泥酔した当直医が患者を死に追いやる北朝鮮の医療施設
今年の旧正月の明け方、北朝鮮北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)鏡城(キョンソン)在住の男性が激しい腹痛を訴えた。病院に運ばれたものの結局は亡くなってしまった。
この件で、咸鏡北道検察所が捜査に乗り出した。詳細を現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
鏡城在住の中年男性Aさんは、旧正月(1月22日)の明け方、急に激しい腹痛を訴え、家族に背負われ午前8時ごろに鏡城郡病院に到着した。Aさんは以前に腸閉塞を患った前歴があり、家族はそれが急激に悪化したものと考えた。
この日、病院で当直だったのは救急科と歯科の医師それぞれ1人。ところが、旧正月とあって救急科の医師は酒を飲みすぎて泥酔状態。だからといって歯科医師に腸閉塞は治療できず、結局は咸鏡北道病院の診療依頼書を渡しただけで追い返してしまった。
北朝鮮は「医療は無償」だと宣伝しているが、現実は異なり、医師や看護師にワイロを掴ませなければ治療を受けられなかったり、後回しされたりする。それなりの額のワイロを渡せば、夜中であっても専門の医師を呼び出すことも可能だったかもしれない。
咸鏡北道病院は、鏡城に隣接する清津(チョンジン)にあり30キロほど離れているため、車で搬送するしかない。腸閉塞は、緊急手術を受けなければ死に至る場合もあり、一刻を争うものだ。しかし旧正月当日とあってか、あちこち当たってみても乗せてくれる車が見つからず、家族の焦りは募りばかり。
コネを通じてようやくトラックを調達し、大急ぎで出発したものの、まもなくAさんは意識を失った。到着した病院では緊急措置を受けたが、血圧は低く、脈も不安定な状態が続き、結局は帰らぬ人となってしまった。
Aさんの遺族は「適時に治療を受けていれば生きられたのに、郡病院の無能さで命を落とした」として、当直医師2人の処罰を求めて激しい抗議の声を上げた。
これを受けて咸鏡北道検察所は捜査に乗り出し、医師2人を呼び出して取り調べを行っている。情報筋によると、検察は郡病院の医師の無能さを指摘し、彼らのみならず院長など責任イルクン(上層部)まで連帯責任を追及している。今のところ、どのような処罰が下されたかは明らかになっていない。
また、咸鏡北道当局は、道内のすべての病院に対して今月1日、人民の生命に責任を持つという使命を果たせと警告を込めた指針を下した。
しかし、深刻な医薬品不足、ワイロを受け取らなければ生きていけないほどの薄給など、形骸化した無償医療制度の根本的な改善なくして、その使命を果たすことはできないだろう。
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