【弘前大学】有性化因子の抽出技術の開発 ―吸虫症撲滅を目指した創薬開発の手がかりに―
Digital PR Platform2023年12月8日(金)14時5分
弘前大学(青森県弘前市)農学生命科学部・小林一也教授らの研究グループは、吸虫類の体外培養系確立のために有効であると予想される「有性化因子」の抽出方法を開発した。今後、有性化因子によって確立された培養系を新たなプラットフォームにして研究が進むことで、吸虫類による健康被害や経済的損失の軽減につながることが期待される。この研究成果は、2023年10月27日に国際科学誌「STAR Protocols」にオンライン掲載された。
【研究の内容】
自由生活性のプラナリアから派生したといわれる寄生性の吸虫類は、扁形動物の中で最も繁栄しているグループである。吸虫類の多くが発達段階と宿主の移行に沿って無性世代と有性世代を切り替えており、この生殖様式の転換が彼らの繁栄の礎になっている。
多くの吸虫類は、有性世代が哺乳類の内臓(肝臓や肺など)に寄生することで吸虫症を引き起こし、世界規模での問題となっている。哺乳類の体内で成熟する吸虫類を体外培養することができれば、吸虫症による健康被害の軽減などにつながる研究のプラットフォームとなることが期待される。
一方、プラナリアは季節などの環境要因で、分裂・再生による無性生殖と、生殖細胞を形成して他個体と交尾する有性生殖とを切り替える。プラナリアでは無性個体に有性個体をエサとして与えることで無性状態から有性状態に誘導(有性化)できることが古くから知られていて、このことは有性個体に「有性化因子」と呼ばれる生理活性物質が含まれていることを意味している。
弘前大学農学生命科学部の小林一也教授と坂元君年准教授らのグループは、令和5年1月に、寄生性扁形動物である吸虫類にもプラナリアの有性化を引き起こす化学物質「有性化因子」が含まれていることを明らかにした(Sekii et al. 2023 iSCIENCE)。
プラナリアで機能する有性化因子が寄生性の扁形動物にまで広く保存されていたことから、その下流の分子機構も吸虫類で保存されており、有性化因子が吸虫類の性成熟を誘発・促進する可能性を強く示唆している。
今回、研究グループが開発したプラナリアや吸虫類から有性化因子が濃縮された活性画分を用意するための手法を、国際学術誌「STAR Protocols」で公開した。具体的には、材料のホモジナイズの手順、抽出サンプルの濃縮、オープンカラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー※1の手順、そして、得られた画分に含まれている有性化活性を検定するために実験的に有性状態への転換をうながすことができるプラナリア、リュウキュウナミウズムシ※2(図1)を検定生物とした生物試験法について詳述している。
研究グループでは、得られた活性画分を培地に添加することで吸虫類の体外培養に有効である予備結果を得ている。今後、有性化因子によって確立された培養系を新たなプラットフォームにして、有性化因子を出発とした性成熟の分子機構の解明や創薬研究が進めば、吸虫類による健康被害や経済的損失の軽減につながることが期待される。
この研究成果は、2023年10月27日に国際科学誌「STAR Protocols」にオンライン掲載された。
■語句説明
※1:高速液体クロマトグラフィー
サンプル中に含まれる物質を化学的な性質(分子の大きさや極性など)によって分離し、検出できる方法。どのような化合物かまでは分からなくても、サンプル中にそれがどれくらい含まれているか、他の物質と分離して調べることができる。
※2:リュウキュウナミウズムシ(Dugesia ryukyuensis)
プラナリアは和名をウズムシとよぶ。本研究では、1984年に沖縄で採集されたリュウキュウナミウズムシ(Dugesia ryukyuensis)1個体に由来する無性クローン集団、OH株(沖縄[Okinawa]で採集して弘前[Hirosaki]で株化したことに由来する)が用いられた。
▼本件に関する問い合わせ先
弘前大学農学生命科学部生物学科
小林 一也教授
住所:青森県弘前市文京町3番地
TEL:0172-39-3587
メール:kobkyram[at]hirosaki-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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