NHK、民放合わせて週に39枠ある連続ドラマ、ここ20年で倍増したのは何故か?
(小林偉:大学教授・放送作家)
どんどん増え続ける連ドラ
以前にも指摘させていただきましたが、現在1週間に放送されている連続ドラマの枠数はクールごとに激増しています。4月にテレビ朝日系が日曜22時に、10月からはフジテレビ系が金曜21時に連ドラ枠を新設。また23時以降スタートの深夜ドラマ枠もどんどん増えていますよね。結果、この10月クールではNHK・民放を含め、実に39枠にまで増加しています。ちなみに2003年10月クールでは全部で21枠でしたから、この20年の間に倍近くにまで膨れ上がったことになります。
その理由は何か・・・あくまでも筆者個人が唱える仮説に近い“説”ですが・・・
①ドラマは放送外収益が見込めること
BS・CSなどでの再放送や、TVerなどによる見逃し視聴、DVD・Blu-rayソフト化、またはネット配信など、メディアが拡大し続けていることにより、コンテンツとして“ドラマ”がより重宝されるようになったことです。
バラエティ番組などはネタなどの“賞味期限”が短いため、1年もたてば再放送や繰り返し視聴には馴染みませんが、ドラマはその意味での“耐久性”に優れています。仮に20年以上前の作品でも再放送が十分可能です。その結果、初回放送以外での収益が見込めるというビジネス的要素がテレビ局へもたらされるわけです。
②30分など短尺枠の見直し
YouTubeなどの動画サイトでは、30分未満の尺の動画が再生数を伸ばす傾向にあります。それに倣ってテレビ番組も短尺化を進めたいのですが、19~23時のいわゆるGP帯(ゴールデン・プライムタイム)は60分枠が基本となっているため、30分枠は23時以降に集中。結果、①の理由も相俟って“深夜ドラマ枠”の激増に繋がっているというわけです。
③近年の番組制作に於けるコンプライアンス強化
数年前と比べ、コンプライアンス意識が高まり、番組制作に様々な規制が設けられ、特にバラエティ番組の現場に影を落としていること。そのためテレビ局としては①②の理由もあり「どうせ制作費を投入するならドラマ」という意識が働いているということですね。
繰り返しますが、あくまでも“仮説”ではあるものの、以上のような点が連ドラ枠激増の理由ではないかと筆者は睨んでいます。
もう一つ“急上昇中”なものとは?
さてさて、これだけ枠数が拡大していることが影響しているのかどうかは定かではないものの、ここ数年、もう一つ“急上昇中”なのが、“お笑い芸人たち”のドラマ進出率です。1クールの内、少なくとも4分の1程度の作品に登場しているのです。
最近の例を挙げてみると・・・この4月クールでは、『わたしのお嫁くん』(フジテレビ系)にヒコロヒー、『日曜の夜ぐらいは』(テレビ朝日系)に椿鬼奴、『Dr.チョコレート』(日本テレビ系)には平子祐希(アルコ&ピース)、『シガテラ』(テレビ東京系)に酒井健太(アルコ&ピース)、『王様に捧ぐ薬指』(TBS系)に塚地武雅と鈴木拓(ドランクドラゴン)、『Pending Train-8時23分、明日君と』(TBS系)に村田秀亮(とろサーモン)、『好感度上昇サプリ』(テレビ東京系)に久保田かずのぶ(とろサーモン)、『春は短し恋せよ男子』(日本テレビ系)にもう中学生、『かしましめし』(テレビ東京系)に福田麻貴(3時のヒロイン)、『ホスト相続しちゃいました』(フジテレビ系)に兼近大樹(EXIT)などなど・・・。1シーンのみのゲスト出演でいえば、かなで(3時のヒロイン)、岡野陽一、森田哲矢(さらば青春の光)なども登場していました。
さらに7月クールでは、『転職の魔王様』(フジテレビ系)においでやす小田、『around 1/4』(テレビ朝日系)に藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、『トリリオンゲーム』(TBS系)に岩崎う大(かもめんたる)、『ばらかもん』(フジテレビ系)に飯尾和樹(ずん)、『ブラックポストマン』(テレビ東京系)に近藤春菜(ハリセンボン)、『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)に山口智充、そして『紅さすライフ』(日本テレビ系)にはコウメ太夫(!)という具合。
塚地武雅、山口智充、飯尾和樹、近藤春菜、藤森慎吾などは、既に俳優としての実績十分という感じですが、もう中学生やコウメ太夫の登場にはビックリ。特にコウメ太夫は、お笑い要素一切ナシで、主演の大西流星の厳格な父親を演じていて、例のあの芸風(チキショー!)とのギャップに驚かされましたね。
この他にも、富沢たけし(サンドウィッチマン)、矢作兼(おぎやはぎ)、小藪千豊、水川かたまり(空気階段)、友近、せいや、粗品(霜降り明星)、岡部大(ハナコ)、春風亭昇太、立川談春などなどが重要な役どころで連ドラに登場していたのもドラマファンはご記憶かと・・・。
また、『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)のバカリズムのように脚本を手掛けたり、南海キャンディーズとオードリーの半生をドラマ化した『だが情熱はある』(日本テレビ系)、芸人養成所が舞台の『最初はパー』(テレビ朝日系)など、題材やスタッフへの“進出率”も高まっているように思います。
思い返せば、いまや大ベテラン俳優である伊東四朗、泉ピン子、でんでん、モロ師岡、阪田マサノブ、田口浩正、片桐仁らも出発点はお笑い芸人。ドラマや映画に抜擢されたことで、役者としての才能を華々しく開花させていったわけです。
そんな中、この10月クールでも『トクメイ!警視庁特別会計係』(フジテレビ系)に、松本人志などのモノマネでお馴染みのJPが頭脳派刑事役(!)で登場するそうです。
ドラマ研究家の筆者としては、史上最大に膨れ上がった連ドラの可能性を広げてくれる存在として、これから一層、芸人俳優たちの活躍に注目していきたいと思っております。
筆者:小林 偉
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