地元ウルティアが表彰台剥奪&失格裁定と大暴れのなか、リンク&コーの僚友が連勝劇/TCR WT第5戦

2024年8月6日(火)18時9分 AUTOSPORT web

 南米大陸を移動してブラジルからウルグアイへと入り、8月3〜4日にエル・ピナールで開催された2024年FIA TCRワールドツアーの第5戦は、母国開催で意気込むサンティアゴ・ウルティア(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コーCo 03 TCR)が大暴れを演じることに。日曜双方のヒートで接触による5秒加算ペナルティを課され3位表彰台を失うと、さらに再車検では「アンチラグシステムの不適切な使用」も発覚し、事態をさらに悪化させる失格処分も下りるなど、波乱続きの今季を象徴する失意の結末となる。


 そんななか、陣営内の僚友ヤン・エルラシェール(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コーCo 03 TCR)が予選ポールポジション獲得からのレース1“ライト・トゥ・フラッグ”を決め、レース2ではそのライトシステムの不具合による仕切り直しから、命拾いしたテッド・ビョーク(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コーCo 03 TCR)も勝利を飾るなど、チーム内で明暗が分かれる両極端な週末となった。


 アメリカ、ミド・オハイオからブラジルはインテルラゴスのホセ-カルロス・パーチェを経て、引き続きTCRサウスアメリカ・シリーズとの併催で争われたレースウイークには、エントリーリスト上で全29台のTCR車両が集結。


 前戦で今季初優勝を達成したアルゼンチンが誇る名手、エステバン・グエリエリ(ゴート・レーシング・チーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)が40kgの補償重量を搭載したのを筆頭に、選手権首位ノルベルト・ミケリス(BRCヒョンデNスクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)と地元の英雄ウルティアは同30kg、そして選手権争いの輪に加わるビョークが20kgと、ランキング上位勢は引き続き大きなハンデを背負う。


 そんななか、雨絡みとなったフリープラクティスからトップタイム先行となったリンク&コー・シアン・レーシングは、この補償重量を免れたエルラシェールが予選で躍動。ウォールやバリアへの接触やコースオフなど、複数回の赤旗中断にも翻弄されたQ1、Q2で1分20秒227のベストタイムを記録した世界戦連覇の元王者が、ミケル・アズコナ(BRCヒョンデNスクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)を0.4秒突き放す今季2度目のポールを獲得した。


「フィーリングは本当に良いし、Q1の終わりよりもずっと良い。そこでは完全に迷っていたからね」と明かしたエルラシェール。「Q1とQ2の間に少しクルマを変えたことで、心の中も大きくリセットしてなんとか取り組んだよ。そのラップで稼ぐため全力でプッシュし、肝心なところでそれを達成できたね」


 一方、FP1最速と好調さを披露していたマ・キンファ(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コーCo 03 TCR)は、この予選でも10番手としてレース2のリバースポール狙いを完遂したが、セッション後に「安全でない方法でコースに進入した」として5グリッド降格の処分と、今季初となる2点のペナルティポイントが課された。


「スチュワードは155号車(マ)がピットレーンから出てレースラインを離れなかったため、フライングラップ中の129号車(ネストール・ジロラミ)の邪魔になり、129号車と196号車(アズコナ)に危険な状況を引き起こしたと判断した」

ウルグアイはエル・ピナールでの週末は、FP2で豪雨に見舞われるなど、波乱を予感させる幕開けに
後に週末の勝者となるヤン・エルラシェールとテッド・ビョーク(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コーCo 03 TCR)もカートイベントを楽しんだ
TCRサウスアメリカで予選ポール獲得のペドロ・カルドゥソ(PMOレーシング/プジョー308 TCR/右)が、両ヒートも制覇することに


 迎えたレース1は、ブラジルで表彰台獲得のマルコ・ブティ(ゴート・レーシング・チーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)がスタートの波乱で押し出されウォールにクラッシュを喫すると、TCRサウスアメリカ勢でも接触スピンがあり早速のセーフティカー(SC)が配備される。


 レースが再開したのは5周目で、首位エルラシェールはポジションを堅守して集団をコントロールしたものの、6番手にいたウルティアは最終ヘアピンでジロラミのリヤを突つき、ホームストレート立ち上がりで5番手へ。これにグエリエリのシビックも追随して6番手としていく。


 しかし残り7分で、トヨタ・カローラGRS TCRから今回はホンダにスイッチしたノルベルト・フォンタナ(チーム・コブラ・レーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)と、ガリッド・オスマン(W2プロGP/クプラ・レオンVZ TCR)が接触して不動となり、ここで2度目のSCが発動する。


 残り4分からのラストスプリントで首位を維持したエルラシェールに対し、5番手にいたウルティアがここでふたたび勝負を仕掛け、最終コーナーで前方ミケリスのインに身を投げる。このダイブで弾き出されたポイントリーダーは、背後の僚友ジロラミにも先行されてしまう。


 タイムアップ直前には集団バトル内でグエリエリにもオーバーテイクを許したミケリスに対し、15番手発進から這い上がってきたマ・キンファが、ファイナルラップでFL5型シビックRに接触してハーフスピン状態へと追いやる。その隊列前方ではエルラシェールがアズコナを従えて快適な勝利を飾り、単独走行となったビョークが続く表彰台となった。


