大河原克行のNewsInsight 第293回 ソニーは「感動を創る」企業へ、エンタメ成長で主力事業の変化が鮮明

2024年5月24日(金)23時50分 マイナビニュース

ソニーグループは、2024年度経営方針説明を行った。CMOS イメージセンサーとゲームエンジンを用いた「リアルタイム・クリエイション」を新たに提案。さらに、長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」を発表した。また、Crunchyrollなどによるアニメ事業の強化をはじめ、映画、音楽、スポーツなどのIPを拡張する「IP360」戦略を打ち出した。
ソニーでは、経営の方向性として、ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画で構成し、グループ売上高の約6割を占めるエンタテインメント分野に注力するとともに、クリエイションシフトを掲げている。また、ソニーのビジネスレイヤーは、感動に直結する「コンテンツ」、感動を生み出す「プロダクツ&サービス」、クリエイションを支えるCMOS イメージセンサーによる「半導体」で構成しているが、ここでも軸足をクリエイション側にシフトしてきた経緯がある。
クリエイションは、最早エレキに変わるソニーの代名詞
ソニーグループ 代表執行役 会長 CEOの吉田憲一郎氏は、「ソニーは近年、クリエイターに向けた製品ラインアップを拡充している。軸足をクリエイションシフトしはじめた起点になったのが、2018年のEMI Music Publishingの買収である。6年間で約1兆5000億円を投資し、コンテンツクリエイションを強化した。また、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野では、営業利益の8割以上がクリエイションに関わるビジネスから創出されている。CMOS イメージセンサーは、映画製作のクリエイターからスマホユーザーまで、幅広いクリエイションを支えており、過去6年間で約1兆5000億円の設備投資を行っている」などと述べた。
こうしたクリエイションシフトの取り組みをさらに加速するのが、「リアルタイム・クリエイション」になる。
ここでは、CMOS イメージセンサーとゲームエンジンが、重要なクリエイションテクノロジーになると位置づける。
CMOS イメージセンサーは、クリエイターが感動の瞬間を捉えることに貢献。グローバルシャッター方式を採用したミラーレス一眼カメラ「α9 III」は、2024年3月に英国で開催された「2024 世界室内陸上競技選手権大会」で活用されたことを示しながら、「すべての画素を同時に読み出すことで、高速で移動する被写体も、歪みがなく捉えることができる。また、8万分の1秒のシャッタースピードで、フラッシュ同調撮影が可能であり、究極のリアルタイム技術を体現している。ソニーのリアルタイム技術は、スポーツの感動を世界に届けることにも貢献している」と述べた。
そのほか、映画業界において、デジタルシネマカメラ「VENICE」シリーズの採用が進んでいること、画像の真正性を検証する部分にCMOS イメージセンサーが活用されていることも紹介した。
また、ゲームエンジンでは、ソニーが出資するEpic Gamesが開発したUnreal Engineにより、ゲームのアクションに応じたリアルタイムなCG画像を生成。この機能を様々なクリエイションプロセスに活用している実績を示した。具体的には、Sony Pictures Entertainment(SPE)の次世代ビジュアライゼーション施設「Torchlight」において、映像コンテンツを制作する前に、クリエイターのビジョンの探索や構想、具現化が、リアルタイムで可能になるという。「ゲームエンジンは、リアルタイムのコンピューティング技術である。また、Torchlightによって、より広いクリエイティブコミュニティに貢献することができると考えている」と述べた。
さらに、バーチャルプロダクションシステムや没入型空間コンテンツ制作システムのほか、現実の選手の動きをトラッキングして、リアルタイムで3Dアニメーションとして表示するサービスにも、ゲームエンジンのテクノロジーが貢献していることを紹介した。
また、クリエイションにおけるAIの活用方針についても言及。「AIは、クリエイティビティを代替するものではなく、サポートするものと位置づけている。ゲームの開発コストが上昇するなかで、AIが貢献できる場面は多い。ユーザーのエンゲージメントを高めることにも活用できる。クリエイティビティは人に宿るものであり、AIが登場しても、テクノロジーを通じて人々のクリエイティビテリィに貢献していくという姿勢は変わらない」と語った。
10年後のソニーを描いた「Creative Entertainment Vision」
一方、ソニーが新たに発表した長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」は、今後のテクノロジーの進化を見据えながら、10年後のソニーのありたい姿を描いたものと位置づけており、ソニーグループが目指している「人と事業の多様性」を示すものになるとも捉えている。
2024年度からスタートしている第5次中期経営計画のテーマは、「境界を超える〜グループ全体のシナジー最大化〜」としており、配信プラットフォームの活用や様々な施設での利用機会の創出によってIPの価値を高め、グループ全体でのIP価値の最大化に注力することになるという。
