F1に参戦するPUメーカーを分析。メルセデスとフェラーリが財政と“依存度”で圧倒【大谷達也のモータースポーツ時評】

2024年1月10日(水)19時8分 AUTOSPORT web

 近年、F1における自動車メーカーの存在感は次第に強まっているように思う。それはハイブリッドをはじめとする先端テクノロジーの重要性を考えれば必然的な流れでもあるが、自動車メーカーのビジネスという側面から彼らのF1への関わり方を分析すると、競技結果だけではわからない各社の事情や今後の展開が見えてくる。


 ここでは、独自に構成したランキング表を用いながら、パワーユニット(PU)マニュファクチュアラーとF1チームというふたつの視点で各自動車メーカーの状況を評価してみたい。


 その第1回は、パワーユニットマニュファクチュアラーとしてF1グランプリに参戦するホンダ、メルセデスベンツ、フェラーリ、ルノー/アルピーヌの4メーカーについて取り上げる。


 まずは、2022年度の各社の売り上げを比較してみよう(表1)。


■表1(売り上げ)


































順位メーカー売上額ポイント(トップを100とした場合)
1メルセデスベンツ17兆4979億円100
2ホンダ14兆5526億円83
3ルノー/アルピーヌ6兆5317億円37
4フェラーリ7988億円5


 ここでトップに立ったのは、意外にもメルセデスベンツで、ホンダを約3兆円、ルノー/アルピーヌを10兆円以上も引き離している。フェラーリに至っては、メルセデスベンツの1/20ほどの売り上げでしかない。その差は歴然としている。


 こうした順位は、利益で比較しても変わらないが、その格差はさらに広がる(表2)。ここで注目したいのがフェラーリのポイントで、売り上げ額では5だったものが利益では7に上昇している。これはフェラーリの利益率が飛び抜けて高いことを示すもの。一般的にいって、1台あたりの車両価格が高くなればなるほど利益率は高くなる傾向があるので、これは当然の結果ともいえる。ちなみに利益率だけで比較すると、1位はフェラーリの21.1%、2位はメルセデスベンツの14.6%、3位はホンダの6.0%、4位はルノー/アルピーヌの5.3%となる。


■表2(利益)


































順位メーカー利益ポイント(トップを100とした場合)
1メルセデスベンツ2兆5619億円100
2ホンダ8712億円34
3ルノー/アルピーヌ3474億円14
4フェラーリ1685億円7


 なお、企業の体力=財政力は利益ベースで比較すべきだろうから、この先の評価では主に表2を用いることにする。


 いっぽうで、各メーカーがF1グランプリに注ぐ力の大小は、企業としての体力だけでは決まらない。各メーカーにとってF1がどれだけ重要かによっても、そこに費やせる熱量は変わってくるだろう。


 この点で圧倒的に有利なのがフェラーリであることはいうまでもない。なにしろ、彼らはF1グランプリが創設された1950年から連綿と参戦し続ける唯一の自動車メーカー/チームであるだけでなく、フェラーリというブランドを構成するうえでもF1は欠かすことができない重要なファクターとなっているからだ。


 たとえば、2023年に発表された最新ロードカーのフェラーリSF90XXストラダーレは、スクーデリア・フェラーリ設立90周年を記念して命名されたもの。F1ファンであればご存知のとおり、スクーデリア・フェラーリが創設されたのは1929年で、F1マシンのSF90は2019年に発表された。ちなみに、これに呼応するカタチでロードカーのSF90ストラダーレも2019年に発表済み。先ほど申し上げたSF90XXストラダーレはSF90ストラダーレの高性能版という位置づけで、ベースモデルから4年遅れで世に送り出されることになった。

フェラーリ SF90XXストラダーレ


 このSF90XXストラダーレに限らず、フェラーリ・ロードカーの大半はデザインなりテクノロジーなりがF1をモチーフとしている。21.1%という並外れた利益率も、ロードカーとF1が極めて近い関係にあるからこそ実現できた数値で、その意味でフェラーリのF1依存度は自動車メーカーのなかでもっとも高いといっても過言ではない。したがって、フェラーリのF1依存度は4メーカーのなかで文句なしのトップで、100ポイントを付与したい。


 いっぽう、メルセデスベンツ、ホンダ、ルノー/アルピーヌのF1依存度は、あくまでも私自身の主観的評価ではあるものの、フェラーリに比べればはるかに小さい。それを数値化するのは困難だが、メルセデスベンツがメルセデスAMG、ルノーがアルピーヌというモータースポーツとゆかりの深いブランドを有しているのと比べると、ホンダにはスポーツモデル専用ブランドがなく、企業全体としてのF1依存度はより低いと考えられる。そこでここでは、表3で示したとおり、フェラーリ:100ポイント、メルセデスベンツとルノー/アルピーヌ:40ポイント、ホンダ:30ポイントという設定にさせていただいた。


■表3(F1依存度)





























順位メーカーF1依存度(トップを100とした場合)
1フェラーリ100
2メルセデスベンツ40
3ルノー/アルピーヌ40
4ホンダ30


 これらのポイントを各メーカーの財政力にくわえると、1位は140ポイントのメルセデスベンツ、2位は107ポイントのフェラーリ、3位は64ポイントのホンダ、4位は54ポイントのルノー/アルピーヌとなる(表4)。


■表4(財政力+F1依存度)







































順位メーカー財政力F1依存度合計ポイント(=財政力+F1依存度)
1メルセデスベンツ10040140
2フェラーリ7100107
3ホンダ343064
4ルノー/アルピーヌ144054


 この順位とポイントはなにを示しているのだろうか?


