「性拷問」の証言も…北朝鮮「外国人人質」作戦はいつまで続く
米大学生のオットー・ワームビアさんが、北朝鮮から帰国後に死亡してから19日で1年になった。北朝鮮はこの件について、なおも公式に謝罪していない。
ワームビアさんは北朝鮮を旅行中に拘束され、裁判で労働教化刑を受けた。2016年1月から翌年6月まで拘束された後、昏睡状態で釈放。同月12日に帰国したが、意識を取り戻さないまま死亡した。
オットーさんの両親は2017年9月26日、米FOXニュースの番組に出演し、ワームビアさんには北朝鮮当局から拷問された跡があったなどと語った。また、トランプ米大統領は同日、ツイッターでインタビューに言及し「オットーは北朝鮮から信じがたいほどの拷問を受けた」と非難した。
北朝鮮にとって、スパイ容疑などで捕まえた外国人は人質外交やプロパガンダの材料などとして「利用」するためのものだ。後で記者会見に引っ張り出す必要があるから、凄惨な暴力を振るわれたとする事例は報告されていない。ただ、かつて北朝鮮に43日間に渡って拘束された韓国系米国人が、「性拷問」のビデオを撮られ、それを公開すると脅されたと証言したことはある。
実際のところ、ワームビアさんの死因が謎のままであるのも事実だ。前述したインタビューによれば、彼の身体には原因不明の負傷が数多く見つかった。下の歯は並び替えられたような痕があり、右足には大きな傷痕が残り、両手両脚は「完全に変形した」状態だったという。
ところが翌日、これを否定する証言が出てきた。AFP=時事は28日、次のように報じた。
〈米国人学生オットー・ワームビア(Otto Warmbier)氏(当時22)について、司法解剖を行ったオハイオ(Ohio)州の監察医は27日、同氏が拷問を受けた明らかな痕跡は見つからなかったと発表した。(中略)骨折や歯の損傷もみられなかったと述べた。〉
ちなみに、オットーさんの遺体は両親の意向により、司法解剖が行われなかった。この記事は「検視」と訳すべき部分を、時事が誤訳したようだ。
いずれにしても、両親と監察医の証言は食い違っている。ワームビアさんが拷問されたかについては、北朝鮮の責任を追及する材料は揃っていない。
だが、外国人を意のままに拘束し、対外交渉のための人質のように使う北朝鮮の態度は指弾されてしかるべきだろう。実際、北朝鮮は5月に拘束していた米国人3人を解放。米朝首脳会談に向けた事実上の「手土産」とした。
これに対するトランプ氏の態度もいただけない。同氏は米朝首脳会談の際、記者からの問いかけに対して「ワームビアさんの残念な死があり、米朝首脳会談まで来れた」「彼の死はムダではなかった」などと語るにとどまった。まるで、北朝鮮の「人質作戦」を公認したかのような発言だ。
北朝鮮当局が、自国民に対して平気で拷問を加え、残忍な処刑を行っているのは周知の事実だ。
対象が自国民であれ外国人であれ、基本的な人権を無視し、公正な裁判の機会さえ与えない恐怖政治が存在しないことこそが、北東アジアにおける安全保障の最大の問題なのだ。これがなければ、北朝鮮の国民はいつでも体制批判の声を上げることができる。そうなったら、一体どれだけの人が、経済制裁に苦しみながら核開発を続ける選択をするだろうか。
非核化を求めながらも、北朝鮮問題の本質を見逃してはならない。
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