ル・マン初走行の辻子依旦&横溝直輝「言葉にできないくらい、びっくりしました」

2023年6月6日(火)3時7分 AUTOSPORT web

 2023年のWEC第4戦ル・マン24時間レースに参戦するケッセル・レーシング74号車の日本人トリオ、ケイ・コッツォリーノ/辻子依旦/横溝直輝組は、6月4日のテストデーのセッションをLMGTEアマクラスの10番手で終えた。辻子と横溝にとってはサルト・サーキット初走行となったわけだが、どんな手応えを得たのだろうか。一夜明けた5日、サーキットでのミーティングを終えた彼らに話を聞いた。


■最難関インディアナポリスでの『恐怖心』


 参戦決定以来、イタリアのモンツァ、スペインのアラゴンで6日間のテストを行い、フェラーリ488 GTE Evoの習熟に努めたという3人。ル・マンについても、事前にシミュレーターで走り込んできたというが、実際に走ってみると驚きの世界が広がっていたという。


「言葉にできないくらい、はじめはびっくりしました」とブロンズドライバーの辻子。これまでフォーミュラ・リージョナルやスーパー耐久、GTワールドチャレンジ・アジアなどに出場経験はあるが、LMGTE車両は今回が初挑戦となる。


「まずはハイパーカーに抜かれる感じが一番ビックリしたのと、コースも『ここがバンピーだよ』『ここでみんなクラッシュするよ』と言われていた部分をすり合わせして、『あぁ、こういうことか』と。これからラップタイムが上がっていくと、より一層(求められる)内容が上がってくるのかな、というところで終わりました」


 テストデーでの辻子の周回数は26周。「わからないことだらけのところから、少しずつつかめたかなという感じです」とまずは確実にステップを踏んでいるようだ。


 ちなみにコースのなかで最も難しさを感じたのはインディアナポリスへの進入だという。ほぼトップスピードのまま右にステアリングを切り、横Gが残った状態からのフルブレーキング。さらにランオフエリアも極めて狭く、多くのトップドライバーにとっても緊張が強いられるコーナーと聞く。


 このインディアナポリスに関して辻子は「恐怖心が出てしまって、『こうしなければダメ』と言われたこともまだできないという難しさがあります」という。


「他のサーキットのコーナーでは、100点とはいかなくとも言われたことはできるのですが、そこがまだできていない状態です」


 一方、ハイパーカークラスに抜かれる難しさはポルシェカーブで感じるという。両側がウォールとなっている区間があり、ブラインドからものすごい速度差で上位クラスのマシンが迫ってくるからだ。ここではGTEマシンに搭載される後方レーダーも、機能しない箇所があるという。


 また、テストデーでは体験できなかった要素もある。「夜はそもそも、どこのコースでも走ったことがないので(苦笑)」と辻子。このあたりはレースウイークのプラクティスで習熟していくことになるだろう。


 とはいえ、事前のテストから3週間ほど同じチームで行動をともにしていることもあり、「そのあたりの空気感にはすごく安心して挑めているので、本当にもう自分のサーキットに対するものだけになっているのは、だいぶマシなのかなと思います」と辻子はポジティブな構えだ。

ケッセル・レーシングの74号車フェラーリで参戦する横溝直輝/辻子依旦/ケイ・コッツォリーノ


 一方、プロドライバーとしてキャリアを重ねてきた横溝も、意外や今回がル・マンは初挑戦となる。


 横溝は「いい意味でも悪い意味でも予想どおりというか、怖いだろうなと思っていたところは怖いし、でもシミュレーターで走り込んでいるから景色は見慣れている。いまは1周ごとに自分で学習していっているところです」と初走行を終えた感想を語る。


「怖いというか、日本にないようなコーナーが多いんですよ。それこそインディアポリスとかポルシェとか、ものすごく速度が高いので、チャレンジして何か(ミス)してしまったら、もう全損コースなんですよね。そういう意味では、石橋を叩いていかなくてはいけないところがあるな、と感じています」


 辻子同様、横溝も安全かつ確実なアプローチで、初めてのサルトに臨んでいる。


「僕がもっと若かったら『えいやー!』で行ってしまったと思うんですけど(笑)、この年齢(42歳)ですし、与えられている仕事がスピードの部分ではないので、いまは確実にこなしていっている、というところです。市街地コース、マカオみたいに1周1周を確実に走っていき、自分がしっかり走らなくてはいけないところに合わせ込んでいく、という感じですね」

ケッセル・レーシングの74号車フェラーリ488 GTE Evo


■目標は完走。そして『まわりに迷惑をかけない』


 ふたりに対してル・マンの経験豊富なコッツォリーノは、「順調すぎて、本当に嬉しいですね。ふたりともすごくいいドライバーですし、スマートで計算しながらやっています」と語る。


「ル・マンはドライバーのテンション上げすぎてしまうサーキット。どうしても舞い上がってしまったりしてクラッシュしますが、ちゃんとステップ・バイ・ステップでやれています。僕らは結果を出すということよりも、『ミスしない』『まわりに迷惑をかけない』、そして『完走する』というベースラインの目標があるので、単純にそれに向けてやっています」


 モンツァとアラゴンでのテストでも着実にステップを踏み、ここまでミスを出さないできており、「まだ様子見で走っています。100%は出していません」とコッツォリーノ。


「でも、このサーキットはそれを求められる場所ですし、逆に僕が100%で走ってしまうとチームに迷惑をかけてしまうから、僕は抑えなければいけないですね」


 なお、今年のル・マンではスポーティング規則が変更され、予選での各クラス上位8台が進出する最終予選『ハイパーポール』は、LMGTEアマではブロンズドライバーが担当することになっている。


 仮にコッツォリーノの予選アタックにより進出が決まれば、初出場の辻子に大役が回ってくることとなるが「この場を借りてヨリさん(辻子)には言いますが、全然それは意識しなくていい。フリープラクティス5回目だと思って走って欲しいですね」とコッツォリーノ。それくらい「あくまで完走を目指す」姿勢は徹底している。


 一見、無謀にも思えるチャレンジと捉えられるかもしれないが、事前のシミュレーターや実車でのテスト、そしてテストデーでのサルト・サーキット走行に至るまで、彼らはじつに着実にステップを重ねている。7日から始まるレースウイークの走行でもその姿勢を貫くことができれば、“完走”という大きな目標がさらに近づいてくるだろう。

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