【高校選手権展望】<前橋育英>敗戦を糧に成長した1年に…前回大会のリベンジへ
サッカーキング2017年12月25日(月)19時15分
前橋育英の主将・田部井涼 [写真]=吉田太郎
「彼らは一生忘れないと思いますし、私も一生忘れないと思います」。1983年から前橋育英を率いる山田耕介監督の静かな口調が、その悔しさを一層際立たせる。「1月9日は本当に忘れられない日で、青森山田が優勝の盾を掲げた瞬間は本当に悔しかったので、あの残像が今の原動力になっています」と話すのはキャプテンの田部井涼。2017年1月9日。第95回全国高校サッカー選手権大会決勝。青森山田に0-5と敗れたその日から、“上州のタイガー軍団”は常に『敗戦』を糧に、そしてターニングポイントに、ここまで歩みを止めることなく進んできた。
“1月9日”からわずかに6日後。2017年シーズンの前橋育英は、初めての公式戦に当たる新人戦の初戦を迎える。後藤田亘輝、松田陸、角田涼太朗、渡邊泰基とそっくり残った4バックに加え、双子の田部井涼に田部井悠、アタッカーの飯島陸と7人の全国決勝経験者を擁して挑んだ新人戦で頭角を現したのは、「青森山田との決勝も応援席で何もできない自分が凄く悔しかった」と語る宮崎鴻。決勝の前橋商業戦では先制ゴールを含め、3ゴールに絡む大活躍で優勝に貢献し、「選手権に出ていたメンバーにも負けないくらいの選手は揃っていますから」という田部井涼の言葉を証明するようなパフォーマンスを披露。選手層の底上げを強烈に促す。
さらにチームの活性化が進んだのは、“Bチーム”で挑んだ関東大会。2017年度の公式戦初黒星となったプリンスリーグ関東の鹿島学園戦から、総体予選までの間に開催されたこの大会で、“Bチーム”は並み居る強豪を倒して優勝を手にしてみせると、全国出場を懸けた総体予選の前線には、関東大会で結果を残した榎本樹と高橋尚紀の2トップがそのまま抜擢される。「どんどん競争し合っているので調子の良いヤツを使う感じで、誰が出てもいいような感じにはなってきましたね」と指揮官も手応えを口にした県大会は、彼らの活躍もあってきっちり優勝。主力の危機感と隣り合わせの競争は激しさを増していく。
次に彼らを待っていた『敗戦』は全国総体の準決勝。3回戦で青森山田に“夏のリベンジ”を達成し、頂点が見えてきたタイミングで、結果的に日本一へ駆け上がる流通経済大柏に0-1と苦杯を嘗めたが、このゲームはチームのスタイルを改めて見直すキッカケになった。「ロングボール主体の戦い方で負けてしまって、『これ以上は上に行けないな』というのがあったので、下で繋ぎながらパスワークを磨くという所に変えて行っています」と明かすのは田部井涼。最大の目標でもある“冬の日本一”に向けて、チームは戦い方の幅を持つために新たなトライへ着手した。
夏の『敗戦』から1カ月後。リターンマッチとなったプリンスリーグ関東の流通経済大柏戦。新スタイルを手に入れつつあった前橋育英は、「同じ相手に2回も負けちゃダメだ」という山田監督の激に応える格好で、苦しみながらも3-2と“秋のリベンジ”も成し遂げる。その試合後。「今日の一戦で自信は付いたかなと思いますね」と口にしたキャプテンが、「でも、謙虚にやることが一番かなと思いますね。自分たちに隙があるとすればそこしかないので、もちろん良い選手もいますし、良い指導者の方にも恵まれている中で、技術の前に心の部分でしっかり隙を見せないようにする所が、選手権を制覇する1つのポイントだと思います」と続けた言葉が頼もしい。
迎えた選手権予選でも、準決勝で前橋商業、決勝で桐生第一と県内の2大ライバルを相次いで撃破し、4年連続となる県代表の切符を獲得する。強豪校ゆえに喫する機会の少ない『敗戦』を糧とし、ターニングポイントとして、今シーズンの前橋育英は少しずつ、それでいて着実に成長を遂げ、“冬のリベンジ”に手の届く位置まで歩みを進めてきた。
ただ、ここに来て彼らは強烈な『敗戦』を突き付けられている。プリンスリーグ関東王者として乗り込んだプレミアリーグ参入戦。初戦の京都橘戦に5-0で圧勝した前橋育英は、その勢いを携えてジュビロ磐田U-18と対峙したものの、勝てば初昇格となる一戦でPK戦の末に敗れてしまう。加えてその結果は、“Aチーム”のプレミアリーグ参入への道が閉ざされるだけではなく、県1部リーグを制した“Bチーム”のプリンス関東参入決定戦進出をも消滅させてしまう『敗戦』でもあった。
あるいは1年前に匹敵するショッキングな『敗戦』が、各々のメンタルに重くのしかかっているであろうことは想像に難くない。それでも、最大の目標にしてきた大会は否応なしにすぐそこまで迫っている。「僕たちは苦労してきた代で、トップはもちろんですけど、応援している人たちも本当に頑張って応援してくれていたので、この代で日本一を成し遂げるというのが一番の目標ですね。チーム全体で勝ち獲りたいです」という田部井涼の言葉を思い出す。気まぐれなサッカーの女神が、最後の最後で前橋育英へ課した大きな試練。この『敗戦』を乗り越えた先だけに、彼らが追い求めてきたゴールが待っている。
