北朝鮮「国家財産」盗まれ大問題…コロナ禍で食い詰め深刻
北朝鮮では過去、犯罪が多発した時期があった。一つは、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころだ。国による配給システムが崩壊し、食べ物を得るすべを持たなかった人々が次々に餓死していった。
一般人同士の犯罪が多発する一方で、燃料、原材料不足で操業停止となった国営工場から設備を盗み出す人が相次いだ。北朝鮮の刑法は、91条から94条の4つを、国家財産の窃盗、横領、搾取に当てているが、これはその当時の状況を反映したものだ。
もう一つ、犯罪が多発した時期として挙げられるのは、2009年の貨幣改革(デノミネーション)の後だ。
金正日氏は、なし崩し的に進む市場経済化を食い止めて経済の主導権を国の手に取り戻すために、貨幣単位を100分の1に切り下げるデノミネーションを断行した。新券交換にあたって、地下経済に蓄積された富を収奪するために新券交換の額には上限を設けたことで、その結果、全財産を失った人たちが暴動を起こし、市場からは売り惜しみで物資が消え、餓死者が続出するなど、国は大混乱に陥った。
そして、2020年。国際社会の制裁に加えて、相次ぐ自然災害、新型コロナウイルスの対策の余波で、深刻な不況に襲われているが、国家機関、工場、企業所、協同農場での窃盗事件が相次いでいると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
RFAが平安北道(ピョンアンブクト)の幹部の話として伝えたところでは、龍川(リョンチョン)の協同農場では、ある日の夜中に、畑の高麗人参がすべて盗まれる事件が起きた。犯人は複数人からなるグループだったという。高麗人参は栽培に数年かかるが、非常に高価で取り引きされるもので、国家財産として扱われている。
捕まれば、重罪に問われるのは言うまでもない。
このように国家財産が盗まれる事件は、9月だけで全国的に10数件も発生している。幹部はその原因について、新型コロナウイルス対策としての貿易停止、相次ぐ台風の被害による物価が上昇を挙げている。大きなダメージを受けた人々は、手当たりしだいに盗みに入って、品物を売り払い、食べ物を買っていると説明した。
事件の増加を受け、社会安全省(警察庁)は、社会安全省は、国家機関、工場、企業所、協同農場に対して武器を供給し、食糧倉庫などの武装警備を行し、特異事項を毎日人民委員会(市役所)や安全部(警察署)に報告するよう指示を下した。
別の幹部によると、住民は国の対策について否定的な反応を示している。
「最近起きている盗難犯罪は、ほとんどが生計型犯罪だ。根本的な対策を取るには国が人民の生活安定のための案を出さなければならない。それなのに武装自衛隊(自警団)の立ち上げ指示など、暴力的で強圧的な方法で問題を解決しようとするのはナンセンスだ」(前出の幹部)
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