エンジンウォーズ過熱で緊張感高まるスーパーGT500クラス。開幕前日の手応えと低気温での自信

2018年4月6日(金)18時23分 AUTOSPORT web

 いよいよ、今週末に開幕するスーパーGT2018年シーズン。GT500クラスは昨年、開幕戦の岡山国際サーキットではレクサスLC500が表彰台を独占するだけでなく、参戦している6台でトップ6を占めるという、圧倒的なパフォーマンスでその後の序盤戦を席巻し、その開幕戦を制したKeePer TOM’S LC500が年間チャンピオンに輝いた。果たして今年はどのような勢力図になるのか。ウエイトハンデが全車0kgとなるこの開幕戦で、各車各メーカーのパフォーマンスが明らかになる。


 今年に入ってからのマレーシアのセパンから鈴鹿、岡山、富士、もてぎで開催されたオフテストで目立ったのは、3メーカー/15台のタイムが拮抗していることと、トラブルの多さだ。


 把握しているところでは、初めて全車が揃った岡山公式テストで19号車のWedsSport ADVAN LC500、その後の富士テストでは24号車フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-R、39号車DENSO KOBELCO SARD LC500、そして23号車MOTUL AUTECH GT-Rにエンジントラブルが起きてしまった。


 その発端となっているのが、近年のF1で主流となっているエンジン点火の急速燃焼技術であるプレチャンバー(副燃焼室)だ。このプレチャンバーをホンダがスーパーGT/スーパーフォーミュラに昨年に導入したとみられており、そのホンダに追いつけ追い越せでレクサス、ニッサン陣営もエンジン開発を急いでいると考えられている。その開発が過熱している証左として、昨年まではあまり見られなかったエンジントラブルがオフテストで頻出したと推測されるのだ。


 3メーカーともこのプレチャンバーに関しての明言はなく、推測で考えるしかない状況ではあるが、口を閉ざすこと自体がすでに現在のGT500の開発のキモとなっていることの裏返しとも言える。


 ただ、オフテストでエンジントラブルが起きたメーカー/チームも、新しいエンジンのライフの確認のために敢えて限界付近までエンジンを回したという見方もあり、むしろ「ホンダ陣営の方が実戦でエンジンの限界を把握できていないのではないか」という声も聞こえている。


 いずれにしても、エンジンの開発競争が特に今年、過熱してきていることは間違いなく、そのメーカー間の緊張感が僅差のタイム差と相まって、昨年以上にドライバー/チームに大きなプレッシャーとなっている状況だ。


 下馬評ではいち早くプレチャンバー技術を投入したとみられるホンダのエンジンパフォーマンスに一日の長があると見られ、ホンダNSX-GTは昨年から大きくパフォーマンスを上げていることは3者とも認める。


 オフテストでホンダ陣営内でもトップになることが多かったKEIHIN NSX-GTの塚越広大も「レクサスとの差は縮めることができたとは思いますが、上回っている感触はまだない。まだ開幕戦を見てみないと、『こんなはずではなかった』ということになりかねません」と新調な見方だ。


 塚越に限らず、ホンダNSX陣営としては予選一発の速さはあるが、ロングランでどこまでその速さを保てるかが課題となっており、塚越も「予選で速くても、レースでも同じ強さを見せられるかと言ったら、まだ悩ましい部分がある。だからこそ、予選でポールポジションを獲れる速さがあると思うので、できるだけ前のグリッドでスタートしたい」と、開幕戦の狙いを語る。


 一方のレクサス陣営も今年は6チーム中4チームでドライバーコンビが新しくなり、さらにTRDのサポート体制も大きな変更を見せた。昨年圧倒的な強さを見せたレクサスLC500陣営だが、この人事がどのような影響を及ぼすのか、ドライバーのパフォーマンスとともに注目だ。


 今季、WedsSport LC500からau TOM’S RC Fに移籍した関口雄飛も、この開幕戦には意外にも慎重な姿勢をみせる。


「このオフは正直なところ、もうちょっと走る時間がほしかったですね。でも、テスト時間はみんな同じ条件なので、自分だけが足りないわけじゃない。明日の練習走行、予選で走ってなんとかしたいですね」


