【コラム】紡がれた言葉、行間からよむ内田篤人の覚悟。最終章を迎えた忘れ物を取りにいくための旅
サッカーキング2018年1月11日(木)18時1分
1月10日に行われた鹿島の新体制発表で古巣復帰の理由、代表への思いを明かした内田篤人
「いつか鹿島に戻りたくて、本気で獲りに来てくれた今回がそのタイミングだった」
「正直、ドイツと日本では歴史が違う。めっちゃ、差がある。それを見てきた僕は、日本に帰ってプレーするべきなんじゃないかと。伝えることは大事だから」
「サッカー人生、確実に折り返し点は過ぎているし、終わりも見えてきている。僕の姿を若い選手がどう感じ、鹿島の今後にどうつながるのかはわからない。けど、それを見せるのが獲ってもらった使命。後ろ姿で、こうやって勝っていくんだよって示していくことが全て」
いつも通りの淡々とした口調。紡がれる言葉は一つ一つが重く、行間から覚悟があふれていた。ドイツ・ブンデスリーガ2部のウニオン・ベルリンから鹿島アントラーズに復帰した内田篤人。10日の新体制発表会で、7年半ぶりにディープレッドの背番号2を身にまとった。懐かしさや新鮮さよりもむしろ、どこか凜とした雰囲気が華奢な体を包んでいた。
チームは昨年、らしくない勝負弱さで無冠に終わっている。本人の弁を借りるまでもなく、鹿島でタイトルを奪い返すことが全て。ただ、そこは4年に一度の2018年だ。FIFA ワールドカップロシアが6月に待ち受ける。けがの影響で3年近く遠ざかる日本代表への思いも、内田は率直に語った。
「あと半年、時間はある。まずは試合に出続けるのが第一。半年で、どこまで戻せるか」
取材メモをひもといてみる。特別な舞台での雪辱を期す時、アスリートはよく「忘れ物を取りにいく」という表現を使う。内田がワールドカップに置いてきた忘れ物があるとすれば、涙、やりきった涙、なのではないかと思う。
うれしい時も苦しい時も、感情を表に出したくないタイプ。努力する姿さえ人には見られたくない。そんな彼が、2度のワールドカップでは人目をはばからず泣いた。
8年前の南アフリカ。2年半にわたって守り続けたレギュラーの座を大会前に奪われた。グループステージを突破したチームの「蚊帳の外」と疎外感を味わい、腐る心をひた隠すのに懸命だった。決勝トーナメントでパラグアイに敗れ、チームメートに歩み寄ると、なぜか目頭が熱くなった。ずっと最終ラインを組んできた中澤佑二、先発落ちした後も折に触れて気にかけてくれた松井大輔らの頬を涙が伝っていた。
「絶対に泣かなそうな人が泣いているから、いろんな思いが込み上げてきちゃって」
ピッチに立てなかった歯がゆさ。先輩たちが引っ張った快進撃に加われず、痛感した力不足。「調子がどうだろうと、監督から揺るぎない信頼を得られる選手になる」。誓ってシャルケに移籍し、ブンデスリーガで、チャンピオンズリーグでもまれ、自らを磨いた。
2014年のブラジル。開幕の4カ月前、右膝裏の腱を損傷した。「サッカー人生で無理のしどころ」と手術を回避し、本番に間に合わせた。全3試合にフル出場を果たしたものの、チームは勝てなかった。
最終戦でコロンビアに打ち砕かれ、ベンチに一人、たたずんだ。ユニホームの左袖でぬぐっても涙はぬぐいきれなかった。右袖でぬぐい、最後は両手で顔を覆った。
「泣くとは思わなかったんだけど。けがから復帰するまで多くの人に支えてもらって、もう、僕だけのワールドカップではなくなっていたから。活躍する姿を見せたかったんだけど」
多くの選手が欧州でプレーするようになり、自信を携えて臨んだ大会だった。「世界は近いけど、広かった」。日本の力はこんなもんだと改めて思い知らされた。
膝との戦いは厳しさを増した。膝蓋靱帯の骨化という難病。2015年の夏に自らの意思で手術。次のシーズンは丸一年、一進一退のリハビリに費やした。ただただ、自分に納得できるコンディションを取り戻したかった。2017年の夏にシャルケからウニオン・ベルリンへ、そして鹿島へ。ここ2シーズン、出番が巡ってきた公式戦はたった3試合。ただただ、出場機会がほしかった。あらゆる決断の陰には、いつだってワールドカップがあった。
可能性は決して高くはない。内田は自らを鼓舞するように決意を連ねた。内田らしくちょっと突き放した、楽観的な表現で。
「変な話、日本人ならいいんですよね? みんな、日本代表としてワールドカップに出るチャンスを持っている。高校生もおじさんも、国民全員がライバルだと思っている」
