岡田阪神の“秘蔵っ子”門別啓人とは何者か? 19歳の若武者が高卒2年目で先発ローテ争いに食い込める理由

2024年2月18日(日)11時0分 ココカラネクスト

高校時代から北海道では名の知れた存在だった門別。しかし、全国レベルで彼の知名度は決して高くはなかった。写真:西尾典文

 昨シーズンに38年ぶりとなる日本一を達成した阪神。戦力の充実ぶりを見る限り、今年もセ・リーグの優勝筆頭候補となりそうだが、そんなチームにあって小さくない話題を提供する若手がいる。高卒2年目の門別啓人だ。

 ルーキーイヤーの昨年は2軍で12試合に登板。2勝2敗2セーブ、防御率2.78と確かな成績を残すと、シーズン終盤には早々と1軍に昇格し、プロ初先発となった9月30日の広島戦では5回無失点の好投を披露。シーズン終了後の秋季キャンプでは、さらに成長した姿を見せ、岡田彰布監督からも絶賛の言葉が並んだ。

【動画】先発ローテ争いに食い込む快投 門別啓人の春季キャンプのピッチング

 その苗字の通り、北海道沙流郡門別町(現・門別町)の出身の門別は、アマチュア時代から確かなポテンシャルの持ち主であった。

 小学校6年生の時には毎年末に行われている『12球団ジュニアトーナメント』に日本ハムファイターズジュニアとして出場。東海大札幌に進学後は1年秋からエースとなり、2年夏には南北海道大会の準々決勝に進出。この頃から北海道の高校野球関係者の間で彼の名がよく聞かれるようになった。

 筆者が、その投球を初めて見たのは2年秋に出場した北海道大会準決勝、対クラーク記念国際戦だった。先発のマウンドに上がった門別は4回まで相手打線をヒット3本、無失点に抑え込む好投を見せたが、5回と6回に合計5安打を集中されて4点を奪われて降板。チームも1-5で敗れて負け投手となっている。

 ただそれでもピッチング自体は強い印象を残している。当時の取材ノートにも以下のようなメモが残っている。

「大型サウスポー(当時のプロフィールは182センチ、85キロ)だが、フォームにギクシャクしたところがなく、上手く上半身の力を抜いて柔らかく腕が振れ、リリースに力が集中している。走者がいなくても時折クイックで投げるなどフォームに変化をつけることができるのもセンスの良さを感じる。

 ストレートのアベレージは130キロ台中盤から後半だが、力を入れるとコンスタントに140キロ以上をマーク。特に右打者の内角に投げ込むクロスファイヤーの角度は素晴らしく、腰を引かせることも多い。(中略)110キロ台のカーブも落差があり、カウントをとるのに有効。スライダーは120キロ台前半で少し変化が早い。もう少し速くて小さい変化のボールほしい。身体が少し正面を向くのが早く見えるが、大きな欠点はなく、高校2年秋の時点では十分なレベル」

 ちなみに、このクラーク記念国際戦で門別がマークした最速は、筆者のスピードガンで145キロ。そのボールは明らかに力を入れた時のもので、完全に打者は差し込まれていた。ただ、メモにもあるように、1試合を通じて高い出力を維持するだけのスタミナはなく、中盤以降にスピードが落ちたところを狙い打たれる粗さがあった。

球界で高い評価を得ることになった要因とは?

 ふたたび門別の投球を見たのは3年夏の南北海道大会札幌支部予選の札幌新陽戦だった。

 相手先発の細野龍之介(当時2年)もドラフト候補に挙げられる好投手で、7回までは両チーム無得点という緊迫した試合となった。

 そのなかで門別は最後まで相手打線を寄せ付けることなく被安打4、14奪三振で見事完封勝利をマーク。この試合での最速も前年秋に見た時と同じ145キロだったが、試合終盤までコンスタントに140キロ台を叩き出し、課題と見ていたスタミナ面も着実にアップしていた。また、変化球もスライダーは相変わらずスピード不足に見えたものの、この時には130キロ台で鋭く変化するツーシームをマスターしており、このボールが威力を発揮した。

 そして、もうひとつ感心したのがこの試合で記録された4死球だ。この数字だけを見れば、コントロールが課題かと思われるかもしれないが、一方で与四球は0。決して制球に苦労していたわけではないのである。相手打者の内角をいかに厳しく攻めていたかをよく表しており、先述のツーシームも効果が増し、14個もの三振を奪うことに繋がったと言えた。この時から投球術は冴えていた。

 結局、最後の夏も南北海道大会の準決勝で敗れ、甲子園の土を踏むことはできなかった。しかし、2位という高い順位での阪神入りは、高校3年間での成長ぶりが評価された結果だった。

 高卒1年目から2軍で結果を残し、球界で高い評価を得ることになった要因として、何よりも大きいのは、高校時代からフィジカル面の強化が進んでいたということではないだろうか。門別は前述したように2年秋から182センチ、85キロ(現在の登録は183㎝、86㎏)と高校生としてはかなり立派な体躯をしており、とりわけ太もも周りの充実ぶりが目立っていた。

 高卒の選手は「まず身体作りから」と言われるが、門別の場合は、その壁を早々とクリアできたことで技術面の向上に集中的に取り組めたという部分は少なからずあったはずだ。また、内角を厳しく突くことができる姿勢や、カーブ、スライダーだけでなく逆方向のツーシームをマスターして投球の幅が広がっていたというのも大きかったと言えるだろう。

 阪神の投手陣は、実績のある西勇輝、青柳晃洋、伊藤将司に加え、昨年にブレイクした村上頌樹、大竹耕太郎、さらには才木浩人、西純矢などの若手などタレントが豊富。先発ローテーション入りとなれば、無名の高校から成り上がり、ブレイク間近の若武者でも簡単なことではない。

 ただ、そんなローテーション争いに門別が加わるようなことになれば、阪神にとって、チームの将来性を考えても極めて大きなプラスとなるのは間違いない。果たして、岡田監督の秘蔵っ子がどこまで躍進を遂げるのか。19歳の投球に注目だ。

[文:西尾典文]

【著者プロフィール】

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。

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