SUBARU BRZを唯一追い詰めたARTA NSX GT3の勝算と誤算「サーキットは生き物だから」【第5戦GT300】
2021年9月14日(火)16時17分 AUTOSPORT web
スーパーGT第5戦SUGO、GT300クラス5番グリッドからARTA NSX GT3のスタートを担当した高木真一は、1台、また1台とマシンを抜いて行き、2番手まで浮上。ピットイン直前には首位SUBARU BRZ R&D SPORTを1.6秒差にまで追い詰めていた。3番手は15秒以上遅れと、2台によるマッチレースの様相だ。そして35周目、BRZより先にピットへと飛び込む。アンダーカット狙いである。
2周後にピットインしたBRZとの一騎打ちに持ち込み、一気に優勝争いへ──。後半の佐藤蓮には、さらなるペースアップが期待されていた。
前半を担当した高木は、ポジションアップを果たしてはいたものの、マシンの状態には良さを感じていなかった。前車をパスしながらも「まわりがみんな、速くないな」と高木は考えていた。
じつは、高木がマシンのフィーリングをつかめなかったのはチームにとって想定内。予選&決勝前半に履いたソフトコンパウンドのタイヤではなく、レース後半に佐藤が履くハードタイヤに対して、セットアップをアジャストしていたからだ。
■めぐって来た唯一のチャンスで接触
この週末は本来、日曜日が高気温になることから予想されていたため、持ち込んだタイヤの中でハード側のスペックがARTAの“本命”だった。
しかし予選日は気温がそこまで上がらず、「葛藤の末」(高木)ソフトでのアタック(=決勝スタート)をチョイス。太陽が顔をのぞかせる時間帯もあったQ2のセッションでは、そのわずかな路温上昇も影響してか、佐藤はベストパフォーマンスを発揮できなかった。
決勝日は予報どおりの晴天となり、路面温度も上昇。ARTAは決勝前20分間のウォームアップ走行でハードタイヤに手応えを感じていた。
「セットアップはうまくハマっていました。タイヤのタレもなく、蓮もいいタイムを出していたので、間違いなくこれはいけるぞ、と。なので、僕が1/3でピットインし、蓮がハードタイヤで後半2/3を走れば、どんどんペースを上げられるだろうと考えていました」(高木)
実際、高木の前半スティント走行中には、「後半のタイヤスペックに関する、ピットとの無線のやりとりはなかった」という。それほどまでにハード側は絶対的な自信を持つ本命スペックであり、それを履けばマシンバランスが改善されることが期待されていたのだ。
かくして勝負の後半スティントに飛び出していった佐藤はしかし、高木とは逆に悪い意味で期待を裏切られていた。なかなかタイヤが温まらない。
「温まってからもタイヤがうまく潰れない感触で、ずっと探り探りで走っているような状況でした」と佐藤は振り返る。
そんななか、チャンスが訪れる。火災車両発生によりセーフティカー(SC)が導入され、BRZとのギャップがゼロになったのだ。
BRZの前方にはまだピットを済ませていない車両とラップダウンの車両が見えた。BRZがそれらの車両に引っかかることになるであろうSC明けのリスタート直後に、佐藤は狙いを定めていた。
「ストレートスピードではGT3の方に少しアドバンテージがあるので、最終コーナーで詰めて、ここしかない! と攻めていったんですが、(ホームストレートで)ちょっと接触してしまい、チャンスがなくなってしまいました」
スティント後半、燃料が軽くなってくると佐藤のペースは上がったが、時すでに遅し。すでにBRZを追える差ではなくなってしまっていた。
予想外に良かった前半と、想定外に苦戦した後半。2位とはいえ、思い描いていた展開には持ち込めなかったことで、レース後のARTA陣営には悔しさと“疑問符”が漂っていた。
“タラレバ”ではあるが、レース後半もソフトタイヤで走っていたら、どうなっていたのか。
「アウトラップのペースも上げられたと思いますし、(BRZを)アンダーカットするチャンスがあったかもしれません。分析してみないと分かりませんが、少々悔やまれるところです」(佐藤)
ベテラン・高木は腑に落ちない表情を見せながら、「サーキットは生き物だから」と語る。
「路面コンディションが思ったより上がらなかったのか、ちょっと分からないけど、とにかく想定よりもズレ始めた。『こうだったら、ああなる』という経験から(セットアップと戦略を)進めたけど、結果的にはそのタイヤをうまく使うことができなかった。検証して次につなげないといけませんね」
日照、路面温度、ラバーなど、コンディションのわずかな変化で、レースペースはまるで別物となってしまう。それをいかに読んで戦うか。GT500にも似たシビアさが、いまのGT300の最前線にも広がっている。