もがき苦しむも本領発揮はここから! 日本の“10番”が悔しさを胸に“絶対的切り札”へ
サッカーキング2019年1月21日(月)14時14分
[写真]=Getty Images
17日のAFCアジアカップUAE2019、グループステージ第3節のウズベキスタン戦。森保一監督は前節のオマーン戦からスタメンを10人変更。中島翔哉の負傷離脱で追加招集された“10番”乾貴士にようやく出番を与え、先発で左サイドに据えた。
乾にとって国際Aマッチの出場は、ロシア・ワールドカップ、決勝トーナメント1回戦のベルギー戦(2018年7月2日)以来だった。今季はリーグ開幕前にベティスに移籍したが、以降の半年間での出場はリーグ8試合のみ(公式戦フル出場は3試合)。日本代表招集も見送られ、様々な困難に直面した。前述のような形で今回、森保ジャパンに初合流したが、アジアカップは初戦から2試合連続で出番が回ってこなかった。それでも、トレーニングのときは連日、真っ先にピッチに現れ、弾けんばかりの笑顔でボールを蹴り、大声で周りを鼓舞するなど、献身的にチームを盛り上げ続けた。
指揮官にぶつけた疑問で「一体感が高まった」
そして、もう1つ特筆すべきトピックがあった。9日のグループステージ初戦(トルクメニスタン戦)の直後、交代枠を2つ残した指揮官に「なぜメンバーを変えなかったのか」と疑問をぶつけたことだ。この勇気ある行動に対し、森保監督は「選手にはモヤモヤ感がない状態で思い切ってプレーしてほしい。できるだけ話せるところはオープンに話したい。(乾の行動によって)一体感が高まったというところを、みなさんインプットしておいてください」と前向きにコメント。乾の行動がピッチ外からチームの結束を高めたと大いに評価した。それだけチームに影響力を及ぼすことができる選手だからこそ、ピッチ上でもロシアの時のような輝きを放ってほしかった。
しかし、公式戦から1カ月近く離れているせいか、試合勘不足は否めない。加えて、背後の左サイドバックに佐々木翔、ボランチの一角に塩谷司、トップ下に北川航也といった共演経験の乏しいメンバーが周りを取り囲んだこともあり、乾は思うようにゴール前に迫れなかった。ベンチから見ていた長友佑都が、「あいつ前半からメチャクチャ守備で走ってましたから。スプリントで行ってましたし」と強調した通り、守りの部分では確かに凄まじいハードワークを見せていた。けれども、肝心のアタックの部分ではフィニッシュに持ち込むシーンが少なかった。1-1の同点で折り返した57分には、強引に左から持ち込んでシュートを放ったものの、ボールはクロスバーの上を通過。直後に塩谷の2点目が決まってからは、運動量が落ちたように見受けられた。結局、81分に原口元気と代わってベンチに引き上げたが、クラブでコンスタントに試合に出ていないマイナス面が垣間見えてしまった。
こうした自身のパフォーマンスに納得がいかなかったのか、乾は試合後、「すみません。今日はやめて」とだけ話し、取材ゾーンを去っていった。この2日後の練習後も無言のままバスに乗ってしまった。本人の中では、「攻撃で明確な結果を残すまでは多くを語らない」という決意があるのかもしれないが、決勝トーナメントに向けて集中力を高め、プレーの感覚を研ぎ澄ませているのは間違いない。
乾は代表経験豊富だが30歳を超えている今、アピールのチャンスはそう多くない。今大会に入って3戦連続でピッチに送り出されている北川のような若手は、トライ&エラーが許されるが、急遽呼び戻されたベテランは短時間で目に見える結果を出すことを求められる。それは本当に大変な役割だ。
5度目のアジア王者へ“絶対的切り札”に
それでも、同じような立場で結果を残したベテランも過去にいる。同じくUAEで開催された、2017年のロシアW杯アジア最終予選。初戦で黒星を喫したUAEを相手に、2年ぶりに代表復帰した今野泰幸がダメ押し点を含む大活躍を見せて「スーパー今ちゃん」と評された。川島永嗣も10か月ぶりの国際Aマッチ出場ながら好セーブを連発。それぞれ圧倒的な存在感を示して勝利に貢献した。こうした傑出した働きがベテランの存在価値を高め、代表におけるキャリアを伸ばしていく。それは乾に関しても同じだろう。
とりわけ前線は、堂安律を筆頭に若く才能あるアタッカーがひしめくだけに、1つ1つの結果が重要になってくる。それを本人も痛感しているから、ウズベキスタン戦は悔しくてたまらなかったのではないだろうか。
幸いにして、森保監督は1試合の結果だけで選手を切り捨てる人物ではない。加えて言うと、2007年のU-20ワールドカップ(カナダ)でコーチを務めていた指揮官と乾の間には、10年以上の深い絆がある。乾は最終的に本戦出場を逃したものの、直前まで候補メンバーに入っていて、森保監督の指導を受けていた。当時からお互いを熟知しているからこそ、乾は交代枠に関する質問もすんなりできたのだろう。自分を理解してくれている恩師のためにも、そして、今後の代表生き残りのためにも、10番を背負う男は決勝トーナメントで日本を勝利へと導く大仕事を果たすべきだ。彼にはそれだけの能力があるのだから。
「チームが勝つことが一番で、ゴールを取るのは誰でもいい」とUAE入りしてからの乾は繰り返しコメントしている。が、待たれるのは日本中がロシアの大活躍の再現である。半年前の世界の大舞台で躍動した小兵アタッカーの本領発揮はここからだ。日本が5度目のアジアカップ優勝を現実にするためにも、“絶対的切り札”としてチームを救う圧巻のパフォーマンスをぜひ見たい。
