大相撲を面白くしている外国人力士、その活躍の軌跡
夏場所では横綱照ノ富士が4場所ぶりに土俵に上がり優勝した。
また、4人の関脇が揃って2桁勝利する史上初の快挙を見たように、上位陣の活躍で土俵は盛り上がりを見せた。
こうした復活には外国出身力士が大いに関係している。
ロシアがウクライナに侵攻して以降、安全保障が国際的な関心事項となっている。国家間の問題や争いは基本的には話し合い、すなわち外交で解決することが原則であり、友好国の多寡は外交を左右する。
日本には多くの国から全権大使が駐在し、あらゆる機会をとらえて友好親善に努めている。
しかし、大使以上に相互理解をもたらしているのが外国出身の力士たちではないだろうか。
満身創痍を克服してきた照ノ富士
一度は大関まで上がりながら体の故障で序二段まで陥落した照ノ富士は廃業も頭をよぎったという。
しかし説得され、自らも決意を新たにして再起を誓う。
三役まで復活した時には横綱を目指すと言葉少なに語り、達成した。今回8回目の優勝を果たした後のインタビューでは二桁優勝を目指す決意を明かした。
満身創痍でありながら自分の意志で故障を克服し、目標を手に入れてきた照ノ富士である。二度あることは三度あるで、来場所でも新たな目標に向かって渾身の活躍を見せるに違いない。
関脇の活躍に見たように若手の台頭も著しい。
関脇の一人は大関に昇格した。残る3人も来場所の成績如何では昇格する。照ノ富士は相当の覚悟を持って早めに目標をクリアしないといよいよ難しくなるであろう。
横綱が活気をもたらしている要因はいくつも挙げられるが、筆者が思う最大のものは堂々たる立ち合い、まさしく横綱にふさわしい悠然として正面から受けて立つ姿勢にあるのではないだろうか。
外国人力士の活躍
八百長騒ぎや野球賭博などの不祥事が重なり大相撲界が危機に直面した折、外国出身の力士たちの活躍が救いとなった。
平安時代以来続く大相撲でありながら、活躍の象徴と見られる優勝回数で2桁台を記録した横綱は大鵬の32回をはじめとして千代の富士(優勝回数31回、以下同)、北の湖(24回)、貴乃花(22回)、輪島(14回)、双葉山(12回)の6人しかいなかった。
そこに30年前から米国出身の曙(11回)、武蔵丸(12回)が登場し、20年前からはモンゴル出身の朝青龍(25回)、そして白鵬(45回)の登場である。
モンゴル出身力士で大関になった力士は必ず横綱に上り詰めている点からは、今場所後に大関に昇進した霧馬山(四股名改め霧島)の奮闘が期待される。
象徴的な存在としての横綱まで上り詰めた外国人力士は米国(ハワイ州)とモンゴル出身者しかいない。
現在幕内で活躍している外国出身力士は9人で、うち横綱、大関、関脇各1を含む7人はモンゴル出身で、残り2人はカザフスタン(金峰山)とブルガリア(碧山)出身である。
場所中に引退表明した栃ノ心はジョージア、逸ノ城はモンゴル出身で、共に優勝も経験している。
現役で優勝経験のある外国出身力士は照ノ富士と霧島、玉鷲(共にモンゴル出身)である。
米国とモンゴル出身力士が多くの優勝を重ねているが、両国以外の力士で優勝したのは琴欧州(ブルガリア)、把瑠都(エストニア)、そして先に挙げた栃ノ心である。
幕内42人中の16人、実に3人に1人が外国人力士であった時(2016年)もある。
16人の内訳はモンゴル8、ジョージア3、ブルガリア、ロシア、中国、ブラジル、エジプト各1で、外国色が最も多彩な時期であった。
翌2017年3月場所時点では現役力士621人中、23人がモンゴル勢で、うち12人が関取(幕内・十両、うち横綱3・大関1・関脇1)であったという記録もある。
上昇志向と努力の結果ではないだろうか。
これまでに20カ国以上の国から力士が出ており、その多くは功をなし名を知られている。このため日本との橋渡しにおいても、大使以上の活躍さえ期待できよう。
金字塔を打ち立てた白鵬
中でも白鵬は今後何十年、いや何百年も破られそうもない45回の優勝という金字塔を打ち立てた。
人生の一生が「守破離」で例えられるように、白鵬の相撲を三段論法でみるならば、入門から大関までの約5年間は、相撲道はもちろん、日本の伝統・文化、中でも言葉を吸収しようと一心であったという。
日本のしきたりに溶け込み、相撲の基本に忠実であろうとする「守」に徹したのだ。
筆者が防衛協会連合会に所属して日本に留学している外国軍将校と家族を国技館に連れて行き始めた頃(2008年)は、横綱になったばかりで最も好感がもたれる関取であった。
「剛」の朝青龍が日本の相撲を牽引していたが土俵外の行動で顰蹙を買うことも多く、「柔」の白鵬に対する期待は大きかった。
朝青龍を超えるという目標もあったろうが、大鵬を訪ねて横綱の心構えを磨き、双葉山の「後の先」を知り立ち合いの研究に努力する。
こうした偉大な先人に勝って相撲界の頂上に立ち、双葉山の連勝記録や大鵬の優勝回数に迫るという明確な目標を立てた「破」の段階と言えよう。
「離」は「守」に根を置きながら先人たちの記録を破った先に聳え立つ、誰も到達したことがない高みを目指して道を拓くことではないだろうか。
白鵬は伝達式の口上で「横綱の地位を汚さぬよう、精神一到を貫き、相撲道に精進いたします」と、横綱の「重み」を意識している。
大鵬の45連勝を破って「自信を得た」白鵬は優勝を重ねながら数々の記録を塗り替えていく。
しかしながら、双葉山に学んだという「後の先」を忘れ、双葉山の69連勝や大鵬の優勝回数(32回)超えだけが目標になったかのように「勝つ」ことにこだわる。
立ち合いは荒くなり、判定へのクレームなども激しさを増し、相撲道から外れたようで、必ずしも褒め言葉では彩られないようになっていく。
隔絶した記録を残す一方で毀誉褒貶を伴った白鵬であるが、相撲界に喝を入れたことは間違いない。
おわりに・・・日本文化の体得と橋渡し
日本という国に対する知識がほとんどないままにやって来た外国人力士たちであろうが、入門後の勉学と相撲に対する熱意で、関取までなったものが多い。
そして、彼らは日本人、中でも相撲ファンに独特の印象を与えてきた。
国民の多くは外国人力士の活躍に好感を持っており、そのことが彼らを勇気づけ、自国と日本の相互理解に寄与する面は大きい。
こうしたことが、彼らの出身国と日本の橋渡しとして有効に機能することは言うまでもない。
今日の世界は侵略戦争を禁止している。国家間の各種問題は基本的には外交で解決しなければならない。
この外交においてはなるべく多くの国の賛同や支持を勝ち取り、国際的な圧力に持っていくことが重要である。
来日力士たちを丁寧に迎えることは相手国の尊重につながり、安全保障を考えるときの有力なコマともなりうる。
ゆめゆめ、対応を疎かにすべきではない。
帰化する力士も多く、言うなれば最前線に立っている民間外交の担い手ともなりうる人士たちではあるまいか。
筆者:森 清勇
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