GT500での経験を活かした渾身のアウトラップで2位獲得。K-tunes阪口晴南の進化と知略/第6戦GT300決勝
「これ、SUBARUを抜けるんじゃないか?」
前を走っていた埼玉トヨペットGB GR Supra GTとLEON PYRAMID AMGがセーフティカーSC明けにピットイン、開けた視界の向こうから近づいてくるSUBARU BRZ R&D SPORTのテールを見つめながら、K-tunes RC F GT3の新田守男は逆転への手応えを感じていた。
ガレージが隣り合うGT500チームを優先させたことでピットインを引き伸ばさざるを得ない状況だったが、チームからも自身のラップペースが周囲よりも速いことを無線で知らされていた新田は、残り2〜3周をさらにプッシュし、阪口晴南へと交代するためピットへと飛び込んだ。「アウトラップのタイミングで競り合えるかも」。コクピットに乗り込んだ阪口も、新田と同じように考えていた。
チームは4輪交換作業を迅速にこなし、いざ阪口がピットアウト。今季開幕戦からサッシャ・フェネストラズの代役として5レースをGT500で戦い、今回がGT300にへの復帰戦となった阪口は、よりピーキーで難しいGT500のコールドタイヤでの経験を存分に活かし、「アウトラップに全力を注ぎ込んだ」。その結果、2周後にピットアウトしてきたSUBARU BRZの井口卓人をオーバーテイクし、実質2番手のポジションを奪う。
ピット作業時間を含めた阪口のアウトラップは、2分51秒597。対してBRZ井口は2分58秒685。給油時間の差、そして車重の重いRC F+ダンロップのパッケージがそもそもアウトラップを得意としているという事実はあるものの、GT500を経験して進化した阪口のドライビングも、逆転のための大きな要素となった。
ただ、その後の阪口のペースは「もうちょっと上がってもいいんじゃないの? と思って見てました。スティント序盤から、(グリップが)落ちたときに想定していたタイムを刻んでいた」と新田。阪口本人も「タイヤがフレッシュなうちは(SUBARUなど)周囲の方がすごい良かった。自分は(グリップの)ピークがない感覚で、本当にキツかった」という。
背後にはタイヤの温まった井口が迫る。想定外のペースに苦しんでいた阪口はしかし、冷静さを失ってはいなかった。
「ストレートはこちらの方が速かった。あと、自分のタイヤにピックアップ(路面上または自らのタイヤのかすが、タイヤ表面に張り付いて一時的にグリップダウンする現象)が出始めたんですが、『じゃあこのペースに付き合わせたら、後続はもっとピックアップしてくれるかな』と思い、意地でもフタしてました」
実際、井口はピックアップに悩まされていたことをレース後に明かしている。ペースは“低値安定”だったかもしれないが、阪口は2番手確保に成功した。
「嬉しいですね。僕が復帰したタイミングで2位になりましたけど、代役を務めてくれたふたり(平良響、小高一斗)、ダンロップさん、新田さん、エンジニアさんが積み上げてきてくれた成果が出たと思います。戦略も、自分の考えもなかなかハマって、満足できる結果になりました」と阪口。
GT500とスーパーフォーミュラでの活躍を経てチームに戻った阪口の変化について新田に聞くと、「もともと速さは持っていたし、その部分が変わって帰ってきたとは思わない」という。
「ただ、走る上での考え方とかは、すごい細かく考えるようになったと思います。GT500とかSFは細かく、緻密に計算してやっているだろうし、チーム側からもそれを求められていたんだと思う。晴南はもともと緻密に考えるタイプだけど、それがもっと細かく考えるようになって帰ってきたかな。ただ、GT3は(セットアップを)触れるところも限られているから、『そんなに細かくはできないよ!』っていう場合もあるけど(笑)」
「精神的には、晴南はもともと自信家タイプ。GT500やSFの経験は、彼のなかでは余裕や自信につながっていると思うけど、影山(正彦)監督とか僕は常に結構キツいこと言ってるから。彼の鼻が高くならないようにね。だから、意外に自分のことは冷静に評価してると思いますよ」
来季はGT500レギュラードライバーへとステップアップする可能性も高い阪口。GT300での今季残り2レースでも、そのポテンシャルを大いに発揮してくれるに違いない。
■オートポリスは「最低限のライン」にすぎないと新田
オートポリスでは今季初表彰台という形で結果を残せたK-tunes RC F GT3だが、残り2戦に向けては、決して状況を楽観視していない。
マシンが超ヘビー級な車重ゆえ、陣営は昨年から変更したダンロップタイヤとのマッチングに苦しんできた。新田が現状を説明する。
「今回は『ロングランでは、少なくともこれくらいのペースで走らないと勝負にならない』という最低限のラインでレースができた感じです」
「やっぱり、RC Fの重さに対してタイヤが耐えられないという課題を、僕らはずっと抱えていて。だから今回もハードめのタイヤを選択をしたんですけど、たとえば最終戦の富士で気温と路温がもっと低くなったとき、どれだけソフトな方向に振っていっても大丈夫なのか……という部分で課題は残っています」
第6戦で表彰台に並んだSUBARU BRZや、レースでジャンプアップを果たしたGAINER TANAX GT-Rなど、同じダンロップ勢でもランキング上位勢と比べると、速さ、安定感ともにまだまだ足りていない状況だ。来季以降に繋げるためにも、「残り2戦でも、最低限のパフォーマンスをしっかりと作り出していけるか、それを検証してきたい」と新田は締めくくった。
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