文=元川悦子
乾にとって国際Aマッチの出場は、ロシア・ワールドカップ、決勝トーナメント1回戦のベルギー戦(2018年7月2日)以来だった。今季はリーグ開幕前にベティスに移籍したが、以降の半年間での出場はリーグ8試合のみ(公式戦フル出場は3試合)。日本代表招集も見送られ、様々な困難に直面した。前述のような形で今回、森保ジャパンに初合流したが、アジアカップは初戦から2試合連続で出番が回ってこなかった。それでも、トレーニングのときは連日、真っ先にピッチに現れ、弾けんばかりの笑顔でボールを蹴り、大声で周りを鼓舞するなど、献身的にチームを盛り上げ続けた。
指揮官にぶつけた疑問で「一体感が高まった」
そして、もう1つ特筆すべきトピックがあった。9日のグループステージ初戦(トルクメニスタン戦)の直後、交代枠を2つ残した指揮官に「なぜメンバーを変えなかったのか」と疑問をぶつけたことだ。この勇気ある行動に対し、森保監督は「選手にはモヤモヤ感がない状態で思い切ってプレーしてほしい。できるだけ話せるところはオープンに話したい。(乾の行動によって)一体感が高まったというところを、みなさんインプットしておいてください」と前向きにコメント。乾の行動がピッチ外からチームの結束を高めたと大いに評価した。それだけチームに影響力を及ぼすことができる選手だからこそ、ピッチ上でもロシアの時のような輝きを放ってほしかった。
しかし、公式戦から1カ月近く離れているせいか、試合勘不足は否めない。加えて、背後の左サイドバックに佐々木翔、ボランチの一角に塩谷司、トップ下に北川航也といった共演経験の乏しいメンバーが周りを取り囲んだこともあり、乾は思うようにゴール前に迫れなかった。ベンチから見ていた長友佑都が、「あいつ前半からメチャクチャ守備で走ってましたから。スプリントで行ってましたし」と強調した通り、守りの部分では確かに凄まじいハードワークを見せていた。けれども、肝心のアタックの部分ではフィニッシュに持ち込むシーンが少なかった。1-1の同点で折り返した57分には、強引に左から持ち込んでシュートを放ったものの、ボールはクロスバーの上を通過。直後に塩谷の2点目が決まってからは、運動量が落ちたように見受けられた。結局、81分に原口元気と代わってベンチに引き上げたが、クラブでコンスタントに試合に出ていないマイナス面が垣間見えてしまった。
こうした自身のパフォーマンスに納得がいかなかったのか、乾は試合後、「すみません。今日はやめて」とだけ話し、取材ゾーンを去っていった。この2日後の練習後も無言のままバスに乗ってしまった。本人の中では、「攻撃で明確な結果を残すまでは多くを語らない」という決意があるのかもしれないが、決勝トーナメントに向けて集中力を高め、プレーの感覚を研ぎ澄ませているのは間違いない。
乾は代表経験豊富だが30歳を超えている今、アピールのチャンスはそう多くない。今大会に入って3戦連続でピッチに送り出されている北川のような若手は、トライ&エラーが許されるが、急遽呼び戻されたベテランは短時間で目に見える結果を出すことを求められる。それは本当に大変な役割だ。
5度目のアジア王者へ“絶対的切り札”に
それでも、同じような立場で結果を残したベテランも過去にいる。同じくUAEで開催された、2017年のロシアW杯アジア最終予選。初戦で黒星を喫したUAEを相手に、2年ぶりに代表復帰した今野泰幸がダメ押し点を含む大活躍を見せて「スーパー今ちゃん」と評された。川島永嗣も10か月ぶりの国際Aマッチ出場ながら好セーブを連発。それぞれ圧倒的な存在感を示して勝利に貢献した。こうした傑出した働きがベテランの存在価値を高め、代表におけるキャリアを伸ばしていく。それは乾に関しても同じだろう。
とりわけ前線は、堂安律を筆頭に若く才能あるアタッカーがひしめくだけに、1つ1つの結果が重要になってくる。それを本人も痛感しているから、ウズベキスタン戦は悔しくてたまらなかったのではないだろうか。
幸いにして、森保監督は1試合の結果だけで選手を切り捨てる人物ではない。加えて言うと、2007年のU-20ワールドカップ(カナダ)でコーチを務めていた指揮官と乾の間には、10年以上の深い絆がある。乾は最終的に本戦出場を逃したものの、直前まで候補メンバーに入っていて、森保監督の指導を受けていた。当時からお互いを熟知しているからこそ、乾は交代枠に関する質問もすんなりできたのだろう。自分を理解してくれている恩師のためにも、そして、今後の代表生き残りのためにも、10番を背負う男は決勝トーナメントで日本を勝利へと導く大仕事を果たすべきだ。彼にはそれだけの能力があるのだから。
「チームが勝つことが一番で、ゴールを取るのは誰でもいい」とUAE入りしてからの乾は繰り返しコメントしている。が、待たれるのは日本中がロシアの大活躍の再現である。半年前の世界の大舞台で躍動した小兵アタッカーの本領発揮はここからだ。日本が5度目のアジアカップ優勝を現実にするためにも、“絶対的切り札”としてチームを救う圧巻のパフォーマンスをぜひ見たい。
文=元川悦子
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