詐欺事件のターゲットになる北朝鮮の脱北者家族
韓国に住む多くの脱北者は、北朝鮮に残してきた家族に仕送りをしている。北朝鮮当局の厳しい取り締まりの影響で減少傾向にあるが、昨年の調査では、回答者の約2割が家族に送金したと答えている。
韓国政府の策定した、2022年度の4人家族の1ヶ月の最低生活費は、307万ウォン(約31万5000円)。一方の北朝鮮では、50万北朝鮮ウォン(約1万円)。つまり、韓国からの仕送りは、たとえ少額であっても、北朝鮮ではかなりの価値を持つのだ。すべてが仕送りを受け取っているわけではないが、「脱北者家族といえば金持ち」という認識が北朝鮮の人々にはあるようだ。
そんな脱北者家族を狙った犯罪が多発していると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。
中国との国境に面した会寧(フェリョン)で今月初め、40代女性のもとに、保衛員(秘密警察)を名乗る2人の男がやってきて、「カネを出せ」と脅迫した。女性は「見逃してくれ」と頼み込んだが、結局は、最近送金ブローカーを通じて韓国に住む家族から受け取った2万元(約40万円)を渡してしまった。
保衛員が、あれこれ理由を並び立てて、脱北者家族からカネを奪い取るのは日常茶飯事。信じてしまうのは無理もない。
女性はしばらく経ってから、2人の男はもしかしたら保衛員じゃなかったかもしれないと思うようになり、おそるおそる会寧市保衛部に確認してみた。すると、やはり2人は保衛員でなかったことが判明した。
送金ブローカーと詐欺師がグルになっての犯行だと思い、女性はブローカーのところに押しかけ「家族がカネを送ってきたことは、自分たちしか知らないはずだ、グルになって詐欺を働いたのではないか」「保衛員を名乗った詐欺師はどこにいる」などと詰問した。
しかし、ブローカーは「自分とは関係のないことだ。南朝鮮(韓国)から送ってきたカネを受け取るのは合法でないのに、騒ぎ立てて損をするのは誰か」と逆ギレしたという。
実際、カネを騙し取られたとしても、どこにも訴えることができないばかりか、最近、国境沿いの地域から脱北者家族をリストアップして、奥地に追放する作業が行われていることから、下手に騒ぐのはリスキーだ。詐欺師はそれを利用したというわけだ。
結局、彼女は一銭も取り返せないまま、引き下がるしかなかった。
こんな多額の詐欺事件ではなくとも、コロナ鎖国で経済難にある北朝鮮では、窃盗、強盗など様々な犯罪が多発している。しかし、安全部(警察)は、捜査に積極的でないため、自分の身は自分で守るしかないような状況だ。
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