WRC最高峰クラスのハイブリッドシステムが廃止へ。FIAが2025年以降の新たなロードマップを承認

2024年3月6日(水)17時12分 AUTOSPORT web

 2月28日、FIA国際自動車連盟は2024年最初の世界モータースポーツ評議会(WMSC)を開催。モハメド・ビン・スライエムFIA会長が議長を務め、FIAスポーツ担当副会長のロバート・レイドを含むWMSCメンバーらがジュネーブの連盟事務所に直接参加した評議会にて、WRC世界ラリー選手権の将来に向けたロードマップを認可した。


 このなかで、現在シリーズの最高峰カテゴリーで採用されている、ラリー1規定に従って製作されたマシンに搭載されているプラグイン・ハイブリッドシステムを廃止する方向で計画が進められていることが明らかとなった。


 今回のWMSCで議論されたWRCのロードマップは、WRCワーキンググループがFIAに提出したもので、チャンピオンシップの現状のレビュー、維持すべきスポーツの主要な特性、および将来に向けた一連の目標を示すものだ。

2024年WRC世界ラリー選手権の最高峰クラスに参戦している3メーカーのラリー1マシン(左から)トヨタGRヤリス・ラリー1、ヒョンデi20 Nラリー1、フォード・プーマ・ラリー1


 スライエム会長の要請により12月に設立されたワーキンググループは、ロバート・リードFIAスポーツ担当副会長とWMSCメンバーのデビッド・リチャーズが率いる団体で、新たな提案として、チャンピオンシップのPRやマーケティングなどのプロモーションにさらなる重点を置く計画や、WRCのスポーツ面および技術開発面における変更をロードマップとして示した。


 今回明らかになった技術面の変更方針としては、2022年より導入されている現在のラリー1規定は2026年までWRC最高峰クラスのマシン規定として継続をするが、2025年より開発コストを削減するためにプラグイン・ハイブリッドシステムを廃止し、全体の重量の削減やエアリストリクターの削減と空力の調整によってパフォーマンスを補うことになるという。


 そして2026年には、現行のラリー1コンセプトに基づいた技術規則改定が導入される予定となっており、共通のセーフティーセルを使用することで開発コストと複雑性を軽減し、マシン重心や空力などの均一基準に基づいて、自動車メーカーやチューナーが、Bセグメント、Cセグメント、コンパクトSUVなどの量産モデルやコンセプトカーなどのモデルをベースに独自のボディワークを備えたマシンを開発できるようにしていく。

一部の公道区間では、ハイブリッドシステムを使用してEV走行を行う


 ハイブリッドシステム廃止以降のエンジン出力は330馬力がターゲットとなり、全車の性能は基準となる規定トルクカーブによって制御。さらにエンジンとトランスミッションにはコスト制限が設けられ、テクノロジーはラリー2と同等のものに限定されるという。さらに、想定される最高速度に則った空力効率の制限を行うことで、開発コストを削減する方針が提示された。


 1台あたりのコストは40万ユーロ(現在の日本円で約6507万円)に制限され、マニュファクチャラーは自社の車両を大会のフィニッシュ・パルクフェルメから直接販売できるようにする必要がある。


 そして、ラリー1からひとつ下のカテゴリーとなるラリー2マシンは、国内および国際シリーズの基礎として、ホモロゲーション期間中は現在の形式を維持される。しかし、2025年以降のWRCイベントに出場するラリー2マシンには、ラリー1マシンとのパフォーマンスギャップを減らす目的で、より大型のリストリクターやエキゾースト、使用を選択できるパドルシフト・ギアボックスやリヤウイングを含む『WRCキット』を装着して走行するオプションが与えられる。

勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1) 2024年WRC第1戦ラリー・モンテカルロ
ステファン・ルフェーブル(トヨタGRヤリス・ラリー2) 2024年WRC第1戦ラリー・モンテカルロ


 WRC委員会はさらに、適切な技術規則の確立を担当するFIA技術部門によって先導された電動のカテゴリーのWRC導入を検討し、新しいラリー1規定で採用されるセーフティセルを活用したマシンで、持続可能な燃料で走行するラリー1マシンと同等のパフォーマンスを発揮する規定をできるだけ早い段階で取り入れる意向であることを表明した。


 また、新たなスポーツ規則の方向性として、イベントオーガナイザーのステージルートの設定にさらなる自由度を設けるほか、新たなラリーフォーマットとしてのスプリントスタイルやエンデュランスを数大会追加する可能性があることを明らかにしている。


 そのほかにも、人員や輸送コスト削減の一環として、3台体制を敷くチームにはスタッフ数の上限を設けるほか、各チームのサービスパークについて、現地調達可能な資材を構造物に使用する新たなモデルを導入する案も提示された。

3台体制のヒョンデ・シェル・モービスWRTのサービスパーク
同じく3台体制を敷くTOYOTA GAZOO Racing WRTのサービスパーク内


 最後に、新たに重視されることとなったカテゴリーのプロモーション面においては、WRCプロモーター、イベント主催者、メーカーチームの関係者と緊密に連携して、FIA内にWRCプロモーションチームが設立されることが決定された。合意された一連の目標とKPI(重要業績評価指標)に基づいて、より多くの観客に宣伝するためのすべての利害関係者の一連の活動を定義するWRC憲章を作成することを発表している。


 WRCに関するこれらの新ロードマップについて、FIAのスライエム会長は次のようにコメントしている。


「WMSCメンバーは、WRCワーキンググループの勧告を慎重に検討し、確立された一連の目標を支持することで一致団結した。WMSCの承認を得て、WRC委員会が将来の方向性を固めるのにおおいに役立つ提案の最終決定に取り組むことができる段階にあることは、チャンピオンシップとその関係者、そしてラリーコミュニティ全体にとって重要な瞬間である」


「また、WRCファン調査の結果は、最終提案を作成する過程でWRC委員会によって慎重に検討されていることも重要だ。現在から将来を見据えたうえで、適したWRCを提供するプロセスを継続していくために参加してくれたすべての人に感謝している」


 今回のロードマップの制作においては、WRC内部の広範な専門知識と経験を活用するだけでなく、WRCファンを対象とした調査結果も考慮された。FIAから委託された調査では1万1000件以上の回答が得られ、その内容はラリーの形式や車種、スポーツの仕様などいくつかのトピックに関して貴重なフィードバックが投影されているという。


 WRCは現在、WRCワーキンググループの勧告に基づいて、次回のWMSC会議に提出するための具体的な提案を起草する段階に入っており、2025年シーズン以降の新しいスポーティングレギュレーションとテクニカルレギュレーションは、2024年6月末までに発表される予定だ。

ハイブリッドシステムを搭載したラリー1規定導入以降タイトルを連覇しているTOYOTA GAZOO Racing WRTのトヨタGRヤリス・ラリー1


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