ボルグワーナーが生み出すインディカー・ターボ。驚異的な信頼性は熟練工たちのプライド

2017年9月14日(木)15時26分 AUTOSPORT web

 2012年からインディカー・シリーズで使用されるターボを生産してきているのが、インディ500へのトロフィーを提供しているボルグワーナー社だ。創業者は1911年の第1回インディアナポリス500ウィニングマシン=マーモン・ワスプのエンジンを組んだルイス・シュウィッツァー(当時の社名はシュウィッツァー・カンパニー)。


 1936年にインディ500のトロフィー提供をインディアナポリス・モーター・スピードウェイに依頼され、あの大きく、ユニークなトロフィーが作られた。


 ターボがインディ500に初登場したのは1952年で、フレッド・アガバシアン搭乗のカミンズ・ディーゼル・スペシャル(当然ディーゼル・エンジン)でポールポジションを獲得。


 4ラップ平均のスピードは138.010mphだった。この時に装着されていたのもシュウィッツァー製ターボ。これらの功績を記憶にとどめるため、インディ500では毎年の最優秀技術にルイス・シュウィッツァー賞を授与している。


 ボルグワーナーのターボ生産工場は、2017年のインディ500を制した佐藤琢磨がトロフィー用の顔の彫刻を作成してもらっているアーティスト、ウィリアム・ベーレンズ氏のスタジオからクルマで1時間ほど西のノース・キャロライナ州アーデンにある。


 アッシュビルという都市の近郊で、すぐ南はサウス・キャロライナとの州境。アパラチア山脈の南端部分で、今でも自然が存分に残っているエリアだ。


 1980年に操業を開始した工場の敷地は12,000坪弱もあり、従業員数は600人を超える。土日は一応休みとされているが、最先端技術の開発を行っているリサーチセンターはダイナモメーターなどでの実験が続けられているため、常時機械によるモニタリングをして稼働させているという。

ボルグワーナー社の工場内


 工場ではインディカーのターボだけでなく、市販乗用車及び商用車用、さらには船舶や掘削機器用の大型ターボまでを生産している。


 インディカー用ターボは熟練工が組み上げる。オートメーションで生産される乗用車用などのターボは年産40万ユニット以上だが、インディカー用は年間200〜250ユニットが作られる。


 そのターボの寿命は2012年の2,000マイルでスタートし、現在では5,000マイルにまで伸びている。これなら1シーズンの半分をカバーすることが可能。1台のマシンにつき年間4個の使用で済むということだ。


 我々が工場を訪れた日にはレイとフランシスコのふたりがインディカー・ターボのセクションで働いていた。他にもう1、2人の熟練工がいる。彼らは研ぎ澄まされた感性でひとつひとつのターボを丁寧に組み上げる。その際、極めて小さな部品の不具合なども彼らは感知するという。


 レイ(ワインレッドのシャツ着用)は今年のインディ500に初めて観戦に行き、琢磨に会った。その後にレースをその目で見、体で感じ、琢磨の優勝を目撃。以来、レイは熱烈なる琢磨ファンとなっている。


 レイやフランシスコの組み上げたターボは琢磨のウィニングマシンだけでなく、毎年のインディ500優勝車に装着されてきている。それは彼らにとって大きな誇りだろう。しかも、ボーグウォーナー・ターボは2012年の採用以来、HPDやイルモアから返品がされたこともないし、未だに一度もレース中にトラブルを発生させていないというからその信頼性は驚異的レベルにある。


 インディカーのエンジンは毎分12,000回転が上限に設定されているが、ターボのシャフトは最大回転数が150,000回転にも達する。そして、熱は摂氏980度というとんでもない高さになるのだ。


 工場建屋の奥にあるテクニカル・センターは、4つのダイナモ・メーターが設置されている。入り口にはダリオ・フランキッティ、ライアン・ハンター-レイ、ふたりのインディ500ウイナーがサインしたターボが飾られていた。

テクニカルセンター入口に展示されていたライアン・ハンター-レイがチャンピオンシップ獲得年に使用していたサイン入りのターボ


 ハンター-レイのものは彼が2012年にシリーズ・チャンピオンになった際に、最終戦フォンタナで使用したものだという。下の方には掘削機械用の巨大なターボも展示されていた。これを4つも装着したエンジンも存在するのだそうだ。


 琢磨が彫刻家のベーレンズ氏を訪ねるのに合わせ、ボルグワーナー・トロフィーはインディアナポリス・モーター・スピードウェイのミュージアムからノース・キャロライナ山中のアトリエへと運び込まれた。


 そして、その後にトロフィーはターボの工場に移動。これがなんと初めてのことで、工場で働く人たちは自分たちの会社がインディ500に提供しているトロフィーを直に見るチャンスを得て満足したようだ。


 高性能で信頼性の高いターボを生産するボルグワーナー社。彼らのターボは今後もインディカーを支え続ける。


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