「スーパーGTはウエイトハンデがある特殊なレースなので、もちろん、コースに出たらベストを尽くしますけど、まずは最後まで生き残る走りをしたいと思います。開幕戦の結果を見て、そこからシーズンの戦い方を組み立てたいと思っていますので、まずは開幕戦の目標は完走です」と、関口ならぬ冷静なコメント。自分だけでは乗り越えられない、さまざまな要素が絡み合っているスーパーGTのならではの複雑さと恐さを、関口が熟知しているということでもある。


 今シーズンのGT500クラスにはジェンソン・バトン(RAYBRIG NSX-GT)、そして小林可夢偉(DENSO KOBELCO SARD LC500)とF1で実績のある世界トップドライバーが参戦し、彼らがどんなパフォーマンスを見せるかが最大の注目のひとつだ。世界でも類を見ないタイヤコンペティションにウエイトハンデ、二人一組での戦い、そしてGT300との混走などなど、スーパーGTならではの複雑さに彼らがどう対応していくのか。1周の距離が短く、コース幅の狭い岡山国際サーキットでいきなり、その試練に立ち向かうことになる。


 また、レクサス陣営としては2018年型LC500の開発を務めたZENT CERUMO LC500の立川祐路も関口同様、慎重に言葉を選ぶ。


「手応えは……まあまあ(苦笑)。テストでは今ひとつだったところもありますが、良くなかった原因は把握できているので、シーズンに向けてはそれなりの準備はできたんじゃないかと思っています」


「今年はレクサス陣営内だけでなく、他2メーカーとの戦いも厳しくなると思うので、全車ライバルのような雰囲気です。今までもそうですけど、GT-Rは安定して速いし、NSXはセットアップが決まったときはとてつもなく速い。テストではロングでも異常に速い時があったので、あとはタイヤのピックアップ次第でしょうね」と、関口、立川とレクサス陣営からは昨年のような余裕は感じられず、ライバルを警戒している。


 ニッサンGT-R陣営としても、3号車CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rが昨年までの46号車に替わって新たにGT500に参戦し、フォーラムエンジニアリング GT-R、カルソニック IMPUL GT-Rではドライバーラインアップが代わり、4チーム中3チームで担当エンジニアも新しく就任した。


 エース車両のMOTUL AUTECH GT-Rだけでなく、オフのテストではカルソニックGT-Rがトップタイムをマークするセッションも見られ、今年からチームのエース格となる佐々木大樹に注目が集まる。


「(12月、2月の)セパンテストの時はまだブリヂストンさんのタイヤと、新しいチームということでまだ全然、煮詰め切れていなかったんですけど、テストを重ねるごとにリザルトも上がって来て順調に調子が上がってきました。ブリヂストンタイヤの印象と合わせて、ロングランのペース、レースで強そうな手応えを持っていますので、予選の結果次第では、すごくいいレースができるのではないかなと思っています」と、このオフテストの充実ぶりを語る佐々木。


 カルソニックGT-Rは昨年、まさかのチームランキング13位という結果になったが、テストでの好調ぶりを見ても、今年は一躍、開幕戦から優勝を狙えるような雰囲気がある。


 今週末の岡山国際サーキットは金曜日の搬入日が雨となり、土日は晴れる見込みだが、気温は予想されたピーク時で20℃前後から、15℃程度と5度以上低くなりそう。


「週末は寒くなるので、いかに低温度の路面コンディションにクルマのセットアップとタイヤを合わせられるか」と、立川が今週末の展望を語れば、「気温が低ければウチに味方になる可能性があります。攻めたタイヤチョイスをしていますので、それがきちんと機能するかですが、レースに自信を持っているので予選がターゲットになりますね。3番手以内に入れれば」と、自信を見せる佐々木。


 各メーカー、そしてチームごとの勢力図に、タイヤチョイスによるセットアップなどなど、いつものスーパーGTらしい要素が濃縮されて、昨年異常に拮抗しそうな今シーズン。そのファーストラウンドが岡山でいよいよ明日、幕を開ける。


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