WEC:スーパーシーズン終えたトヨタの中嶋一貴たちが凱旋。可夢偉「ル・マンはまだ勝たせてくれない」

2019年6月19日(水)20時45分 AUTOSPORT web

 6月19日、東京都内のトヨタ自動車本社で『TOYOTA GAZOO Racing WEC 2018-2019年シーズン報告会』が開催され、中嶋一貴小林可夢偉がWEC“スーパーシーズン”をふり返った。


 2018年5月に幕を開けたWECスーパーシーズンは、6月15〜16日に行われた第87回ル・マン24時間で閉幕。2年連続でル・マン24時間を制した一貴/セバスチャン・ブエミフェルナンド・アロンソ組8号車トヨタTS050がシリーズチャンピオンに輝いた。


 トヨタがシリーズチャンピオンを輝いたのは2014年以来。そして日本人ドライバーがサーキットレースで世界王者に輝いたのは、これが初めてだ。


 また僚機の7号車トヨタをドライブした可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ-マリア・ロペス組もシーズン2勝を挙げて、ランキング2位を手にした。


 報告会では、まずGRパワートレーン推進部の加地雅哉部長が登壇。2018/19年シーズンを「ル・マン24時間レースを連覇することができ、チームとドライバーのタイトルを獲得することができました」としながらも、「トラブルも多発するシーズンでした。まだまだチーム力、人づくりという面で改善するべき点は多いと思っておりますので、来シーズンに向けてしっかりとした改善を続けていきたいと考えております」と述べた。


 その後、会場には一貴と可夢偉が登場。日本人初のサーキットレースでワールドチャンピオンに輝いた一貴は「2018/19年シーズン、1年半という長いシーズンをしっかり戦い切ることができました。去年ル・マンで勝ってからワールドチャンピオンを目標にしてきたので、それを達成できてよかったです」と喜びを語った。


「今年のレース(ル・マン)に関しては、いろいろと複雑な結果でもありましたけど、チームとしてはワン・ツーで戦い切ることができたので、何年か前のことを考えれば大きな進歩だと思いますし、来年以降、よりよい形でやっていければなと思います」


 一貴はマシンをパルクフェルメに停めた直後のインタビューで涙を見せた場面が印象的だった。これについては「花粉症がひどくて(笑)」とおどけながらも「7号車が勝つであろう、勝つべきレースだったと思います。僕自身、何度もル・マンで悔しい思いをしてきたから、いろいろこみ上げてきて……。言葉にしづらいですね」と当時の心境を明かしている。

WEC報告会に登場した中嶋一貴(右)と小林可夢偉(左)


■可夢偉、ル・マンの“壁”を痛感も「互いをリスペクトして終えたことは誇りに思う」


 そのル・マンを23時間目までリードしていた可夢偉は「ル・マンは目標であるワン・ツーを2回獲ることができ、チャンピオンを獲れたことは、チームはもちろん、ドライバーも1年間をとおして大きなミスなく戦えたことが結果につながったのかなと思います」とコメントしている。


「とはいえ、レースは勝負事なので、負けた、悔しい、勝った、嬉しいというのは出てきます。そのなかでも僕たちが誇りに思うべきなのは1年間を通していいライバルであり、お互いをリスペクトしながらシーズンを戦えたことです」


「ル・マンはこういった結果に終わって、僕たち(7号車)は悔しい結果に終わりましたけど、互いをリスペクトしあいながら終われたことは、このスポーツをやっていてよかったなと心から思う瞬間でした」


「2016年、一貴に起きたことを覚えています。ル・マン24時間の難しさ、最後まで気を抜けないということを近くで見ていたので、偶然かもしれませんけど(今回のアクシデントは)“ル・マンの壁”なのかなと受け入れるしかなかった」


