南本宗一郎がMoto2代役で痛感した世界の壁。爪痕を残した印象的なレースとどん底で流した悔し涙

2023年4月27日(木)20時12分 AUTOSPORT web

 2014年に全日本ロードレース選手権J-GP3から参戦を開始し、以降はST600、ST1000で活躍し、さらに鈴鹿8耐にも参戦した経験を持つ南本宗一郎。2023年はアジアロードレース選手権(ARRC)へと舞台を移しているが、そんな南本にMoto2クラスへの代役参戦の誘いが舞い込んで、世界選手権デビューを果たした。


 南本は、3月24〜26日にタイで開幕戦を迎えたアジアロードのSS600に参戦していた。初戦となったレース1を6位で終え、レース2を控えた26日朝にMoto2への代役参戦の依頼がヤマハから届いた。

アジアロード選手権の第1戦タイで3位表彰台を獲得した南本宗一郎


 同日にはロードレース世界選手権もポルトガルで開幕を迎えており、Moto2フル参戦の野左根航汰(Correos Prepago Yamaha VR46 MasterCamp)が25日のP3でクラッシュ。野左根は腰椎を骨折し、開幕戦と連戦の第2戦アルゼンチンを欠場することが想定されたため、南本の元に連絡がいった流れだ。


 子供の頃からMotoGPを走りたいという憧れの気持ちがあった南本は「いいんですか? もちろん出ます」と即答したという。嬉しい知らせを聞いた南本は、気持ちが落ち着かないままレース2に挑むこととなったが、3位表彰台を獲得している。


 その興奮も冷めやらぬままサーキットを後にし、急きょ変更したフライトで帰国。レーシングスーツやエアバッグなどの装備を用意して、すぐに日本からアメリカを経由してアルゼンチンへと飛び立ち、第2戦アルゼンチンGPで世界戦デビューを飾った。

Moto2:南本宗一郎(Correos Prepago Yamaha VR46 MasterCamp)/2023MotoGP第2戦アルゼンチンGP


「緊張というより、不安はいっぱいでした。走ったことのないコースはもちろん、Moto2の車両はやっぱり全然違うと聞いていたし、乗れるのかなとか予選落ちしないかなと正直不安でした」と南本。


 初走行となった初日は雨が降ったり、晴れ間が差し込んだりと難しいコンディションとなったが、セッションを重ねるごとにタイムを更新して徐々にマシンに順応させていく。初めて操ったMoto2マシンの印象は以下のように語った。


「まず一番に思ったのは、重心がすごく高いことです。跨った瞬間に『高いっ、フロント低いっ』と感じて、ポジションが普段乗るYZF-R1や600ccのマシンと違いました。すごく前傾姿勢で乗っていて怖かったです」


「速度域はそんなに速くはなく、600ccと1000ccの間くらいの感じで問題なかったです。ピッチングやストローク量もすごく大きくて、ずっとどちらかに動いてるのが慣れなくて、レギュラー勢はこのバイクでよくあんなすごいレースをしているなというのが正直な感想です」

Moto2:南本宗一郎(Correos Prepago Yamaha VR46 MasterCamp)/2023MotoGP第3戦アメリカズGP


 Moto2マシンならではの乗り方や、ブレーキングの使い方などを要求されるため、苦戦を強いられたというが、限られた走行時間のなかでセットアップを煮詰めていき、予選も通過して27番グリッドを獲得した。


 南本は2日間でウエットとドライの両コンディションを経験し、周りのライダーの走りを確認した上で、ウエットコンディションでの自信とマシンのポテンシャルを確信していた。そんななかで決勝はウエットとなり、彼の望んだ状況となった。


 オープニングラップから一気に13台をパスし、ポイント圏内まで順位を上げていきなり存在感を示したが、「絶対に行くなら最初しかないなと思いましたが、攻めたつもりはありませんでした。たまたま周りの出だしが遅くて、気付けば前にいた感じでした」とレースの内容を説明した。


「1周目から最終ラップまで基本的に同じペースで走っていましたが、みんなはそこからどんどんタイムを上げて、最終的には僕よりラップタイムが2〜3秒速かったです。そこで頭打ちして、順位を下げてしまいました」


 しかし、レース中はフル参戦ライダーのペドロ・アコスタ(Red Bull KTM Ajo)などの強敵らをパスする場面もあった。「『僕がアコスタを抜いている!』って思いました。その後に抜かれてしまいましたが『アコスタやん!』って感動しました」と嬉しさも語っていた。

Moto2:南本宗一郎(Correos Prepago Yamaha VR46 MasterCamp)/2023MotoGP第2戦アルゼンチンGP 決勝


 最後まで粘り強い走りを見せた南本は、20位でチェッカーを受けて完走。代役の役割を果たした彼は、第3戦アメリカズGPでの代役にも任命され、周りから期待の声が寄せられるなか、プレッシャーも抱えながら2週間後にアメリカへと旅たった。


 開催地のサーキット・オブ・ジ・アメリカ(COTA)は激しいアップダウンと高速コーナーを多数抱え、多くのライダーがバンプに悩まされる難しいサーキットだ。代役2戦目で、COTAを走る南本はウイークを通して苦戦を強いられることになる。


「テレビで見ていると、アップダウンはあるけど大したことはないと思っていましたが無理でした。3年かけてもあの走りができるかなと思うと、レースに向いてないと思うくらいメンタルがやられていました」と初日こそ105%タイムをクリアできなかったが、予選では29番グリッドを獲得している。

南本宗一郎


 決勝ではスタートで順位を上げるも、順位を守り切れずに後退してしまい、集団から離されて単独走行となってしまった。このレースは多くのライダーの転倒が相次いだレースだったが、南本はしっかりと完走を果たした。厳しいウイークだったが「今までやってきたやり方では、無理だというのは一番感じました」と語るほど世界の壁を目の当たりにし、辛さから毎晩涙したという。


 しかし、この経験からウイークの流れや走行時間の使い方など、学びが多くあったようで、「セッションの進め方とか(に学びがあり)、細かくピットインしてセッティングするタイプでしたが、最近やらないようにはしていました。今回は本当に身をもって体感したので、絶対にアジアで活かそうと思いました」と前向きな意見も述べた。

Moto2:南本宗一郎(Correos Prepago Yamaha VR46 MasterCamp)/2023MotoGP第3戦アメリカズGP


 今シーズンからは各クラスの走行時間が短くなり、決勝前のウォームアップ走行はなくなった。ピットインの時間も1秒単位で事前にリスト化されていて、ライダーだけでなく「チーム力の重要さも痛感した」と語っていた。


「全日本ロードではセッション時間の進め方がすごくもったいないと一番に思いました。Moto2はほぼピットに入らずにずっと走っていて、時間がないなかライダーでなんとか合わせ込んで、終わってからセッティングを考えるというやり方で、ライダーが結構頑張らないといけないと感じました」


「でも一番はやっぱりメンタルですね。これだけやられて、どん底まで落とされたので、後は上がるしかありません。アジアロードでは気持ちで負けないように頑張ります」


 今シーズンはアジアロード戦う南本だが、代役を経験した上で、いずれは世界で戦いたいという意欲も出た。そんな南本は、4月28〜30日に開催される第4戦スペインGPでの代役も決定した。悔しさをバネに、レベルアップと成長を遂げていくていくこれからの南本の走りに注目していきたい。

Moto2:南本宗一郎(Correos Prepago Yamaha VR46 MasterCamp)/2023MotoGP第3戦アメリカズGP

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