取材・文=土屋雅史
“1月9日”からわずかに6日後。2017年シーズンの前橋育英は、初めての公式戦に当たる新人戦の初戦を迎える。後藤田亘輝、松田陸、角田涼太朗、渡邊泰基とそっくり残った4バックに加え、双子の田部井涼に田部井悠、アタッカーの飯島陸と7人の全国決勝経験者を擁して挑んだ新人戦で頭角を現したのは、「青森山田との決勝も応援席で何もできない自分が凄く悔しかった」と語る宮崎鴻。決勝の前橋商業戦では先制ゴールを含め、3ゴールに絡む大活躍で優勝に貢献し、「選手権に出ていたメンバーにも負けないくらいの選手は揃っていますから」という田部井涼の言葉を証明するようなパフォーマンスを披露。選手層の底上げを強烈に促す。
さらにチームの活性化が進んだのは、“Bチーム”で挑んだ関東大会。2017年度の公式戦初黒星となったプリンスリーグ関東の鹿島学園戦から、総体予選までの間に開催されたこの大会で、“Bチーム”は並み居る強豪を倒して優勝を手にしてみせると、全国出場を懸けた総体予選の前線には、関東大会で結果を残した榎本樹と高橋尚紀の2トップがそのまま抜擢される。「どんどん競争し合っているので調子の良いヤツを使う感じで、誰が出てもいいような感じにはなってきましたね」と指揮官も手応えを口にした県大会は、彼らの活躍もあってきっちり優勝。主力の危機感と隣り合わせの競争は激しさを増していく。
次に彼らを待っていた『敗戦』は全国総体の準決勝。3回戦で青森山田に“夏のリベンジ”を達成し、頂点が見えてきたタイミングで、結果的に日本一へ駆け上がる流通経済大柏に0-1と苦杯を嘗めたが、このゲームはチームのスタイルを改めて見直すキッカケになった。「ロングボール主体の戦い方で負けてしまって、『これ以上は上に行けないな』というのがあったので、下で繋ぎながらパスワークを磨くという所に変えて行っています」と明かすのは田部井涼。最大の目標でもある“冬の日本一”に向けて、チームは戦い方の幅を持つために新たなトライへ着手した。
夏の『敗戦』から1カ月後。リターンマッチとなったプリンスリーグ関東の流通経済大柏戦。新スタイルを手に入れつつあった前橋育英は、「同じ相手に2回も負けちゃダメだ」という山田監督の激に応える格好で、苦しみながらも3-2と“秋のリベンジ”も成し遂げる。その試合後。「今日の一戦で自信は付いたかなと思いますね」と口にしたキャプテンが、「でも、謙虚にやることが一番かなと思いますね。自分たちに隙があるとすればそこしかないので、もちろん良い選手もいますし、良い指導者の方にも恵まれている中で、技術の前に心の部分でしっかり隙を見せないようにする所が、選手権を制覇する1つのポイントだと思います」と続けた言葉が頼もしい。
迎えた選手権予選でも、準決勝で前橋商業、決勝で桐生第一と県内の2大ライバルを相次いで撃破し、4年連続となる県代表の切符を獲得する。強豪校ゆえに喫する機会の少ない『敗戦』を糧とし、ターニングポイントとして、今シーズンの前橋育英は少しずつ、それでいて着実に成長を遂げ、“冬のリベンジ”に手の届く位置まで歩みを進めてきた。
ただ、ここに来て彼らは強烈な『敗戦』を突き付けられている。プリンスリーグ関東王者として乗り込んだプレミアリーグ参入戦。初戦の京都橘戦に5-0で圧勝した前橋育英は、その勢いを携えてジュビロ磐田U-18と対峙したものの、勝てば初昇格となる一戦でPK戦の末に敗れてしまう。加えてその結果は、“Aチーム”のプレミアリーグ参入への道が閉ざされるだけではなく、県1部リーグを制した“Bチーム”のプリンス関東参入決定戦進出をも消滅させてしまう『敗戦』でもあった。
あるいは1年前に匹敵するショッキングな『敗戦』が、各々のメンタルに重くのしかかっているであろうことは想像に難くない。それでも、最大の目標にしてきた大会は否応なしにすぐそこまで迫っている。「僕たちは苦労してきた代で、トップはもちろんですけど、応援している人たちも本当に頑張って応援してくれていたので、この代で日本一を成し遂げるというのが一番の目標ですね。チーム全体で勝ち獲りたいです」という田部井涼の言葉を思い出す。気まぐれなサッカーの女神が、最後の最後で前橋育英へ課した大きな試練。この『敗戦』を乗り越えた先だけに、彼らが追い求めてきたゴールが待っている。
取材・文=土屋雅史
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