北朝鮮「陸の孤島」が震撼する、ある家族の全滅事件
「朝鮮の宝」とまでいわれ、北東アジアで最大規模の埋蔵量を持つ、北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)郡に位置する鉄鉱山「茂山鉱山」。その利益で街は潤い、人々は北朝鮮国内のレベルとしては豊かな暮らしを営んでいた。
しかし、それも今は昔の話だ。
国連安全保障理事会の制裁決議で鉄鉱石を含めた鉱物資源の輸出が禁止されたことで、致命的なダメージを受けてしまった。その後も、細々と密輸が続けられてきたものの、昨年1月からのコロナ鎖国で、密輸も困難になってしまった。
鉱山の稼働が止まり、国境が閉ざされてしまえば、大都市や商業都市から隔絶されたこの地は「陸の孤島」も同じだ。
そんな茂山で起きた悲劇を、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
今回の話の主人公は、茂山鉱山に務める労働者。妻共々、コチェビ(ストリート・チルドレン)を収容する中等学院出身で、卒業後に、労働力が不足する職場に集団で人を送り込む「集団配置」で茂山鉱山に配属になった。
彼らがいつ茂山にやって来たのかはわからないが、一切の縁故がないため援助も得られず、苦しい暮らしの中で3人の子どもを育てていた。
そんな彼が突然、鉱山を数日にわたり無断欠勤した。同じ坑道で働く労働者が不審に思い、彼の家を訪れたところ、5人家族全員が倒れているのを発見した。
家族は経済的に追い詰められ、薄い粥を日々の糧としていたが、それすらなくなり、いわゆる「絶糧世帯」となっていた。5日前から水だけを飲んで生きていたが、貧血になり倒れ、そのまま餓死したようだ。
食糧難の深刻さを知った金正恩総書記は今年7月、軍用の食糧である軍糧米を放出し、人民に配給するよう特別命令書を出したと伝えられているが、一家に届いていたかは不明だ。
この事案が報告されるや、現地は震撼した。人民班長(町内会長)、地区班長、職場のイルクン(幹部)、作業班長、職盟(朝鮮職業総同盟)委員長、細胞書記などが、郡党(朝鮮労働党茂山郡委員会)と鉱山内の党委員会に呼び出された。
そして「一人は全体のために、全体は一人のために」という朝鮮労働党第8回大会の精神はどこに行ったのか、住民が死の淵にいるのに面倒を見ないとは何事か」「こんなに貧しく飢えている家族を死なせてから気づくとは、何をしていたのか」「本人たちが餓死する前にわれわれが把握できなかったことは大惨事だ」などと、激しく叱責された。
郡党は同時に、人民班、作業班ごとに絶糧世帯はいないか把握し、人民班長と作業班の細胞書記が家々を回り、米びつと釜を見て食糧がどれくらい残っているか実態を調べ、報告せよと命じた。
また、将軍様(金正日総書記)の命日(今月17日)までにすべての住民の生活実態を把握、対策を立てて、餓死する住民が出ないように無条件で対処するように布告を下した。
だが情報筋は「そんな家が一つ二つではなく、茂山郡の住民全体がなんとか生きている状況で、国の援助なしに郡党の力だけで、この状況を正すのは難しい」と述べている。
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