また、新たに発表した長期ビジョンは、第5次中期経営計画の先にある未来のソニーのビジョンとし、今回の説明会では、その実現に向けた足元の取り組みについて、ソニーグループ 代表執行役 社長 COO 兼 CFOの十時裕樹氏が説明した。
Creative Entertainment Visionは、具体的にイメージできる到達点を、グループ社員と2年以上をかけて議論し、映像にまとめたものだ。「キーメッセージは、Create Infinite Realitiesである。10年先の社会の変化やテクノロジーの進化を推測し、ソニーグループの長期ビジョンを映像として表現した」という。
Creative Entertainment Visionは、「創造性の解放」、「境界を超えたつながり」、「あらゆる場に広がる体験」の3つのフェーズで構成。「テクノロジーを活用し、フィジカル、バーチャル、時間といった次元を超えて、世界中のクリエイターの創造性を解き放つことを目指す。また、境界を超えて多様な人々が価値観をつなげ、熱量の高いコミュニティを育む。そして、ワクワクするストーリー性のある体験をつくり、感動の新たなタッチポイントを世界中に広げていく。テクノロジーとクリエイティビティの力により、無限の感動を届けていく」などと述べた。
「IP360」戦略で、アニメ、映画、ゲーム、音楽、スポーツを拡大
また、十時社長 COO兼CFOは、境界を超えてIPを拡張する「IP360」を打ち出し、「ファンとのエンゲージメントを深め、オーディエンスを拡大させることでIPの価値を最大化する取り組みを進めていく」とし、アニメ、映画、ゲーム、音楽、スポーツの領域における具体的な活動について触れた。
アニメでは、注力する分野とする日本のアニメによるIP創出について説明。ソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)傘下のアニプレックスによる高品質な作品の制作や、1300万人超の有料会員を抱えるCrunchyrollを通じた日本のアニメの海外配信の実績を紹介。「2021年に買収したCrunchyrollは、アニメに特化したDTC(Direct-to-Consumer)サービスであり、日本のアニメを世界に広げ、アニメクリエイターコミュニティにも貢献するものになっている」(吉田会長 CEO)とする。ソニーグループでは、アニメのIP、文化、ファンを育てる取り組みとして、Crunchyroll Anime Awardsを開催しており、8回目となる今回は過去最高となる3400万以上の投票があるほどの盛り上がりをみせたという。
さらに、アニプレックス傘下の制作スタジオであるA-1 PicturesやCloverWorksを中心に、SMEJやソニーグループのエンジニアとの連携によって開発を進めているアニメ制作ソフト「AnimeCanvas」を紹介。制作環境と効率の改善や作品品質の向上なつげることができるという。「AnimeCanvas」は、2024年度中の試験導入を目指し、将来的には社外のスタジオにも提供することを想定しているという。また、アニプレックスとCrunchyrollを中核に、業界と連携して海外のアニメクリエイターを育成するアカデミーの設立を検討していることも明らかにした。
「クリエイターの育成や支援は、業界全体のために進めている。多くの優れた作品が生まれる環境を整えた結果として、ソニーグループの中期経営計画にもプラスの影響を及ぼすことを期待している。また、配信プラットフォームとしての競争力を磨くことが、自社IPの広がりにつながる。クリエイションシフトにより、自社IPを育成し、成功につなげることは重要なことである」(十時社長 COO兼CFO)と述べた。
映画では、映像コンテンツの制作効率と作品品質の向上に向けて、Epic GamesのUnreal Engineの活用が拡大しているのに加えて、バーチャルプロダクションやアドバンストビジュアライゼーションの活用も広がりをみせるいる。さらに、SPE傘下のPixomondoがEpic Gamesと連携して、これらの技術を駆使できる映像クリエイターの育成に取り組んでいるという。
ゲームにおけるIP活用では、実写映像化がある。2019年にPlayStation Productionsを立ち上げてからゲームIPの映像化に着手。現在は、「Horizon」や「God of War」などの映像作品の制作を進めているところだ。また、「アンチャーテッド」などのゲームIPを、ロケーションベースエンタテインメント(LBE)に展開していることも示した。
音楽においては、新たなIPを生み出すユニークなアプローチとして、YOASOBIが小説を音楽にするプロジェクトを推進。乃木坂46やStray Kidsに代表される熱量の高いファンを持つファンダムアーティストを育成し、ファンコミュニティを拡大している。そのほか、アーテイストの伝記映像化を進めており、グラミー賞を獲得したLil Nas Xのドキュメンタリーや、、ビートルズの各メンバーの視点から歴史を振り返る伝記映画4本の同時制作も進めているという。「音楽という枠組みを超えて、ファンにIPを届けている」とした。
スポーツでは、Hawk-Eye Innovationsのトラッキングシステムによって、プレー中の選手の骨格などのデータを取得し、Beyond Sportsの技術によって。リアルタイムで3Dアニメーション化を実現。新たなエンタテインメントコンテンツを創出している。「若年層のエンゲージメントを高め、スポーツの発展に貢献している」と述べた。
