鬼門のウォータースプラッシュ。改善尽くすも計り知れない高水圧にマシンが悲鳴「限界がある」と勝田貴元
ラリーカーが大きな水しぶきを上げながら勢いよく水辺を突っ切っていく光景は、WRC世界ラリー選手権で長年見られてきたシーンだが、サルディニアではこのポイントが鬼門となった。あまりの水圧の高さに耐えかねたマシンが次々と悲鳴を上げ、大幅なタイムロスやリタイアにつながる問題を引き起こしたのだ。自身もそのひとりになってしまったTOYOTA GAZOO Racing WRTの勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)は、イベント後のオンライン取材会において「チームだけでなく、ドライバーも含めてすごく悩ませるようなラリーだった」と語った。
6月1日から4日にかけて、イタリアのサルディニア島で開催されたWRC世界ラリー選手権第6戦ラリー・イタリア・サルディニア。ヒョンデのティエリー・ヌービル(ヒョンデi20 Nラリー1)が制した今大会は、WRC2クラスウイナーとなったアンドレアス・ミケルセン(シュコダ・ファビアRSラリー2)が総合5位に食い込むほどのサバイバルラリーとなった。
本来、上位に並ぶはずのラリー1カーが後退を余儀なくされた最大の要因は“ウォータースプラッシュ”と呼ばれる河渡りで、勢いよく水に飛び込んだ衝撃でボディパーツや補機類が損傷したり、エンジンが水を吸ってパワーを失ってしまうなどの問題がメーカーを問わずに頻発。勝田もSS8のスプラッシュゾーンでわずかにアクセルを開けてマシンの頭を上げるタイミングが遅れたことが災いし、GRヤリス・ラリー1のフロント部に大きなダメージを負い、衝撃でラジエーターとインタークーラーも損傷してしまう。この後、勝田はステージを走りきったものの、補機類を修復しきれないことからSS9を前にデイリタイアを喫している。
この第6戦では競技開始前のレッキの段階から不安定な天候が続き、大会期間中も激しい雨が降る場面があった。この雨によって水量が増したことからトラブルが頻発したと考えられる。勝田によれば、チームメイトのエルフィン・エバンス駆るトヨタGRヤリス・ラリー1がダメージを受けたポイントは、本来スプラッシュの場所ではなく大雨によって自然発生した大きな水たまりだったというから驚きだ。
しかし、ラリーカーはウォータースプラッシュに対して決して無防備なわけではない。下面に当たる水に対して、水圧を逃がすデザインが考えられている他、エンジンが水を吸わないようにする“バルブ”という機構やバイパスが用意され、入水の際にコドライバーの操作でバルブを閉じることで内燃機関内に水が侵入することを防いでいる。
■デビューイヤーはスプラッシュに入れるクルマではなかった
「いろいろな工夫をしながらやっているのですが、それでもやはり限界はあります。水の圧力はものすごくて、使っているパーツの強度が足りないこともあります」と勝田。
「たとえバンパーが壊れていなくても下からの水圧はものすごくて、エルフィン(・エバンス)選手やセバスチャン(・オジエ)選手がそうだったのですが、アンダーガードのボルトが全部折れて、すべて取れてしまうくらいでした」
「それほどの水圧が掛かると、予測していない場所からもエンジンルーム内に入ってきてしまいます」
カッレ・ロバンペラの駆る1台を除いて目に見えるかたちでダメージを負ってしまったトヨタ勢だが、トヨタGRヤリス・ラリー1がデビューした2022年シーズンと比べると確実に“カイゼン”されていると勝田は説明した。
「昨年はもう、まったくもって普通にスプラッシュに入れるような状況ではなかったですね。正直に言って、バルブはまともに作動していない状態でした」
「(今季に向けては)エンジニアサイドもデザイナーサイドもすごく頑張ってくれて、普通に入る分には問題ないところまでいっていたのですけど、今年のサルディニアに限っては雨の量ものすごかったので……。本来だったら水深が10cm、15cmしかない場所が、今年は30cmあったりとか、そういった影響もあってより多くのトラブルを巻き起こしたんじゃないかなという風に思ってます」
「エルフィン選手(のクルマ)が破損したウォータースプラッシュに関しては、本来スプラッシュの予定はないところで、あれは単なる大きな水たまりだったんです。そういったところも、チーム側だけでなくドライバーも含めて非常に悩ませるようなラリーだったかな、と思っています」
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