カラーバリエーションはブラック/ホワイトの2色展開だ。
 他に例を見ないVK720Aの特徴の1つが、交換可能なスペースバーだ。出荷時は通常キー4.2個分程度のショートスペースバーが装着されているが、ショートスペースバー+通常キー1個分のロングスペースバーに交換することができる。JIS配列だとスペースバーの左隣には無変換キーがあるが、普段使用していないユーザーも多いだろう。キー1つ分、左手から近くなるメリットは大きいはずだ。
 また、キーボード右上にはプログラマブルダイヤルが用意されている。クリック感のある正逆回転と押し込みに対応しており、それぞれに3つの機能を割り当てられる。工場出荷時の設定だと音量を上げる/音量を下げる、ミュートが割り当てられているが、メディアコントロール以外にもプロファイルの切り替えやゲーミングモード、ライティングのオン/オフなどVK720Aの動作変更、キー入力、マウス操作などを割り当てることもできる。
 VK720Aでは静音化も図られている。VK600Aで採用されていた衝撃吸収シリコンシートに加え、システムの内部にも衝撃吸収用のシリコンパーツが追加された。もともとリニアなキータッチフィーリングということもあって、底打ちしなければかなり静かにタイピングできる。キー荷重も軽いので、アクチュエーションポイントを短く設定してなでるようなタイピングも可能だ。
●EG Toolでカスタマイズ可能
 本シリーズの「最適って、最強。」のコンセプト通り、VK720Aはユーザーの最適なセッティングに合わせて細かくカスタマイズすることができる。専用ユーティリティー「EG Tool」でカスタマイズ可能な機能は、プログラマブルダイヤルを含むキーマッピング、アクチュエーションポイントや2ndアクションなどのキー設定、ゲーミングモードの設定、ライティングなどだ。VK720AのファームウェアアップデートもEG Toolから行う。
 キーマッピングは非常に強力で、通常キー/修飾キーの他、他社キーボードでは変更できないことが多いFnキーも変更が可能だ。キー以外にもプロファイルの切り替え、メディアコントロール、マウス操作、ゲーミングモードオン/オフ、IMEオン/オフを割り当てられる。
 キーのオン感度/オフ感度(アクチュエーションポイント)は0.1mm〜3.8mmまで0.1mm単位で設定可能だ。全体のデフォルト設定の他、20キーまで個別指定ができるので移動キーのみ浅く設定する、速度が求められない重要なキーは誤操作を防ぐために深く設定する、などの調整を行える。
 キーの押下げ距離によって、2段階のアクションを行う2ndアクションもここで指定する。2ndアクションは仕組み上、必ず1stアクションが実行されてから2ndアクションになるので注意が必要だ。また、1アクションにつき3キーまでの同時押しが設定できるが、Ctrl+Alt+Deleteキーのように、キーの押下順が問題にならない場合はよいものの、Ctrl+Leftキーなどのように修飾キーを押してからもう一つのキーを押すような操作では、意図した動きにはならないケースが多いようだ。
●RGBライティングも細かな調整が可能
 RGBライティングは、プリセットの17種類の発光パターンから選択する。点滅(単色)やスプラッシュなど、色が変化しないライティングエフェクトの場合は約1677万色から指定できる。キートップの印字は印刷ではなくダブルインジェクションによる二色成形であるため、摩耗などに対する耐久性が高いだけでなく、キーキャップの印字部分だけがライティングで美しく浮かび上がる。
 試用したカラーバリエーションがホワイトだったために明るく反射するせいか、色が変化するタイプのライティングエフェクトはかなり明るく派手という印象だ。また、単色系のエフェクトで白を選択してもやや爽やかな水色寄りに見えるようだ。
 Windowsキーなど、一部のキーはアクティブなウィンドウに関わらずOSでハンドルされる。そのため、ゲームプレイ中に触ってしまうとゲーム画面が閉じてしまったり、OSのタスク切り替え画面が表示されてしまったりといった不都合を起こしてしまうことがある。
 ゲーミングモードは、そのようなキーを一時的に無効化するモードだ。Windowsキーを始めとして、E/J(半角/全角)キーや変換/無変換/CapsLockキーなどから無効にするキーを選択する。ゲーミングモードへの切り替えは工場出荷時設定では割り当てられていないが、交換用キーキャップにはGAMING MODEキーも含まれている。使用しないキーに割り当ててキーキャップをGAMING MODEキーに交換したり、プログラマブルダイヤルに割り当てたりするといいだろう。
 これらのカスタマイズ設定内容は3つまで本体に記憶できるため、EG Toolがインストールされていない他のPCに接続しても自分好みの設定で利用可能だ。デフォルト状態だとFn+1〜3キーにプロファイル1〜3、Fn+4キーでプロファイルの順次切替えが割り当てられているが、プログラマブルダイヤルに割り当てて切り替えてもよいだろう。
●リニアなキータッチフィーリングと最高クラスのカスタマイズ性
 ゲーミングキーボードと一般の高級キーボードの違いは何かと言えば、やはりゲームに求められる性能や機能にどれだけ応えているか、という点になるだろう。一般業務では特定のキーを連打するということは少ないが、ゲームでは連打を素早く、確実にPCに伝えることは重要課題となる。
 追従式アクチュエーションポイント/リセットポイントの場合、キーの押下状態を正確に伝えるというレベルを超え、ユーザーの意図をより正確にくみ取るために設計された仕組みとも言える。
 そのようなゲーム特化の機能を除外して考えても、VK720Aは高級キーボードとして最高峰に近い仕上がりだと感じた。個人的な好みが多分に入る話ではあるが、VK720Aのリニアなキータッチフィーリングはかなりツボに入った。
 初動の押下圧も一般的な赤軸よりも軽い30gで、アクチュエーションポイントを小さくしたセッティングでは、フェザータッチなタイピングが癖になる心地よさだ。磁気式アナログ検出スイッチとダブルインジェクションPBTのキーキャップの組み合わせによる耐久性は、現時点での最高峰に近いはずだ。
 あえて言えば、昨今の高級キーボードでは有線+Bluetooth×3をサポートしているモデルが多く、有線のみのVK720Aでは少し見劣りするかもしれない。個人的にはテンキー付きフルサイズのUS配列キーボードが好みということもあるので、VK720Aをベースとした一般向け高級キーボードの登場にも期待したい。
 なお、本製品の一般発売は6月下旬の予定だが、一足先に同社直販のエレコムダイレクトショップなどで先行の予約販売が行われる(5月25日午後12時〜6月25日午前11時59分まで)。通常3万2980円(予価/税込み、以下同様)のところ、3000円オフの2万9980円なので、気になる人は注目してほしい。

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