黄旗に消えた幻のスーパーフォーミュラ初優勝。それでも笑いと緊迫バトルで主役を奪った小林可夢偉

2018年9月9日(日)20時50分 AUTOSPORT web

 大雨の影響で1時間近くスケジュールが遅れ、レーススタート後もセーフティカーラン、そして赤旗中断と、もやもやした雰囲気を文字どおり吹き飛ばした、関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)と小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)のトップ争い。雨のなかの低グリップの中で抜きつ抜かれつ、ギリギリの接触でハイレベルな名バトルを繰り広げた関口と可夢偉だったが、その主導権を握っていたのは可夢偉の方だった。


 赤旗中断後のローリングスタートで関口のアクセルオンにタイミングを合わせると、そこから水煙で前が見えないなか、ぴったりと関口の背後についてコースの3分の2近くを周回した可夢偉。最後はダブルヘアピンで並びかかり、ダブルヘアピンの出口でクロスラインを狙いに行き、関口のリヤのディフューザー部と接触してフロントノーズの先端を壊しながら、最終コーナーでインを奪ってオープニングラップでトップを奪った。


「最初はタイヤの温まりがいいというか、そのあと僕の方がタイヤがズルズルになったんですよ」とレースを振り返る可夢偉。


「ローリングスタートはタイミングがうまく合ったというわけではないです。どうすればいいかなといろいろ考えていました。関口の後ろにいるときは前は(水煙で)真っ白。アトウッドの進入で、あそこしかないなと思って行くしかなかった。案の定、ノーズが逝ってしまいましたが(苦笑)」


 関口のディフューザーに接触した可夢偉のマシンはノーズの先端が壊れてめくり上がった状態に。ノーズの先端部は大きなダクトが空いたままの状態になってしまった。


「(ノーズを破損した影響は)データを見ないとわかりませんが、(体の)下の方がすごく涼しかったので非常にいいクーリングができたなということと(笑)、(ノーズがばたついていたので)うっとうしくて、すごく前が見にくかった。でも、走行に影響はなかったです」と会見で語った可夢偉。

関口との接触でノーズのダクトが露わになってしまった可夢偉のマシン


 マシンの影響も大きくなく、快調にトップをキープしていよいよスーパーフォーミュラ初優勝かと思われたレース終盤、残り10周あたりで福住仁嶺(TEAM MUGEN)とトム・ディルマン(UOMO SUNOCO TEAM LEMANS)が最終コーナーで接触してディルマンがストップしたことで、2度目のセーフティカー(SC)が導入。可夢偉が築いたギャップは水泡となってしまった。


 だが、タイヤの温まりは可夢偉の方がよく、ローリングスタートには関口に比べて可夢偉に歩がある。


「SC中はタイヤをクールダウンして、またっちょっとタイヤのグリップが戻って、3〜4周目くらいから、タイヤのグリップがヤバイなと思っていたので、(再スタートで)ここで稼がなきゃ後半がしんどいと思ってプッシュしたら、行ってしまいました」


■赤旗中断直後にはマシンを降りてコントロールタワーへ向かった可夢偉


 再スタート後に2番手関口とギャップを作り始めたと思った矢先、可夢偉はダブルヘアピンでオーバーランを喫してしまった。


「右のタイヤが白線に乗ってその先のアスファルトが全然グリップしなくて、半分だけ飛び出してしまったんです。あそこはもがいても仕方ないので、とりあえず戻ろうと思いました。その結果(関口に)抜かれてしまいましたが」


 それでもレース終盤、再度、関口の背後にぴったりと付いた可夢偉。バックストレート手前のアトウッドコーナーの進入で勝負を懸けて関口のインに入りかけたところで、まさかのジ・エンドとなってしまった。


「最後はイエローフラッグが出ているのは聞いていたけど、どこかまでは把握できていなくて(スピンして止まっていた福住)仁嶺が見えたので、『ここかいっ!』と。雄飛のブレーキングも早かったので、もう抜きに行こうとオーバーテイクボタンを押したところで『おいっ!』と」と、その時の心境を話す可夢偉。


 トップの関口も「最後はセーフティカーのおかげで助かりました。可夢偉選手がもう真後ろまで来ていましたから。最終ラップは厳しいのではないかと思っていた」と、関口も素直に敗北を覚悟するような攻防だった。


 最後はイエローフラッグに遮られる形となって、スーパーフォーミュラ初優勝を逃すことになってしまった可夢偉。


「まあ、2位スタートで、ちょっと最初に良かっただけですから。まあ、しょうがないです。これもレースです」と可夢偉はレース後にはスッキリとした表情で答えた。


 思い返せば、レーススタート後の雨の中でのSCラン後、赤旗中断となってホームストレートにマシンを止めるやいなや、真っ先にマシンを降りてコントロールタワーへ向かった可夢偉。


 ファンへの想いが厚い可夢偉が、大雨の中での長いSC走行についてレーススチュワードに何か抗議をしに行くのかと思いきや……。「トイレに行きたかっただけですけど」と、テレビ中継の松田次生ピットレポーターに答えて、プレスルームは大爆笑。すでにここから可夢偉劇場は始まっていたのかもしれない。


 笑いあり、そして緊迫したトップバトルありと、大雨の難コンディションのなかで濃密なレース内容となったスーパーフォーミュラ第6戦岡山。「調子はいいので、最後の鈴鹿もしっかり結果を残して、来年にもつながるようにしたいなと思います」と最後に締めくくった可夢偉。残念ながら可夢偉に今季のチャンピオンの権利はないが、タイトル争いが注目される最終戦でまた存在感を示し、キーパーソンになるのかもしれない。

赤旗中断でコースにマシンを止めるやいなやマシンを降りてコントロールタワーへ向かって歩き出す可夢偉


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