ある美人女子大生が金正恩への遺書に込めた「怒りの叫び」
韓国のニュースサイト、リバティ・コリア・ポスト(LKP)は8月28日付で、北朝鮮の首都・平壌で大規模な粛清が進行中だと伝えている。
LKPによると、秘密警察である国家保衛省と軍の保衛司令部が1200人余りの幹部クラスを拘束し、反国家行為の容疑で調査。また、この続報として出た10月28日付の記事では、同容疑による調査は今年9月までに9千件にも上ったと伝えている。
このような情報は、今のところLKP以外の媒体では言及されていない。ただ、気になる動向もある。北朝鮮では、制裁不況が深刻化する中で治安が悪化していると伝えられているが、この状況が、1990年代に「深化組事件」が起きたときのそれとよく似ているのだ。
同事件は、「苦難の行軍」と呼ばれた未曽有の食糧危機のさなか、民衆の不満が体制に向かわないようにするために、金正日総書記がでっち上げた大規模なスパイ事件である。同事件では、2万5千人もの人々が犠牲になったと言われる。
現在の北朝鮮もまた、制裁不況により深刻な経済難の中にあると言われる。金正恩党委員長が「民衆の不満」が向かう方向に危機感を抱いたとしても、決して不思議ではない。
ただ、配給システムが破たんしてなし崩し的な市場経済化が進んだ現在の北朝鮮国民の意識は、すでに1990年代とはかなり変化している。国家に頼らず自分たちの力だけで生き抜いてきた人々の自律性は相当に高まっており、体制のウソにやすやすとは絡めとられない。
LKPによれば、平壌で8月中旬、21歳の女子大生が投身自殺する事件があった。そしてその女子大生は自ら死を選択するに当たり、金正恩党委員長に宛てた手紙形式の遺書を書いていたという。
平壌で貿易業に従事するLKPの消息筋によれば、この女性は、海外の北朝鮮レストランで働く「美人ウェイトレス」らも養成する、平壌の商業総合大学の学生だったという。
この大学は若い女性に人気の「狭き門」であり、学生の多くはエリート家庭の出だ。彼女の父親も、軍の護衛司令部に勤務していたとのことだ。しかし、今回は父親の経歴が悲劇の発端になったようだ。女子大生の父親も反国家行為の容疑で拘束され、そのまま消息不明になっているというのだ。
このようにして父親が罪に問われた場合、妻は強制離婚させられ、子供と一緒に地方へ追放されるのが普通だ。当然、大学からも追放される。女子大生が自ら死を選んだ理由もここにある。
そして、彼女は死に際して、金正恩氏に宛てた遺書を残していた。LKPの消息筋によれば、そこには金正恩氏に対し、「私たちの父のような忠臣の中の忠臣を陥れた悪い奴らを断罪してほしい」との内容があるという。素直に読めば、彼女は金正恩氏に対して敵意を抱いていないように思える。
だが、消息筋の解説は違う。ことの背景を知る平壌市民がこれを読めば、金正恩をはじめとする権力層に対する、怒りの叫びであると理解するはずだという。
金正恩氏は政権の座について以降、彼女とそう年齢の違わない人々も容赦なく粛清してきた。その恐怖に抗う術のないことを、彼女もよく理解していたのだろう。
それでも死を覚悟した人間は、このような形で権力に一矢を報いることもできる。制裁による困窮がいっそう強まれば、このような試みが今後も続く可能性は小さくないだろう。
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