「あのタイミングでああいったことが起きるということは、『ル・マンはまだ勝たせてくれないんだな』と受け入れるしかありませんでしたね」


 7号車にはレース残り1時間のタイミングでスローパンクチャーが発生。一度ピットへ戻ると右フロントタイヤを交換してコースへ戻ったが、実際にパンクしていたのは右リヤタイヤだったため、再度のピットインを余儀なくされる。2度の緊急ピットインとタイヤバーストを避けるためのスロー走行が重なり、この間に8号車の先行を許してしまった。


 加地GRパワートレーン推進部長によれば、7号車トヨタの空気圧センサーは車体右側のフロントとリヤで配線が逆になっていたといい、これが原因でどのタイヤがパンクしているのか正しく把握できなかったという。


「センサーは右フロントのパンクを示していたので、一輪だけ交換して送り出しましたが、すぐにホセ(マリア・ロペス)からコーションが消えていないと言われました。換えたタイヤの内圧をチェックしたら正常だったので、システムがおかしいと気づいたんです」


「この時点でパンクしていたタイヤは内圧が落ちていたので、レーシングスピードで走るとバーストする危険性がありました。そのため低速で走らせることにし、どのタイヤがパンクしているのかわからなかったので四輪交換を決断しました」


「(レース後)車検の日にマシンをバラしたところ、空気圧センサーの右のフロントとリヤの配線がスワップされていることが判明しました。我々のミスで7号車のみんなには本当に申し訳ないです」


 7号車は予選1回目でLMP2クラスのマシンとクラッシュ。その影響でモノコックにひびが入ったため、予選2回目を前にモノコック交換を行っており、この際に配線の取り間違いが起きたと思われる。


■2019/20年に向け、王者の一貴「挑戦者という気持ちは変わらない」。可夢偉は”ハイパーカー時代”も見据える


 1年半という長丁場の戦いが終わったWECだが、約3カ月後には2019/20年シーズンの開幕を迎える。トヨタはディフェンディングチャンピオンとして挑むことになるが、一貴は「どれだけ実績を積み上げても挑戦者という気持ちは変わらない」という。


「まだまだ100%ではないですし、100%で24時間レースを戦えたとしても、それを継続していくことが僕たちに課せられた課題です」


「たとえ(完璧なレースを)10回できても、11回目に失敗が起こればダメなことに変わりはありません。理想論ですけど、10回、100回と繰り返して、100回とも100%にするつもりで戦う気持ちで戦わなくてはいけません」


 可夢偉も、ハイパーカー規定が導入され、アストンマーティンが参戦してくる2020/21年シーズンを見据え、次のように語った。


「ハイパーカー時代に突入して、新しいメーカーが来ると、もっとチャレンジしないと勝てない場面が出てくると思うんです。そういうときに今回経験しているひとつひとつのことが活かされると思います。


「今シーズン、トヨタの7号車と8号車しかトップを争っていないじゃないかと思われるかもしれませんが、7号車、8号車で戦うほうが辛い。僕たちのなかで勝ち負けがあって、精神的に追い込んでいる状況ですから」


「このスーパーシーズンは僕のレース人生にとっても挑戦した1年でしたし、今後勝負(の世界)で戦っていく上で本当にいい経験になったと思います。僕たちのなかで本当に難しかった1年半というものを、ライバルが来たときにしっかり活かせるように準備していきたい」


「世の中に完璧はないということも改めて経験させてもらいました。これからレースを続けていく上で、やり続けることが大事だと思うので、つねに努力して、改善して、どうやって自分を強くするのかを考えながらレース人生をやっていきたいと思います」


 報告会終了後には、トヨタ社員に向けた報告イベントも行われ、花束の贈呈や記念撮影、サイン会などが行われた。

報告会に登場した中嶋一貴(右)と小林可夢偉(左)

報告会終了後、中嶋一貴と小林可夢偉にはトヨタ社員から花束が贈られた


トヨタの社員向けに行われた報告会。多くの社員が一貴と可夢偉の活躍を祝っていた

トヨタ東京本社のエントランスにはWECやWRC、バスケットボールのBリーグでの活躍を祝う祝花も飾られていた

トヨタ東京本社の入り口にはル・マン連覇を祝う張り紙も

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