「野球は男のスポーツ」片岡安祐美さんに反対した父の言葉、それでも甲子園を目指した理由は

2025年1月17日(金)10時0分 読売新聞

小学校高学年頃の片岡さん。いつも野球が身近だった

 日本の女子野球選手の先駆けで、社会人チーム「茨城ゴールデンゴールズ」の監督を務める片岡安祐美さん(38)。今では女子チームを抱えるプロ球団も多いが、片岡さんが中高校生の頃は、男子に交ざってプレーするしかなく、たくさんの苦悩があったそうだ。(読売中高生新聞編集室 渡辺星太)

玄関に転がっていたバットやボール

 「小さい頃から、野球好きの父の影響を強く受けました。家のテレビでは四六時中、甲子園やプロ野球の中継が流れ、玄関にはバットやボールが転がっていました。父の草野球の応援にもよく出かけたし、見よう見まねでボールを投げると、めてもらえるのがすごくうれしかった。

 その流れで、自然と甲子園に憧れるようになります。少年野球チームに入りたいと頼みましたが、両親は猛反対。特に父は、『野球は男のスポーツ。女の子が中途半端な気持ちでやろうとしても、絶対に無理だ』と許してくれませんでした。

 確かに当時は、『男子は野球、女子はソフトボール』という時代でした。でも、私は甲子園に行きたいと思っていたので、男子と一緒に野球をするしかなかったんです。今思うと、父は私の本気度を試していたんだと思います。『周りのみんなが入っているから、私も』みたいな考えを嫌う人でした。しばらく自己流で練習をして、ようやくチームに入ることを認めてもらいました」

女の子の友達がいなくなって

男子に囲まれて野球を続けていると、グラウンド外では、女子の友だちから思わぬ反応を招いた。

 「小学6年生になると、女の子たちは思春期を迎えます。私がチームの男の子と一緒にいるだけで、『私が○○君のことが好きなのを知ってるでしょ』と始まります。私は成長が遅かったのか、そういう声をあまり気にせず、放っておきました。すると、女子の友だちが次第にいなくなっていきました。休み時間はいつも独りぼっち。悲しくて、つらくて、母のひざでワンワン泣いたのを覚えています。

 少年野球を引退した冬、父が『途中で投げ出すこともなく、よくレギュラーも取った』とめてくれました。それまでお下がりのグラブを使っていたのですが、新しいのを買ってくれると言うのです。でも、売り場に行っても全くうれしくありません。野球をやっているせいで、女子の友だちがいなくなったと思っていたからです。『グラブは要らない。中学では野球はやらない』。そう言って、泣きじゃくりました。

 それからはひどかったようです。家のドアは荒々しく閉めるし、妹にもつらく当たるし……。長い期間、野球から離れたのも、このときが初めてでした。見かねた母から『グラウンドに行ってみたら』と言われました。引退したチームの練習に顔を出してみると、意外と打てたし、ボールも捕れて、めちゃくちゃ楽しかったんです。『私は野球が好きなんだ』って、改めて気づかされました。その後、すぐに父に新しいグラブを買ってもらいました(笑)」

中学に入ると、再び男子ばかりの野球部に入るが、今度は彼らが思春期を迎えてしまう……。

 「中学の部活では、13人の同期がいました。もちろん私以外は、みんな男子です。でも、中学生の男子って、女子と話すのがなんか格好悪いと感じる年頃なんでしょうね。そういう気持ちを、当時の私は全然わからなかった。だから、キャッチボールの相手はいないし、お弁当も一緒に食べてくれない。また、独りぼっちになってしまったんです。

 男子の間には、一生懸命になることが格好悪いっていう雰囲気もあって、監督やコーチがいない練習では、みんな手を抜いていました。不満で仕方がなくて、父に愚痴ぐちったら、『勝ちたかったらお前がやれ』って。その通りだなと思いました。それからは、無視されようが、ウザがられようが、チームメートに自分から積極的に声をかけました。そのうちに、向こうからキャッチボールに誘ってくれる人も増え、みんな練習に身が入るようになりました」

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