過去には開幕から9日目での解任も…プレミアリーグにおける早期監督交代の引き金とは?

2022年9月1日(木)20時11分 サッカーキング

今季プレミアの監督解任第1号となったボーンマスのパーカー前監督[写真]=AFC Bournemouth via Getty Images

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 8月5日に開幕を迎えたばかりのプレミアリーグだが、1カ月も経たずして最初の犠牲者が出た。今シーズンの解任第1号は、ボーンマスのスコット・パーカー監督だった。昨シーズンのEFLチャンピオンシップ(イングランド2部)で2位に入り、3シーズンぶりにプレミアリーグの舞台に戻ってきたボーンマスだが、開幕戦に勝利したあとは3連敗を喫し、8月30日にパーカー監督の解任を発表した。

 監督交代の引き金となったのは第4節リヴァプール戦での「0−9」という歴史的大敗だ。9点差というのは、プレミアリーグの最多得点差記録に並ぶもので、ボーンマスは過去最大の敗戦という屈辱を味わったことになる。アストン・ヴィラとの開幕戦に勝利したあとは、3試合合計「0得点・16失点」のスコアで3連敗を喫していたのだ。

 その結果、開幕からわずか25日での解任劇となった。スポーツデータ分析サイト『The Analyst』によると、これはプレミアリーグの歴史において開幕から12番目に早い解任劇だという。勝負の世界なので結果が出なければ監督交代も仕方ないが、開幕数試合での解任劇には「チームの成績」以外にも理由があるはずだ。ということで、プレミアリーグ史に残る早期監督交代劇の“理由”を探っていこう。

 プレミアリーグの歴史において、開幕から最速での解任劇は2004年のポール・スタロック監督で、開幕から「9日目」のことだった。スタロック氏は、同年3月にサウサンプトンの監督に就任すると、新シーズンも指揮を任されていた。そして2004−05シーズンは、アストン・ヴィラとの開幕戦こそ落としたものの、第2節のブラックバーン戦には90+1分の決勝ゴールで3−2と競り勝ち、シーズン初勝利を収めていた。しかし、その劇的な勝利の2日後に解任されたのだ。

 しかもブラックバーン戦の直後にはクラブの会長も監督を支持したのだが、2日後に監督交代となった。会長曰く、最速での解任劇の原因はメディアにあったという。当時、マスコミはスタロック監督の進退問題を大々的に報じていた。選手との確執が噂され、開幕戦に敗れたあとは「次の試合で解任か?」と伝えられていた。

「週末に話し合い、監督と双方合意の上で契約を解除した」とサウサンプトンの会長は発表し、「プレミアリーグの監督職には重圧が付きまとう。その重圧がメディアによる度重なる不当な報道の場合、監督の立場を維持するのは不可能になる。お金を貰いながら、この酷い状況を作り出した者たちは強く反省すべきだ」とマスコミを痛烈に批判したのだった…。


 さすがに開幕から10日以内で解任されたのはスタロックだけだが、2週間以内に解任された監督は他に2人いる。1人は、1993年に開幕から12日後に解任されたピーター・リード氏だ。1990年にマンチェスター・Cの選手兼監督に就任した元イングランド代表MFは、プレミアリーグ元年となった1992−93シーズンに9位の成績を残すも、翌シーズンの開幕直後に解任された。

 リード氏は開幕戦こそ引き分けたが、そこから3連敗。2週間で4試合を指揮したあとに解任されたのだ。当時を振り返り、黄金期を築こうとしていたマンチェスター・Uに少しでも食らいつくためには「優秀な選手が必要だったが、その希望は叶えられなかった」とリード氏はフロントとの確執を明かした。そして「私は(マンチェスター・Uの)アレックス・ファーガソンと戦いながら、フロントとも戦う必要があった。まるで片手でマイク・タイソンと戦うような状況だった!」と説明した。


 英国サッカー界の偉人も、早期解任の犠牲者になったことがある。1998年、ニューカッスルを率いていたケニー・ダルグリッシュ氏が開幕から12日で監督交代を告げられたのである。現役時代にセルティックやリヴァプールで活躍したスコットランドの英雄は、1997年1月にニューカッスルの監督に就任すると、そのシーズンは2位に入った。しかし、優勝を期待された1997−98シーズンは、エースのアラン・シアラーが怪我で長期離脱した影響もあり、13位に留まった。さらに同シーズンのFAカップ決勝では、二冠を目指すアーセナルを警戒しすぎて、普段とは違う選手起用をして0−2で敗れていた。

