北朝鮮軍の将校が訓練そっちのけで「借金」に走るワケ
朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は今月1日から、冬季訓練の期間に突入した。来年3月までの期間中には様々な規模の訓練が行われる。
北部の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)に駐屯する国境警備隊の第25旅団も、他の部隊同様に訓練に突入したが、どういうわけか軍官(将校)たちは、訓練そっちのけで金策に走っている。その理由を現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
第25旅団の軍官たちは、訓練の始まる15日前から、財産を持っていそうな知人や地域の民間人の家を訪ね歩き、借金をして回っている。それも上部から下された命令に基づくものだ。
朝鮮人民軍では、特別な行事がある日や定期訓練の初日には、兵士の士気を高めるために特食、つまりごちそうが振る舞われる。このようなときの定番メニューと言えば豚肉と豆腐がたっぷり入ったスープだ。実際に口にした兵士の評判は非常によいものだったが、それも軍官たちの必死の金策あってのことだ。
コロナ前まで国境警備隊は、北朝鮮の中でも非常に恵まれていると言われていた。密輸を行う地域住民から便宜を図る見返りにワイロを受け取っていたからだ。また、住民や業者と組んで直接密輸に関与することもあれば、脱北の手助けをすることもあった。ところが、コロナでそれらのほとんどが断たれてしまった。
本来なら国が行うべき兵士たちへのごちそうの提供だが、各部隊に丸投げされている。財源が豊富だったコロナ前までは問題なかったものの、今では部隊幹部の悩みのタネとなっている。そこで誇り高き軍官が、民間人に頭を下げてまわるはめになったのだ。
情報筋は、「普段からろくに食べられずにいて体の弱い兵士たちが、一日だけごちそうを食べたからと必要な栄養が補給できるのか」と、このやり方には批判的だ。
「兵士たちの栄養状態は深刻なのに、訓練の強度が高まり、訓練中に倒れる兵士たちが続出するだろう」
食糧事情が今よりはるかにマシだったコロナ前でも、朝鮮人民軍の中では、飢えに苦しみ、栄養失調で倒れ、一時的に帰宅させられる兵士が後を絶たなかった。民間人も苦しい思いをしている現在の食糧難だが、兵士たちはさらにひどい状況に置かれている。
また、食べ物欲しさに近隣の民家や農場で強盗を働く兵士が続出している。さらに衛星打ち上げにより朝鮮半島情勢が緊張したことから、軍当局は、訓練の強度を上げた。同時に政治教育を強化せよとの指示も下された。1日2時間、従来の倍の時間、政治教育につきあわされるというのだ。
寒さや劣悪な環境の中でも肉体的強化に加え、精神的武装も強化せよというのが当局の指示だが、訓練でクタクタになった後、ろくに食事もとれずにくだらない政治学習をさせられても何も頭に入ってこないだろう。この方針には当然のことながら異論が噴出している。
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