一方、LBEについても言及。「LBEは市場規模が大きく、先進国を含めて今後の成長が期待される分野である。ソニーのIPと、ゲームやセンシング、映像、音響といった技術との掛け合わせによって、没入体験を提供するアトラクションを世界各地で展開し、究極の没入体験を提供して、事業としての成長を目指す」と語った。
そのほか、IPをグッズ化し、ファンの愛着を高めるマーチャンダイジングにおいては、グループ間連携を加速。また、自動車の車内を、パーソナラズされたエンタテインメント空間に捉え、センシングデータなどから搭乗者や周辺環境を把握しながら、最適なエンタテインメントコンテンツを提供するモビリティ分野でのIP強化を推進。ソニー・ホンダモビリティなどとともに取り組むことになるという。
さらに、「IP360」の取り組みは自社だけに留まらないことを強調。実在のオブジェクトを高品位な3Dモデルに変換するハイクオリティスキャンソリューションを活用することで、「ガンダムメタバース」内に、スキャンガンプラを展示するといったパートナー企業のIP展開にも貢献している事例を紹介した。
IP価値の最大化を支える技術基盤としてあげたのが、「センシングおよびキャプチャリング」、「リアルタイム3D処理」、「AI技術および機械学習」、「エンゲージメントプラットフォーム」の4つである。
「センシングおよびキャプチャリング」では、ボリュメトリックキャプチャスタジオによる映像制作を紹介。360度取り囲んだカメラで動いている物体を撮影し、3Dデータに変換。これをアセットとしてストックし、様々なコンテンツ制作で活用できるようにする。今後は、蓄積した3Dアセットを組織横断で活用するほか、外販も検討するという。
「リアルタイム3D処理」では、Epic Gamesとの連携を深める。すでに、バーチャルプロダクションで撮影したミュージックビデオと、同じ世界観で遊べるゲームを制作しているほか、CGを活用したショートフィルムをリアルタイムに制作する実証実験も開始している。
「AI技術および機械学習」では、「Marvel’s Spider-Man 2」において、ゲームに特化した独自の音声認識ソフトウェアを使用することで、一部の言語では、登場するキャラクターのセリフに合わせて自動で字幕のタイミングを同期。字幕の制作工程の大幅な短縮を実現したという。また、多言語社会であるインドでは、映像コンテンツの吹き替えや翻訳の工程短縮の研究を進めており、映像作品をより多くのファンに、短期間に、低コストで届けることを目指しているという。
そして、「エンゲージメントプラットフォーム」では、コンシューマ向けインターネットサービスとして世界10位以内に入る配信量を誇るPlayStation Networkのネットワーク基盤で使用されているアカウント、広範な決済方法、多くの通貨への対応、強固なデータ基盤やセキュリティなどのコア機能を、Crunchyrollの基盤に展開することで、ソニーグループとしてのエンゲージメントプラットフォームへと発展させる計画を発表。今後は、日本のソニー・ミュージックが運営するICCOMOTTOをはじめ、ソニーグループ全体の各種サービスのID共通化を進め、モビリティやLBEなどに向けたグループ内の新規ネットワークサービスの展開をサポート。将来的には、ファンエンゲージメント特化型の共通プラットフォームとして、広くエンタテインメント業界で活用される環境の構築を目指すという。
さらに十時社長 COO兼CFOは、「M&Aにより、エンタテインメント事業を中心に専門ノウハウを持った仲間が増えていることは、多様性の観点からも、ソニーグループに新たな考え方や知見をもたらしている。外国籍役員比率や女性管理職比率を高めており、境界を超えたIP価値最大化を進めるとともに、事業と人材の多様性を継続的に進化させ、長期視点での価値創出とさらなる成長の実現を目指す」と述べた。
なお、プレイステーション事業については、吉田会長 CEOは、「現世代のコンソールゲームとしては大変成功しているプラットフォームである」と発言。十時社長 COO兼CFOは、「2023年度は目標台数には到達していないが、コロナ禍の追い風があった時点でのアグレッシブな目標であり、販売は巡航速度で順調に進んでいる。高いシェアを維持しており、満足できる水準であると評価している」とコメントした。
感動を「創る」、新たなソニー黄金時代が到来する?
吉田会長 CEOは、「前中期経営計画は未来のために投資をするフェーズだったが、新たな中期経営計画では、投資をして、獲得してきたIPをしっかりと活用し、リターンを得るフェーズに入っている。エンタテインメントは成長市場である。クリエイションにシフトすることも成長市場へのアプローチにつながる。20世紀のソニーは、ウォークマンやCDなど、感動を届けることに貢献してきた企業であったが、21世紀のソニーは感動を創ることに貢献したい。強みが発揮できるのは、クリエイションコミュニティに貢献することである。また、リアルタイムはソニーグループの強みが発揮でき、貢献できる部分である。そこで価値を見出したい」と話す。
また十時社長 COO兼CFOは、「ソニーグループのステージは変わってきている。過去10年におよぶポートフォリオのスリム化、赤字事業の縮退を経て、利益成長を遂げることができる現在がある。いまは大きな問題を抱えている事業はない。業界全体の成長や競合企業の成長を見据えた上での成長戦略へと変わっている。だが、次の成長事業も作り出していかなくてはならない。それが、現経営陣の大きなテーマである」と述べている。

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