「痛い」がわからない子供たち…転んでケガをしても、痛がらずに泣かない子が増える原因とは
「暴言を吐く」「わざと人が嫌がることをする」など、子どもの困った行動にどう対応していいかわからず悩んでいる親御さんは多いのではないでしょうか。これらの子どもの困った行動には“愛着の問題”が関係していることが多いのだそうです。
和歌山大学教育学部教授 米澤好史先生は、こどもの愛着障害の第一人者であり、保育園・幼稚園、小中高校など幅広い現場に触れながら、親や教育者・支援者へ“愛着の問題”解消のアドバイスを行なっています。
今回は「愛着の問題」について米澤先生の解説を、著書『発達障害? グレーゾーン? こどもへの接し方に悩んだら読む本』(フォレスト出版)よりお届けします。
「愛着」がうまく結べていないときに起こること —— 愛着の問題とは何か
※画像はイメージです
愛着という“絆”は、ひとりでは育めない
• わるいことをしたり暴言を吐いたりして、みんなの注目を引こうとする• 友だちのモノを隠したのに、やっていないと言いはる• 人が嫌がることをわざとする• 誰彼かまわずに抱きついたり、かかわりを求めたりする• 「どうせ自分にはできない」などネガティブな発言ばかりする
これらは、愛着の問題を抱えるこどもたちに起こる行動の一例です。
愛着とは「特定の人と結ぶ情緒的なこころの絆」のことで、その愛着の絆がうまく結べていないのが、愛着の問題。つまり誰とも愛着の絆を充分に結ぶことができず、関係性をきちんとつくれていないという「関係性」の問題です。
でも、勘違いしないでください。愛着の問題は、愛情を与えたか与えなかったかの問題ではありません。
特定のふたりのあいだの関係性の問題ですから、親としては適切なかかわりをしているつもりでも、愛着の問題は生じます。いわば愛情の行き違いです。
そのため、上の子とは愛着を結べているけれど、下の子とは結べていないという状況が起こり得ます。
愛着の問題を抱えるこどもたちに共通するのは、特定の人との絆を体感できていないために、情緒や感情が未発達だということ。自分で自分の気持ちがわからないのです。だから混乱し、困った行動を起こします。
そもそも感情はどう育まれるの?
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では愛着の問題を抱えるこどもは、なぜ感情が未発達なのでしょうか。その理由は、私たち人間の感情がどう育まれるかを考えると、よくわかります。
そもそも感情や気持ちというのは、ひとりで学習できるものではありません。自分と一緒に過ごしてくれる人とのやり取りのなかで、気づけるようになるものです。
たとえば、「できてうれしい!」という感情は、自分ひとりでは感じとることができません。誰かに認められた経験——つまり誰かとの関係性のなかではじめて感じられる気持ちです。
親としては「こんなに愛情を注いでいるのに……」と思ってしまいますよね。 けれども愛情とは、こども自身が“感じる”もの。親がいくら愛情を与えたところで、愛を感じるしくみがこどもに身についていなければ、受けとれないのです。
愛着の絆は、愛を受けとって人との関係性を築くための、いわば土台です。
その土台ができていないがために感情が育たず、感情の発達が未熟なせいで関係性が築けない……愛着を結べていないこどもたちは、こうした負のループにはまりこんでいます。
「痛い」がわからないこどもたち
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私たち人間はこの世に生まれ出たときから、「原始感情」をもっています。
ごく簡単に言うと、「自分が気持ちいいか、不快か」という2つの感情で、生まれたてのあかちゃんでも、今、気持ちがいいか否かをちゃんとわかっています。
やがて特定の人との関係を築いていく過程で、「この感じが“楽しい”」で「これは“うれしい”」「これは“得意だぞ”って気持ちだ」という具合に、自分の感情を区別しながら学んでいくことになります。
たとえば、ただ転んでケガをしただけでは、それが痛くて悲しいんだと気づくことはできません。一緒にいる人が「痛いね、悲しいね」と言ってくれてはじめて自分のなかの感覚としてとらえ、「これが“痛み”で“悲しい”感情なのだ」と学びます。
けれども今、ただ「気持ちがわるい」しかわからないこどもたちが増えています。「なんだか不快で嫌だ」ということはわかるけれど、それが「怒り」なのか「悲しみ」なのか、わからないのです。
転んでケガをしても、痛がらずに泣かない子もいます。
自分のピンチをとらえてくれる大人がいなかったせいで、痛みがわかりません。
何か感覚が生じているけれど、それが「痛い」という自分にとってピンチの感覚なのだと認識できないのです。
年齢や知的レベルとは無関係
感情は関係性のなかで学習するものですから、その子の知能や知的レベルとは関係ありません。そのため何歳であっても、愛着の絆を結べていないこどもは感情の発達が未熟です。
低年齢であるほど行動の問題としてあらわれやすいですが、中学生や高校生になったからといって自然に学べるものでもありません。
自分の感情を学び、他者と健全な関係を築いていけるようになるためには、その土台となる「愛着の絆」がどうしても必要なのです。
では、この愛着の絆は、どのようにつくられていくものなのでしょうか。
親の愛情が一方通行にならず、こどもたちにしっかり受けとってもらうためにも、愛着がどう形成されていくのか、そのメカニズムを知っておくことが大切です。
→『発達障害? グレーゾーン? こどもへの接し方に悩んだら読む本』のほかの記事はこちら
この記事は、米澤好史著『発達障害? グレーゾーン? こどもへの接し方に悩んだら読む本』(フォレスト出版)より一部抜粋・再編集したものです。
書籍『発達障害? グレーゾーン? こどもへの接し方に悩んだら読む本』
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