ロシアの涙は、どんな涙か。3月には30歳になる。忘れ物を取りにいくための旅、最終章を迎えた。
文=中川文如
「正直、ドイツと日本では歴史が違う。めっちゃ、差がある。それを見てきた僕は、日本に帰ってプレーするべきなんじゃないかと。伝えることは大事だから」
「サッカー人生、確実に折り返し点は過ぎているし、終わりも見えてきている。僕の姿を若い選手がどう感じ、鹿島の今後にどうつながるのかはわからない。けど、それを見せるのが獲ってもらった使命。後ろ姿で、こうやって勝っていくんだよって示していくことが全て」
いつも通りの淡々とした口調。紡がれる言葉は一つ一つが重く、行間から覚悟があふれていた。ドイツ・ブンデスリーガ2部のウニオン・ベルリンから鹿島アントラーズに復帰した内田篤人。10日の新体制発表会で、7年半ぶりにディープレッドの背番号2を身にまとった。懐かしさや新鮮さよりもむしろ、どこか凜とした雰囲気が華奢な体を包んでいた。
チームは昨年、らしくない勝負弱さで無冠に終わっている。本人の弁を借りるまでもなく、鹿島でタイトルを奪い返すことが全て。ただ、そこは4年に一度の2018年だ。FIFA ワールドカップロシアが6月に待ち受ける。けがの影響で3年近く遠ざかる日本代表への思いも、内田は率直に語った。
「あと半年、時間はある。まずは試合に出続けるのが第一。半年で、どこまで戻せるか」
取材メモをひもといてみる。特別な舞台での雪辱を期す時、アスリートはよく「忘れ物を取りにいく」という表現を使う。内田がワールドカップに置いてきた忘れ物があるとすれば、涙、やりきった涙、なのではないかと思う。
うれしい時も苦しい時も、感情を表に出したくないタイプ。努力する姿さえ人には見られたくない。そんな彼が、2度のワールドカップでは人目をはばからず泣いた。
8年前の南アフリカ。2年半にわたって守り続けたレギュラーの座を大会前に奪われた。グループステージを突破したチームの「蚊帳の外」と疎外感を味わい、腐る心をひた隠すのに懸命だった。決勝トーナメントでパラグアイに敗れ、チームメートに歩み寄ると、なぜか目頭が熱くなった。ずっと最終ラインを組んできた中澤佑二、先発落ちした後も折に触れて気にかけてくれた松井大輔らの頬を涙が伝っていた。
「絶対に泣かなそうな人が泣いているから、いろんな思いが込み上げてきちゃって」
ピッチに立てなかった歯がゆさ。先輩たちが引っ張った快進撃に加われず、痛感した力不足。「調子がどうだろうと、監督から揺るぎない信頼を得られる選手になる」。誓ってシャルケに移籍し、ブンデスリーガで、チャンピオンズリーグでもまれ、自らを磨いた。
2014年のブラジル。開幕の4カ月前、右膝裏の腱を損傷した。「サッカー人生で無理のしどころ」と手術を回避し、本番に間に合わせた。全3試合にフル出場を果たしたものの、チームは勝てなかった。
最終戦でコロンビアに打ち砕かれ、ベンチに一人、たたずんだ。ユニホームの左袖でぬぐっても涙はぬぐいきれなかった。右袖でぬぐい、最後は両手で顔を覆った。
「泣くとは思わなかったんだけど。けがから復帰するまで多くの人に支えてもらって、もう、僕だけのワールドカップではなくなっていたから。活躍する姿を見せたかったんだけど」
多くの選手が欧州でプレーするようになり、自信を携えて臨んだ大会だった。「世界は近いけど、広かった」。日本の力はこんなもんだと改めて思い知らされた。
膝との戦いは厳しさを増した。膝蓋靱帯の骨化という難病。2015年の夏に自らの意思で手術。次のシーズンは丸一年、一進一退のリハビリに費やした。ただただ、自分に納得できるコンディションを取り戻したかった。2017年の夏にシャルケからウニオン・ベルリンへ、そして鹿島へ。ここ2シーズン、出番が巡ってきた公式戦はたった3試合。ただただ、出場機会がほしかった。あらゆる決断の陰には、いつだってワールドカップがあった。
可能性は決して高くはない。内田は自らを鼓舞するように決意を連ねた。内田らしくちょっと突き放した、楽観的な表現で。
「変な話、日本人ならいいんですよね? みんな、日本代表としてワールドカップに出るチャンスを持っている。高校生もおじさんも、国民全員がライバルだと思っている」
ロシアの涙は、どんな涙か。3月には30歳になる。忘れ物を取りにいくための旅、最終章を迎えた。
文=中川文如
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