スーパー耐久マシンフォーカス:2年連続チャンピオンの強みとは。メルセデスAMG GT4

2021年2月6日(土)11時45分 AUTOSPORT web

 全8クラスが競うピレリスーパー耐久シリーズのなか、GT4マシンによって競われるST-Zクラスは、2018年のクラス創設以来、年々車種バラエティが増え、2020年シーズンの全5戦では8車種、10台がエントリーした。


 不定期にお送りしている“スーパー耐久マシンフォーカス”。第5回目となる今回は2019年、2020年と2度のST-Zクラスタイトルを獲得した『メルセデスAMG GT4』の特徴、特性をご紹介しよう。


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 2017年7月の第69回トタル・スパ24時間でお披露目され、2018年シーズンからデリバリーが開始された『メルセデスAMG GT4』はロードカーである『メルセデスAMG GT R』をベースに開発された。


 先行開発されたFIA-GT3マシン『メルセデスAMG GT3』の開発で得たノウハウを豊富に取り入れており、2020年シーズンのスーパー耐久シリーズでは3台がエントリーし、最も多くのシェアを集めた。


 2019年から参戦し、2年連続でST-Zクラスのシリーズタイトルを獲得したENDLESS AMG GT4の中村稔弘エンジニアは「どのサーキットにもそこそこ合っているところが特徴ですね。車重は1,390キロと重たいクルマですが、よく考えられて作られたクルマだと感じます」とAMG GT4の印象を語った。


 FIA-GT4はジェントルマンドライバーに向けたカテゴリーであるため、各メーカーはドライビングアシスト機能の充実を図っている。なかでもAMG GT4の特徴は、ABSとトラクションコントロールをスイッチオフを含めた12段階で細かく設定可能だということだ。


 選択肢の幅が広いことから、毎回違うコースの特性やコンディションに対する合わせ込みがしやすいという。これがAMG GT4というクルマがどのサーキットでも強いという理由の一つとなっているのだ。


「ドライバーが感じないくらいの変化もありますが、走りながらどんどん、路面状況やタイヤの状況に細かく合わせていけます。そこがジェントルマン向けの車両が速く走るためのキーポイントですね」と中村エンジニアは語った。


 最大出力510馬力を誇る4リッターのV8直噴ツインターボエンジンはロードカーから大きな変更はなく、レースユースに応じて冷却が強化されているに過ぎない。しかし、ミッションは『メルセデスAMG GT3』譲りのヒューランド製6速シーケンシャルギヤボックスを搭載している。


「エンジンのマイレージは4万キロになります。2018年シーズンを終えて約1万キロちょっとでした。現時点(2020年第3戦岡山にて取材)では1万6000キロ近くですね。距離の長い富士24時間レースを2回走ってもまだまだで、ほぼ4年使えるということです。なので、まだチェックもないですね。1万キロでスパークプラグを交換することになっているので、1シーズン走り終わったらプラグを換えるくらいです」


「ミッションのマイレージは1万2000キロでチェック、2万キロでサービスとなります。1万2000キロで一回開けて、チェックして何も問題がなければそのまま組んで、2万キロでフルオーバーホールになります」


 ロードカーのミッションをそのまま搭載するGT4マシンが多数を占めるなか、AMG GT4のようなレーシングミッションを搭載する車両は少数派だ。しかし、本格的なレーシングミッションといえど、サービスまで2万キロとマイレージは長く、メンテナンス面でも決して不利とはなっていないのだ。

コクピットはGT3と共通のパーツが豊富に使用されている
エンジンはロードカーから冷却系が強化された4リッターのV8直噴ツインターボ
液体が溢れた際のために、エンドレスグッズのリストバンドを巻いている
タイヤサイズはフロントが305/660R18、リヤが305/680R18となる


■アップデートで改善されたAMG GT4の意外な“弱点”


 2020年3月より耐久レースでのパフォーマンス向上に焦点が当てられて開発されたAMG GT4用のEVOキットがリリースされたが、一体どのようなアップデートが施されたのだろうか。


「2018年モデルで一番ネックだったのは走行中、エンジンオイルの温度が高くなることでした。夏場に走っていると油温が限界まで上がるので、ペースを落とさざるを得ないレースもありました。これに関しては、こちらもメルセデスにフィードバックしました」