「素晴らしいレースだったね。僕らにとってスタートが非常に重要で、それが分かっていたから上手く決めなければならなかった」と勝者エルラシェール。「リードを保った瞬間に勝利に向けて大きく前進したが、ギャップを築くたびにSCによってゼロになり、やり直さなければならなかった。ミケル(・アズコナ)が後ろからとてつもない速さで来たから簡単ではなかったよ」


 さらに再三の“ダイブボム”を繰り出したウルティアには、初回のジロラミとの接触に対し5秒加算のペナルティが課され、4位から7位へと後退。これによりミケリス、ジロラミ、そしてグエリエリがそれぞれポジションを取り戻した。


「スチュワードは、112号車(ウルティア)が129号車(ジロラミ)と衝突したと判断した。衝突後、129号車はふたつのポジションを失った。これを考慮して、スチュワードはタイムペナルティを適用することを決定した」


 これでミド・オハイオでもグエリエリとの激しい衝突により週末失格処分を受けていたウルティアは、累積ペナルティポイントで8点に達し、迎えた最終ヒート。本来リバースポールから発進するはずだったマ・キンファはペナルティに消え、代わってTCRサウスアメリカ首位のペドロ・カルドゥソ(PMOレーシング/プジョー308 TCR)が実質の先頭発進を切る。


 しかしここでライトシステムの不具合によりレッドの消灯ではなくイエローで点滅したため、蹴り出しの反応が遅れたカルドゥソはグエリエリ、ジロラミのアルゼンチン勢に先行され3番手へ。さらに背後ではアズコナとの接触によりビョークがサイドウェイ状態に陥る。


 ここでレースコントロールは、スタート手順の不備として赤旗掲示から再スタートの判断を降し、最終的にグリッド位置リセットからSC先導スタートの仕切り直しに。

レース1スタートではマルコ・ブティ(ゴート・レーシング・チーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)が撃沈
選手権首位ノルベルト・ミケリス(BRCヒョンデNスクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)は、地元の英雄に苦しめられる
「週末のペースに苦しんだ」と言いつつ、ミケル・アズコナ(BRCヒョンデNスクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)がレース1で2位に入った


■6番グリッドから鮮やかな逆転優勝


 これで息を吹き返したのがビョークで、目の前の5番手にいたウルティアがリスタートのオープニングでグエリエリのシビックを弾き飛ばす現場を目の当たりにしつつ、3周目の終わりにはそのウルティアとジョン・フィリピ(ボルケーノ・モータースポーツ/アウディRS3 LMS 2)のバトルに乗じてポジションアップ。10周目にはフィリピも攻略し、首位プジョーの追撃に掛かる。


 最終ヘアピンでのクロスラインの攻防を経て、残り9分を切ったところでカルドゥソから首位を奪ったビョークが、タイムアップまでにプジョーを2秒以上突き放しての完全勝利を手にした。


「長い赤旗を経て、ようやくスタートできたことがうれしかった。他のドライバーたちと戦うのがとても大変なトラックで、まずウルティアが僕にポジションを与えてくれた」と波乱のレースを振り返ったビョーク。


「(ペドロ・)カルドゥソとも長いテール・トゥ・ノーズになったが、その瞬間には無理をせず僕を行かせてくれた。徹底抗戦せず、彼はできるだけ上位でフィニッシュしたいと考えていた賢い人物だ。もし彼が僕と戦い始めたら、他のクルマたちが追いついてくるだろうからね」


 一方、ビョークの首位浮上と同様のタイミングで、アウディ攻略に成功していたウルティアが3位でチェッカーを受けたものの、リスタート直後のグエリエリとの1件で5秒加算となり、その背後で執念の追走劇を見せていたグエリエリ自身がポディウムを奪還することに。


 さらにそのわずか数時間後に、スチュワードはビデオ資料を審査したうえでウルティアがアンチラグシステムを「手動でオンにした」ことが確認され、当該レースからの失格処分を言い渡した。


「技術規則の第6.4条『エンジン制御ユニット』では、参戦車両の『アンチラグシステムは許可』されています。システムは“エンジンが作動していないとき”に手動でオンにすることができ、かつ“いつでも手動でオフ”にすることができます」


「スチュワードは、FIAテクニカルデリゲート、データデリゲート、および112号車(ウルティア)のチーム代表から話を聞き、ビデオでの証拠を調べた結果、112号車のドライバーがレース2のエンジンが作動している状況でアンチラグシステムを手動でオンにしたと判断し、技術規則の第6.4条に違反しました。したがって失格のペナルティが適用されます」


 この裁定を受けウルティアは声明を発表し「これはコミュニケーションミスによるもの」だと弁明した。「失格は残念だが、純粋なコミュニケーションミスによるもので、レースでは往々にしてそういうこともある。(次戦の中国)株洲(ズーハイ)でのレースでは力強くカムバックしたい」


 これで今季3度目の失格裁定を受け、ペナルティポイントを9点としたウルティアが語るとおり、次戦のFIA TCRワールドツアー第6戦は、10月18〜20日に香港とマカオにもほど近い常設ストップ・アンド・ゴーの珠海国際サーキットで争われる。

レース2“幻の”オープニングでは、アズコナとの接触によりビョークがサイドウェイ状態に陥る
エステバン・グエリエリ(ゴート・レーシング・チーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)とネストール・ジロラミ(BRCヒョンデNスクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)も見せ場に絡み続ける
「徹底抗戦せず、彼はできるだけ上位でフィニッシュしたいと考えていた賢い人物だ」と2位カルドゥソを称えた勝者テッド・ビョーク


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