 財政力とF1依存度がともに大きいということは、継続してF1に参戦する余力が大きいと考えられる。つまり、メルセデスベンツはF1依存度が余り高くないけれど、財政力に余裕があるのでF1参戦を続けるのは難しくないと受け止められる。いっぽうのホンダとルノー/アルピーヌは、フェラーリに比べれば財政的な余裕は大きいものの、F1依存度は決して高くないので経営判断次第でいつF1から撤退してもおかしくないと推測される。もっとも、4メーカーとも2026年に導入される新レギュレーションには賛同しているので、少なくともそこまでは参戦すると考えられる。

レッドブルとアルファタウリにパワーユニットを提供するHRC(ホンダ・レーシング)。レッドブルRB19のフロントノーズにロゴが入っている
ピエール・ガスリー(BWTアルピーヌF1チーム)


 将来的なF1参戦の可能性について考えるうえで、忘れることができないのが電動化の影響だ。


 現在、ヨーロッパではエンジン車やハイブリッド車の販売を制限し、電気自動車(BEV)や燃料電池車(FCV)の販売を促進する傾向が強まっている。このため、ヨーロッパを拠点とする多くの自動車メーカーが「20◯◯年までにエンジン車やハイブリッド車の生産を終了し、BEVに移行する」などといった声明を発表している。ただし、ある自動車メーカーがエンジン車やハイブリッド車の生産を打ち切れば、ハイブリッド方式のパワーユニットを用いるF1グランプリに参戦する意義が大幅に薄れ、最悪の場合、F1グランプリから撤退する可能性も考えられる。つまり、自動車メーカーの電動化戦略と将来的なF1活動の間には密接な関係があるのだ。


 では、現在F1パワーユニットを供給している4メーカーの電動化戦略とは、いかなるものなのだろうか?


 おそらく、この4社のなかで電動化にもっとも積極的なのはホンダである。彼らが「2040年までにグローバルのBEV/FCV比率を100%とする」ことを目標として掲げていることは、多くのF1ファンの知るところだろう。


 もっとも、メルセデスベンツやルノー/アルピーヌの戦略にも大差はなく、前者が「市場環境が整えば2030年までに全車をBEVとする」と表明すれば、後者は「ルノー・ブランドとして2025年にヨーロッパで65%以上、2030年に最大90%を目指す」といった具合。ただし、アルピーヌが今後、送り出すモデルはすべてBEVとなるので、アルピーヌ・ブランドでF1グランプリに参戦する意義は急激に薄れる可能性が高い。

ルイス・ハミルトン(メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム)


 いっぽう、エンジン車やハイブリッド車の生産終了を唯一、明言していないのがフェラーリで、私が調べた範囲でいえば「2025年に最初のBEVを発表する」というのが、彼らの電動化戦略に関する唯一の具体的な目標。裏を返せば、フェラーリは今後もエンジン車やハイブリッド車の生産を継続する考えを持っているわけで、その意味でいえば電動化の影響をもっとも受けにくいF1パワーユニット・マニュファクチュアラーということになる。


 そこでフェラーリを100ポイントとすれば、「市場環境」を条件に織り交ぜたメルセデスベンツの「非電動化戦略」はおおむね40ポイントと評価していいように思う。アルピーヌ・ブランドのエンジン車ないしハイブリッド車は絶滅する見通しながら、ルノー・ブランドとしては少数ながらも生産を継続する考えのルノー/アルピーヌは30ポイント、2040年のエンジン車/ハイブリッド車生産中止を「目標」として掲げているホンダは20ポイントに値すると考えられる。


 これらを、ここまでのポイントに加えると、1位にはフェラーリ(207ポイント)が浮上し、メルセデスベンツ(180ポイント)は2位に転落。3位にはホンダとルノー/アルピーヌが84ポイントで並ぶという結果になった。


 いずれにせよ、ここで示したランキングは、客観的なデータをベースにしつつも、私の主観もかなり入っているので、異論や反論は多々あるはず。それでも、メーカーやチームの競技結果をただ眺めるだけでなく、その背景にある自動車メーカーごとの事情を調べてみると、意外な発見があるといえそうだ。


■表5(総合)












































順位メーカー財政力F1依存度“非”電動化ポイント総合ポイント
1フェラーリ7100100207
2メルセデスベンツ1004040180
3ホンダ34302084
3ルノー/アルピーヌ14403084

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