ETRC最終戦:タイトル獲得直後、急逝の父に捧ぐ。6度の王者ハーンが感傷の勝利
2019年10月16日(水)15時53分 AUTOSPORT web
トレーラーヘッドで争われるFIA欧州格式選手権、ETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップの第8戦が10月5〜6日にスペインのハラマで開催され、すでに2019年のタイトル獲得を決め、前人未到6度目のチャンピオンに輝いたヨッヘン・ハーン(ハーン・レーシング/イベコ)が、イベント2日前に急逝した亡き父に捧げる特別な勝利を飾った。
2週連続開催のバック・トゥ・バック戦ながら、すでにタイトル確定で消化試合の空気も漂うことが予想された最終戦スペインは、土曜スーパーポール・セッションでスリリングなタイムバトルを制したハーンがポールポジションを確保。いつもどおりの週末になる……と、ハーン以外の誰もが考えるような展開となった。
地元スペイン出身の英雄アントニオ・アルバセテ(トラックスポーツ・ルッツ・ベルナウ/マン)をわずか0.097秒差で下して最前列からスタートした王者ハーンは、その直前となる10月3日に、最愛の父であり恩師でもあるコンラッド・ハーンを71歳で亡くしていた。
父コンラッドもトラックレーシング・ドライバーとして活躍し、1990年代後半には複数の表彰台も獲得。その時を同じくして、現在のチームにつながるハーン・レーシングの母体を設立し、その後は2000年にデビューし瞬く間に“ルーキー・オブ・ザ・イヤー”を獲得した息子ヨッヘンの育成に尽力した。
そのヨッヘンはメルセデス・ベンツ、MANなどでハットトリックを含む数々のドライバーズタイトルを勝ち獲り、2017年にイベコとのパートナーシップでハーン・レーシングがETRCに本格復帰すると、翌2018年、2019年と連続でチャンピオンを獲得する、当代きってのトラックレーシング・ドライバーに成長を遂げた。
その愛息がシリーズ記録となる6度目のチャンピオンを獲得する場面をパドックで見届けたコンラッドは、連戦となる最終戦を前に急逝。ヨッヘンにとっては、その弔いの意味を込めたレースウイークともなっていた。
マドリード北西部のテクニカルなサーキットで、きっちりと王者の仕事を果たしポールから発進したハーンは、地元の大声援を受けるアルバセテを抑え込みホールショット。3番手スタートのサッシャ・レンツ(SLトラックスポーツ30/マン)に続き、同じくセカンドロウに並んだシュティフィ・ハルム(チーム・シュヴァーベントラック・レーシング/イベコ)は、2017年王者のアダム・ラッコ(ブッジーラ・レーシング/フレイトライナー)と、メルセデス使いノルベルト・キス(タンクプール24レーシング/メルセデスベンツ・トラック)を従えて、12周のレース全域でテール・トゥ・ノーズのバトルを展開する。
しかし首位走行でいつもの集中力を切らさなかったハーンは、じりじりと2番手以下を引き離しにかかり、トップ3はそのまま大きなポジション変動なくチェッカーフラッグ。ハーンが王座確定後の勝利となる今季13回目の優勝を飾り、アルバセテ、レンツの表彰台。ハルムは0.2秒差でラッコとキスを抑え込み、4位を死守した。
続くリバースグリッドの土曜レース2もライバルのペナルティ裁定で繰り上げの3位。続く日曜のレース3はポール・トゥ・ウインを飾ったラッコに続く2位。そしてシーズン最終戦のレース4も週末2勝を挙げたキスの背後、連続2位表彰台で締めくくったハーンは、冷静に週末を振り返ると同時に、たった一言だけ父について触れた。
「まずはレースに勝つことができて本当に幸せだ。土曜のレース1はスタートでアントニオを抑えきり、そのままリードを築くという戦略で臨んでいて、それがきっちりと機能した。タイトルを獲得した後もチームがふたたび勝利を収め、勝ちを重ね続けられることを本当にうれしく思う。そして日曜も、スピードリミッターに些細なトラブルがありながら、ヨーロッパ王者として臨んだ週末で2度も2位表彰台に上がれて最高だった。もちろんすべてが上手くいくことなんてないのが人生だ。でも今はOKさ、僕はとても幸せな男で、チームと……父のことを心から誇りに思っている」