ヤマハXSR700、元マセラティエンジニアからもたらされたシートレール交換の発想

2018年1月31日(水)14時45分 AUTOSPORT web

 都内のUNITED cafeで1月31日〜2月5日まで開催中の『Motor!!Motor!!vol.7 EXHIBITION for YAMAHA XSR700』。期間中はカフェ店内にヤマハXSR700や関連パネルが展示されているが、これに先立って1月24日に開催されたイベントでは、XSR700の開発者トークショーが行われた。


 トークショーに登場したのはXSR700のデザインを担当したGKダイナミックスの清水芳朗さん。さらに、イベントを主催するアパレルブランド『ROARS ORIGINAL(ロアーズオリジナル)』の高橋生児さんが進行役を務めた。

XSR700をデザインした清水さん(左)と『Motor!! Motor!!』主催の高橋さん(右)


 XSR700は2015年末に、まずヨーロッパで発売が発表されたスポーツヘリテージカテゴリーのバイク。スポーツヘリテージとは今回取り上げるXSR700はもちろん、XSR900やSR400といった最先端の技術を搭載しつつも正統派のビジュアルを持つバイクのことだ。


 XSR700はMT-07をベースモデルとし、正統派スタイルに688ccの水冷4ストローク直列2気筒DOHCエンジンを搭載する。2017年11月、ついに日本での販売も開始された。


 2008年から2014年にGKダイナミックスのオランダオフィスに出向していた6年の間にXSR700のデザインに携わり、製作したという清水さん。XSR700は「ヨーロッパで生産開発をしたモデル」なのだという。


「実は、ヤマハのR&D(研究開発)がイタリアのミラノにあり、ヤマハの商品企画、マーケティング部門がオランダにあります。企画の段階から作業するため、GKダイナミックスもオランダにデザインオフィスを持っているんです。モデリングの段階になると、イタリアに飛びます。また、ファクトリーはフランスにあります」


 ヤマハのバイクは『デザインのヤマハ』とよく形容される。それには、開発の地がヨーロッパということが深く関わっていると清水さんは語る。もちろん、XSR700も例外ではない。


「X-MAXや125ccのスーパスポーツやロードスポーツ、TRACER700などはフランスで開発されていて、そのためにデザインをヨーロッパでやる形をとっています」


■ヨーロッパでの開発がヤマハバイクの“シャレっ気”をつくる


「ヤマハのシャレっ気というのがどこから来ているのか。それは、外国人の開発者が、しっかり入ってくるという点だと思うんです。例えば、(XSR700開発のときに一緒にいたのは)マセラティで働いていたエンジニア。バイクではなく、イタリアでクルマをやっていた人です」

XSR700(マットグレーメタリック3)


 さらに、ドゥカティで働いていたエンジニアなど、ヨーロッパのバイクについてよく知っている人たちとともに作業をする。


「そういった人間は当然、(ヨーロッパでの)もののありさまというのがよくわかっています。日本で開発をやると情報をとりにいかなければならないのですが、それをしなくていいんです。ヨーロッパにR&Dを持っているのは、今はヤマハだけ。そこがいちばんの強みですよね。ヨーロッパに住んで、オーセンティックのブームを見ている人間が造っているわけですから」


 ヨーロッパではバイクが生活に浸透している。イベントひとつとっても日本とは違ったバイク文化を感じることができ、そうしたなかで生活する人たちが関わって造られたのが、ヤマハのバイクなのだ。


「パリのイベントでは、食事をしながら音楽を楽しみつつ、バイクをたしなむ文化ができています。それはバイクに乗らなくてもすごく楽しくてすごくおしゃれな空間なんです」


「ヨーロッパにはいろいろなバイクのイベントがあって、イギリスのグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(新旧のバイク・クルマが集まるフェス)やベルギーのバイカーズクラシック(クラシックバイクに特化したイベント)があります」


「ファッションも、アパレルやシートまで選べるものが豊富なんですよ。そんななかでデザインを考えると幅がすごく広がるし、バイクを買ってどんな服で乗るのかということに悩まない。そういうのを普通に見ていたり、情報を知っているのが彼らの強みですよね。ほんっとにかっこいいですよ。普通の洋服屋さんにもバイクが置いてあるんですから」

ヤマハにとって第3者となるデザイナー視点だからこその切り口の話も飛び出した


 実はXSR700はシートレールが外れ、短いシートに変更することができる。これを発想したのが、マセラティのエンジニア。ヨーロッパで開発を行ったからこそ誕生したパーツのひとつだと言えるだろう。


■ネオクラシックの次にやってくるオートバイのスタイルは


 当然ながら“格好いい”という感覚には地域によって差があり、XSR700はヨーロッパモデルでありながら日本でも受け入れられるスタイルを意識している。


「ヨーロッパだと、このモデル(XSR700)ではタイヤなどが太くないと現代風に見えません。マフラーもコンパクトの方がモダン。そういう視点で造るから、ヨーロッパっぽくはなります」


「日本ではこんなに太いタイヤではなくシートもきれいに、マフラーももっと長い方が格好いい、とう感覚です。そういう地域差はありますよ。ショートテールとショートマフラーは日本では好き嫌いが激しいので……。XSR700はヨーロッパモデルなので今のような形になっていますが、ある程度は日本もなじむようなデザインにしています」


 では、今後やってくるスタイルというのはどのようなものなのか。デザイナー視点で清水さんはこう予想した。


「今はネオクラシックですが、YZF-R6みたいなきれいなモデルに、スタイリッシュなウエアで乗るというカルチャーは確実にあります。ヨーロッパのイベントでは、バイクは(BMWの)GSのフルアドベンチャーモデルで、アパレルはオーセンティックというのがある。それをトータルパッケージしているんですね。そうすると、違和感がまったくないんです。それが次のジェネレーションなのかという気はしますね」


 また、日本のライダーが今と同じようにバイクを楽しむため、自らを含めたつくり手がより気軽にバイクを楽しめるようなものづくりをしていきたい、と清水さんは言う。

「デザインのヤマハ」はヨーロッパに開発拠点があるからこそ


「今の日本ではバイクに関するものがマニアックになってしまっていますが、ヨーロッパでは全然そんなことはなくて普通の格好でバイクに乗れます。それがまさにXSR700なんです。みなさんにバイクに乗ることを楽しんでもらうために、僕らがいろいろなアイテムを提供しないといけないですね


 すでに次のバイクのデザインを手掛けているという清水さん。清水さんの口調からはデザイナーという視点はもちろん、ひとりのバイク乗り、バイク好きとしての思いをひしひしと感じることができた。


■GKダイナミックス
13社ものからなる老舗デザイングループ会社のひとつ。ヤマハのバイク製品第1号であるYA-1から、実に66年間にわたり約98%のヤマハバイクのデザインを担っている。


■清水芳朗(しみず・よしろう)
1968年生まれ。千葉大学在学中に購入したバイクにのめり込み、GKダイナミックスに入社。入社後はヨーロッパの中型、大型バイクを手掛け、スポーツヘリテージモデルのデザインには基本的に参加している。2008年〜2014年にGKダイナミックスオランダオフィスに出向し、その間XSR700のデザインに携わった。現在は日本のGKダイナミックスに所属し、動態デザイン部統括部長としてバイクデザインに関わる。


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