BoP変更後のアルピーヌの劇的なタイム向上に「物理学の再発明だ」とトヨタ技術首脳/ル・マン24時間
トヨタGAZOO Racingの8号車GR010ハイブリッドをドライブし、2022年ル・マン24時間レースのポールポジションを獲得したブレンドン・ハートレーは、最後のアタックラップに「すべてを賭けていた」と明かした。
2度のル・マン優勝経験を持つハートレーは、9日木曜に行われた最終予選“ハイパーポール”のセッション終了間際に3分24秒408を記録。サルト・サーキットでの5度目のポールポジションを目指していた僚友7号車小林可夢偉を打ち負かした。
このセッションでハートレーはトラフィックに巻き込まれ、タイヤが最適な状態ではなかったにも関わらず、最後のラップでどんでん返しを見せた。
「昨年は可夢偉が序盤にいいラップを見せているし、彼はここ数年“ミスター・クオリ(予選)”だ」とハートレー。
「今日、ポールポジションを獲得できたのは素晴らしいことだ。マシンのフィーリングも良かった」
「このセッションはプレッシャーがかかる。とくに最終ラップはね。タイヤのピークは、その前の周でトラフィックに遭遇したときの方があったんだ。最後のラップにすべてを賭けるしかなかった」
「それがうまくいって、とても嬉しい。最高のフィーリングだよ」
ハートレーは30分間で争われたセッションの序盤に3分25秒213というトップタイムをマークしていたが、その後残り7分でアルピーヌ・エルフ・チームの36号車アルピーヌA480・ギブソンを駆るニコラ・ラピエールが上回り、全体トップに立っていた。
2台をピットインさせたトヨタは、6年連続のル・マンでのポールポジション獲得に向け、再び可夢偉とハートレーをコースに送り出した。
ハートレーは残る2周のチャンスのうち、最初のラップが最大のチャンスと考えていたが、そのアタック1周目はトラフィックの影響を受けたことで、ラピエール、そしてタイムを向上させてきた可夢偉を上回ることはできなかった。
「もうダメかもしれないと思った」とハートレー。
「2周目も1周目と同じようなアタックができるか確信が持てなかったから、ちょっと心が折れそうになった。トラフィックに備えて2周分の燃料は積んでいた。一瞬、夢が終わったかと思ったけど、なんとか持ち堪えることができた」
「この週末、クルー全員がよく働いてくれた。セットアップの変更もうまくいったし、いい方向に向かっている。FP3ではちょっとした問題があったが、それが解決されるといいね」
■「BoP変更も少しは助けになっている」とアルピーヌのラピエール
TGR-Eのテクニカル・ディレクター、パスカル・バセロンによると、ハイパーポール中のトヨタの2台は、理論的には近い位置にいた、という。
「2台は非常に接近したところにいた」とバセロンは振り返った。
「7号車はトラフィックが主な問題となった。可夢偉はトラフィックの面で、恵まれなかっった。アイデアル・ラップ(理論上のベストタイム)を見ると、2台はほとんど同じ、100分の2秒以内といったところだ」
「ブレンドンはトラフィックの面では少しラッキーだったが、実際には同じペースだったんだ。コンマ4秒差というのは、現実を反映していない。アイデアル・セクター(タイム)は同じだったから、2台(のポテンシャル)はぴたりと一致している」
一方、可夢偉のタイムに0.022秒差にまで迫る3番手でハイパーポールを終えたアルピーヌのラピエールは、セッション後に明るい表情を見せた。
アルピーヌのノンハイブリッドLMP1車両は、5日のテストデーでのマシンのストレートスピードにドライバーたちが懸念を示したのち、この日のハイパーポール前に行われたバランス・オブ・パフォーマンス(BoP=性能調整)の変更により、7kWの最大出力向上が許されていた。
「いいラップだった。燃料はあれ以上残っていなかったし、(LMP2クラスの)ユナイテッドのスリップ・ストリームもうまく使えたし、全体的に良かった」とラピエール。
「マシンから最大限のものを引き出せたから満足だ」
「先週の日曜日(テストデー)に比べればかなり改善されたし、BoP(の変更)も少しは助けになっている。全体としてトヨタ勢からそれほど離されていないのは、決勝に向けて素晴らしいニュースだね」
ラピエールがこの週末のアルピーヌのベストタイムを4.4秒縮めたのに対し、トヨタ8号車は2.7秒の短縮に留まった。
この、BoP変更後のアルピーヌの劇的なペースアップについて、バセロンはコメントしようとはしなかった。アルピーヌの結果に対して彼が発した言葉はただひとつ。
「我々は物理学を再発明したのだ」
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