 そして何より、絶大な人気を誇った前任者の影がちらついた。ニューカッスルを優勝へと導きかけた熱血漢、ケヴィン・キーガン氏の存在である。そんな英雄の後釜を任されたダルグリッシュ氏に対して、ファンは最後まで心を許すことができなかったようだ。ニューカッスルのベンチに座るダルグリッシュ氏について「まるで知らない男が、自分の妻とベッドにいるようだ」と語ったファンもいたという。その結果、開幕12日での解任劇を招いたのだ。


 クラブ規模と成績が噛み合わない“眠れる巨人”のニューカッスルは、早期監督交代の常習犯だ。プレミアリーグの歴史において、開幕から40日以内の監督交代は「17件」あるが、そのうち約4分の1の「4件」がニューカッスルで起きているのだ。

 ダルグリッシュの後任に就いたルート・フリット氏も、翌シーズンの開幕から21日後にクビを言い渡された。さらに名将ボビー・ロブソン氏がわずか16日に解任されたこともあるし、クラブの英雄であるのはずキーガン氏さえも、2008年に開幕からわずか19日でクラブ首脳陣との確執を理由に辞任しているのだ。

 開幕から40日以内に解任されたリストの中には、現在ローマを率いる“スペシャルワン”ことジョゼ・モウリーニョ監督も含まれる。ポルトガルの名将は2004年にチェルシーにやってくると、チームを50年ぶりのリーグ制覇に導くなど、輝かしい功績を築いたが、2007−08シーズンには開幕からわずか39日でクラブを去った。スタートダッシュに失敗し、さらにオーナーとの確執も噂されている中での解任劇だった。


 さて、そんな名将も名を連ねるリストの12番目に入ったパーカー前監督だが、実は「昇格組の監督」としては最速の解任劇だという。そんな早期解任について元イングランド代表のギャリー・リネカー氏などはクラブの決断を非難している。パーカーは昨年の夏にボーンマスの監督に就任すると、1年でチームをプレミア昇格に導いたのだ。リネカー氏はSNSに「筋が通らない。昇格に成功、開幕戦でヴィラに勝利したあと、マンチェスター・C、アーセナル、リヴァプールに敗れただけ。間違いなく、補強方針の確執だろう」と書き込んでいる。

 確かに、ボーンマスの3連敗は今季の優勝争いに絡むと見られる3チームに喫したもの。どのチームもこの3チームには負ける可能性が高い。しかし、内容が酷かったのも事実だ。とりわけホームで0−3の敗戦を喫した第3節のアーセナル戦の前半は、戦う意思が見られなかった。その1週間後にリヴァプールに大敗を喫したのである。

 しかし、解任の最大の理由は「成績」ではなかった。監督解任に際し、クラブのオーナーであるマキシム・デミン氏は「プレミアリーグ昇格を勝ち取った昨シーズンは、最も輝かしいシーズンの1つとして記憶に残る」と、昨季のパーカーの功績を称えた上で「チーム、そしてクラブとして前に進み続けるために、クラブが自立経営の方向性を貫くことは絶対だ。それから我々は他者への信頼とリスペクトを忘れてはいけない」と指摘した。

 この言葉だけを信じるのなら、解任の理由はパーカー前監督が「クラブの自立経営」を脅かす存在で「他者への信頼と敬意」を欠いたからだ。確かにパーカー前監督は満足のいく補強をしてくれないフロントへの不満を漏らしていた。そしてリヴァプールに0−9で敗れたあとには、その不満のほかに、選手たちの実力不足を口にしていたのだ。「戦力不足は否めない」とパーカー前監督は試合後の会見で漏らした。「このチームには素晴らしいクオリティを持った選手もいるが、彼らは初めてプレミアリーグを経験する。(2部の)昨季と比べるとリーグのレベルは段違いなんだ。0−9で負けるなど微塵も考えていなかったが、難しい戦いを強いられることがあるのは覚悟していた」

 そして「この試合が最も辛い瞬間か?」と記者に聞かれると、パーカー前監督は「現時点ではそうだが、この状況ならまだまだ起こりうる」と正直に答えた。「若い選手は苦しんでいるので助けが必要だ。我々は選手補強に動いているが、本当に色々な理由があって実現していないんだ」とフロントに苦言を呈していたのだ…。

 結局、パーカー前監督を解任したボーンマスは、8月31日に行われた第5節のウォルヴァーハンプトン戦に0−0で引き分けて何とか連敗を3で止めた。監督解任が「正解」だったとは言えないが、早期解任劇には様々な理由があるので「間違い」とも言い切れないのかもしれない。

(記事/Footmedia)

サッカーキング

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