金正恩に「残酷な証拠写真」を撮られた軍幹部らの悲惨な運命
北朝鮮の金正恩党委員長が、すでに4週間も公開の場に現れていない。1カ月前に出回った「重体説」や「死亡説」がガセネタだったことから、今回は彼の「不在」を疑問視する向きは少ないようだ。
それにしても、北朝鮮の体制は独裁者あってのものだ。それにもかかわらず、金正恩氏が長期間にわたり動静を伏せることができるのは、それしきのことで体制は揺らがないという自信の表れだろうか。
そんな金正恩氏も執権初期には、非常に大きなコンプレックスを抱えていた時があった。脱北者で、韓国紙・東亜日報の記者であるチュ・ソンハ氏が自身のブログで、そのことをよく知ることのできるエピソードを伝えている。
2013年10月23、24日の2日間、平壌で朝鮮人民軍第4回中隊長・中隊政治指導員大会が開かれ、約2万人の軍幹部らが参加した。大会2日目、会場に金正恩氏が現れると、参加者らは割れるような拍手を送り、熱狂的に万歳を叫んだという。
だがこのとき、金正恩氏の様子におかしなところがあった。左手に、書類のファイルを抱えていたのだ。「権威を重視する北朝鮮において、指導者が自ら書類ファイルを抱えて出てくるのは珍しいことだ」とチュ氏は解説している。
金正恩氏は自分の席に着くと、ファイルを「バン!」と机に叩きつけるように置き、場内が静まり返るや口を開いた。
「これから名前を呼ぶ者は前に出てこい。第〇軍団第〇師団第〇連隊の中隊長・金〇〇、第〇軍団……」
その声には殺気がこもっており、名前を呼ばれた将校たちの身に不幸が降りかかるであろうことは明らかだった。会場の空気は凍り付いたという。唾を飲み込む音も聞こえそうな静寂の中、十数人の将校が前に呼び出された。その中には師団政治指導員や幹部部長(人事部長)ら高位将校も2人含まれていた。
金正恩氏はファイルを開き、中から複数枚の写真を取り出した。
「おい、お前。記念に持ってけ」
金正恩氏はそれらの写真を、十数人に投げつけるように渡した。
「大会参加者の証言によれば、写真を受け取り回れ右した将校たちの顔は瞬時に土色に変わり、脚が震える様子が遠くからも判別できたという」(チュ氏)
いったい、あの写真は何か。大会参加者らが考えを巡らせるまでもなく、金正恩氏が怒声を発した。
「あいつらは昨日、オレの前で寝たやつらだ。オレが若いから舐めてるのか!?」
金正恩氏は大会1日目、居眠りする参加者の写真を密かに撮らせ、所属部隊などのプロフィールを調べ上げていたのだ。写真を渡された将校らは両脇を兵士に抱えられ、どこかへ連行されてしまった。
政治イベントで無味乾燥な演説を何時間も聞いていれば、誰だって眠気に襲われるものだ。ただの居眠りのせいで抹殺されてしまうとは、これほど残酷なこともない。
金正恩氏は続けて、呼び出された将校たちの上官を起立させ、恐ろしい剣幕で叱りつけたという。チュ氏によれば、ある参加者は「恐ろしくて死ぬかと思った」と回想したという。
金正恩氏はこの大会から1か月半後、叔父である張成沢(チャン・ソンテク)国防副委員長を国家転覆陰謀罪で逮捕し、処刑してしまった。それからしばらく、北朝鮮では粛清の地の雨が降ることになった。
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