【スーパーGT公式富士テスト分析】ホンダNSX-GTが新型エアロを投入でGRスープラとの差を詰める
「NSXのフリックボックスが変わってないか?」
無観客で行われたスーパーGT公式テストの初日、午後のセッションが始まって間もなく、思わず画面をのぞき込んだ。今回のテストはメディアの立ち入りが禁止されていたため、中継映像から判断せざるを得なかったが、その形状は明らかに変わっていた。
今季に向けたGT500のホモロゲーション期日は3月末の予定だったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、その締め切りは6月末に延長されていた。
つまり今回の富士テストは、新パーツ採用の可否を決める機会として利用できたわけだ。3社の開発陣にとっては、これまでの努力=“ラストスパート”を実走で確認するための場だった。
初日午前のホンダ陣営は、5台全車が3月の岡山公式テスト時と同様の「旧型エアロ」で走り始めたが、午後になるとARTA NSX-GTを除く4台が「新型エアロ」を装着し、RAYBRIG NSX-GTがトップタイム、KEIHIN NSX-GTが3番手につけた。
2日目は5台全車が終日にわたって「新型エアロ」をつけ、午前のセッションではRAYBRIG NSX-GTが、午後はARTA NSX-GTがトップにつけた。
NSX勢は2日間を通して好調だったが、その結果以上にホンダ陣営は大きな手応えをつかんだはずだ。というのも、初日は路面温度40℃を超えるドライ、2日目は路面温度20℃台で、しかも午前はウエット、午後はダンプとあらゆるコンディションで新型エアロの効果を確認できたためだ。
この新型エアロの形状は一見すると“かつての低ドラッグ仕様”のようにも見える。すでに発表されているとおり、今季のスーパーGTは新型コロナの影響で富士、鈴鹿、もてぎの3サーキットだけの開催となり、全8戦のうち4戦が富士で行われる。
年間を通した戦略として、富士に照準を絞る戦い方はたしかに理にかなっている。ところが、NSXの車体開発を統括する徃西友宏氏は「新型エアロは決して“富士特化型”ではない」という。
「MR(ミッドシップ)からFR(フロントエンジン)に変わる今季に向けて、とにかく時間が足りなかった。3月の岡山テストは『やり残したことがたくさんある』状態で、車体に関して言えば、当初はクルマの信頼性を重視したために車重もかなり重かった」
「いまではぜい肉を削ぎ落として身軽になり、重量配分の適正化もできた。その意味では100点満点の達成感があります。空力も同様で、カレンダーが変更になって富士のレースが多くなったからというわけではなく、もともと継続的に開発してきた成果です。決して鈴鹿ともてぎを捨てているわけではありません」
徃西氏の言葉は、たしかにデータでも裏付けられている。別項のセクタータイムを見るとセクター2の速さは昨年から継続したまま、セクター3が格段に速くなっていることが分かる。
MR(ミッドシップ)からFR(フロントエンジン)へのレイアウト変更やそれにともなうミッドシップハンデの消滅も影響しているだろうが、NSXは直線ではなくテクニカルセクションで戦闘力を上げてきた。
また、最高速ではau TOM’S GR Supraがロングラン中にも300km/hを超えていたのに対して、NSX勢はおおむね290〜295km/h程度にとどまっていた。
初日の午後と2日目の午前にベストタイムをマークしたRAYBRIG NSX-GTの牧野任祐は「スープラと並走したとき、コントロールラインまでは同じでも、そこから先で離された」と証言している。
もしも、NSXの新型エアロが富士に特化したものであれば、スープラとの“ギャップの質”はこうはならなかったはず。そういう意味では、これまでの下馬評どおりいまだスープラ優位な状況に変わりはないが、NSXがその尻尾をとらえつつあるとは言えそうだ。
また、今回のテストで気がかりだったのはGT-R勢。タイムシートで軒並み下位に沈んでいたことに加えてトラブルが頻発していたことだ。その原因は中継映像でも語られていたとおりプロペラシャフトの破損と考えるのが妥当。
仮にプロペラシャフトに起因するものだとすると、この2日間でカルソニックIMPUL GT-Rが3回、リアライズコーポレーションADVAN GT-Rが2回、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rが1回と計6回のトラブルに見舞われたことになる。
これに対してMOTUL AUTECH GT-Rには一度も問題が発生していなかったことを考えれば、すでにその原因はつかめているのかもしれない。しかし、3台のGT-Rが修復のために失った走行時間は取り戻せない。
トヨタは盤石、ホンダが追い込みをかけてきたのに対して、ニッサン陣営は、苦しい状況から開幕を迎えることになりそうだ。
■2020年富士テストメーカー別理論ベスト(編集部調べ)
メーカー | S1 | S2 | S3 | Total |
---|---|---|---|---|
HONDA | 22″050(#17/S4) | 26″727(#100/S2) | 38″398(#16/S4) | 1’27″175 |
TOYOTA | 21″942(#36/S2) | 27″040(#36/S2) | 38″656(#14/S4) | 1’27″638 |
NISSAN | 22″214(#23/S1) | 27″177(#24/S2) | 38″910(#23/S4) | 1’28″301 |
■2019年第2戦富士メーカー別理論ベスト(編集部調べ)
メーカー | S1 | S2 | S3 | Total |
---|---|---|---|---|
HONDA | 21″635 | 26″837 | 38″786 | 1’27″258 |
LEXUS | 21″662 | 27″149 | 38″470 | 1’27″281 |
NISSAN | 21″685 | 26″978 | 38″141 | 1’26″804 |
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