「それを加味して、2020年モデルでミッション、エンジン、クーラーの位置を変えたり、水温を冷やすためにガーニーフラップを追加しています。また、ブレーキを冷やすためにブレーキダクトが変わったり、ブレーキローターも変わりましたね。ブレーキ系の冷却とエンジンの冷却、水温、油温ののパフォーマンス向上が2020年のEVOモデルのアップデート内容となります」


 2019年7月21日に行われた第4戦オートポリスでは油温が限界値まで上昇し、レース中にショートシフトに変えてペースを落としたという。2019年もシーズンを通して好成績を残していたAMG GT4だが、耐久レースを戦う上では、冷却不足が大きなネックとなっていたのだ。


 しかし、2020年モデルはこれまでの弱点を克服しており、大きな不満や弱点と呼べるものは無くなったという。それがAMG GT4による2020年シーズン5戦中4勝という成績を支えた支えた要因となっているのかもしれない。


 そんなAMG GT4の販売価格は2600万円程だ。GT4のなかでは高額な部類に入るが、2020年シーズンのスーパー耐久シリーズには3台がエントリーしている。エントリー台数が多いということはエントラントから支持を受けていることの現れでもあるが、なぜAMG GT4は支持されているのだろうか。


「各チームさまざまな理由はあると思いますが、やはりメルセデスに対する信頼の高さというのはあると思います」と中村エンジニアは話す。


「メルセデスのカスタマーへ向けたサポートは凄いです。さすがメルセデスだなと思うのは、シーズン中、新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う渡航制限でドイツからサポートエンジニアが来られませんでした。でも、日本の代理店さんを通じてレースの間、ドイツは夜中なんですが、サポートエンジニアが電話で繋がっているんです。何かがあったらすぐに対応できるような環境を作ってくれているんですよね。かなり助かっています」


 カスタマーレースを戦う上で、車両の開発、販売元であるメーカーのサポートは重要だ。メルセデスの場合、各チームに平等にサポートを実施するという点も支持を受ける理由だ。


 なお、パーツデリバリーの面では、通常発送でもエア便を利用し1週間程度でパーツが日本に届くという。急を要する際には、(高額にはなるが)より短期間で到着するよう柔軟に対応し、手配してくれるという。このようなサービス面の充実もエントラントにとってありがたい存在だ。


■AMG GT4を通じた製品開発も


 自動車のアフターマーケットにおいて国内最大手のブレーキメーカーであるエンドレスが走らせるENDLESS AMG GT4には、エンドレスが自社で開発したブレーキパッドが装着されている。


「本当であればキャリパーもローターもうちの製品を使いたいのですが。パッドだけで合わせこんでいます。ブレーキメーカーなので、データを見ながら細かく合わせられるので、そこはエンドレス製パッドを使用する他のチームにもバックアップできる点だと思います」


 GT4車両はキャリパー、ローターの交換は認められていないが、ブレーキパッドの変更は可能だ。そのため、エンドレスでは毎戦自社で開発したブレーキパッドを装着した参戦している。もちろん、AMG GT4で開発された内容が市販の製品にフィードバックされることもあるという。


「レースで培ったものを市販品にフィードバックする、開発してより良いものを作るというのをレースの場でやっています」と中村エンジニアは語った。


 メルセデスAMG GT4は、2020年シーズンのスーパー耐久シリーズにおいて、第1戦と第2戦でENDLESS AMG GT4が、第3戦岡山では5ZIGEN AMG GT4が、そして最終戦となった第5戦でENDLESS AMG GT4が3勝目を挙げ、5戦中4勝という他を圧倒する成績でシーズンを終えた。


 2021年シーズンのスーパー耐久シリーズではタイヤがピレリからハンコックのワンメイクに変更となるが、ST-Zクラスの勢力図にどのような影響が出るのだろうか。ST-Zクラスにおいて“最強”と言われるメルセデスAMG GT4が、その好調を維持できるのかという点も含めて、楽しみは尽きない。

メルセデスAMG GT4のリヤハッチの内部
リヤに収められた燃料タンクの最大容量は120リッター。燃料タンクの搭載位置が高く、給油時間は速くはないと中村エンジニア
GT3同様、ルーフには緊急脱出用の蓋も備えている
リヤのアッパー、アーム類も純正品、ダンパーはKW製だ。
エントラントで変更が可能なブレーキパッド。ENDLESS AMG GT4はもちろんエンドレス製だ。
ENDLESS AMG GT4

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