GT300予選《あと読み》:HOPPY 86 MCポール獲得につながった“ワケ”とエンジニアたちを悩ませるタイヤと路気温

2018年10月21日(日)9時8分 AUTOSPORT web

 その差0.091秒。1位VivaC 86 MC、2位SUBARU BRZ R&D SPORT。……と言っても、2018年のスーパーGT第7戦オートポリスの話ではなく、2017年第3戦のオートポリス戦の話。昨年は5月に行われたオートポリス戦は、つちやエンジニアリングの25号車が、わずかの差で61号車BRZを振り切り優勝を飾った。


 あれから1年と5カ月。HOPPY 86 MCは、2018年第7戦オートポリスのポールポジションを獲得した。HOPPY 86 MCのポール獲得に至るまで、そして10月21日の決勝に向けて、GT300のみならずGT500でも渦巻く“不安要素”をご紹介しておこう。


■“40kg”の差を埋めるためのセット変更が奏功


 HOPPY 86 MCは、これまで『セッティング』というものをあまり行っていないマシンだ。土屋武士監督兼エンジニアは、GT3カーへの対抗意識もあり、昨年からほとんどマシンの開発を行っていない。またオフのテストでドライバーたちが「こんなに乗りやすいクルマはない」と驚くほどにセットアップが煮詰まっていたため、毎戦微調整程度で大幅なセットアップはしていなかったのだ。


 しかし、10月8〜9日にツインリンクもてぎで行われた公式テストで、チームはセット変更に着手した。「16年はチャンピオンを獲って、速さも乗りやすさもあった。17年は速さはあったけど、ちょっと扱いづらさがあって、今年は速さはそのままに扱いやすく。今回はさらに、ドライバーがコントロールしやすいクルマにしてきた(土屋監督)」というのが狙いだ。


「曲がりやすくするとオーバーステアになるけど、リヤをコントロールできればきっと速い。(松井)孝允のコメントからヒントを得て変更して、もてぎで好感触を得たんです」というクルマに仕上がったHOPPY 86 MCは、Q1こそ松井が赤旗などのアンラッキーに遭ってしまい本来のパフォーマンスを発揮できなかったが、Q2では2018年の全日本F3王者に輝き、乗りに乗っている坪井翔が、1分42秒498というレコードタイムをマーク。見事ポールにつなげた。


 リザルトだけ見ると、松井の活躍はアンラッキーで終わってしまうが、実はQ1の後、松井からスプリング変更のリクエストがあったという。その変更が坪井の「スーパーアタック(土屋監督)」を支えたというわけだ。「孝允がそういうドライバーになってくれたのは非常にうれしいですね」と土屋監督は笑顔をみせた。


 もちろんポールポジション獲得は土屋監督にとっても「速さでぶっちぎれたのはうれしい」ものだが、決勝に向けてはもちろん不安も大きい。特に土屋監督がマークしているのは、午前の専有走行でトラブルに見舞われながらも、予選4番手となったSUBARU BRZ R&D SPORTだ。特にここオートポリスは、BRZが得意としているコースのひとつ。

トラブルで公式練習こそ走れなかったものの、予選で4番手に食い込んだSUBARU BRZ R&D SPORT


「(マザーシャシーは)参加条件で今年は昨年に比べて50kg重くなっている。その部分は決勝がすごく足を引っ張っていて、SUGOの決勝でも抜かれまくった。いちばん怖かったのはBRZで、昨年ウチとはウエイト差が10kgだったのが、今年は50kgになっている。だから、普通にやったら今年はやられてしまう。その40kgの差を、セットアップで埋めないと勝てないと思っている」と土屋監督は言う。


 昨年はテール・トゥ・ノーズだった差が、今年の参加条件では勝てないだろう……というのが土屋監督の読みであり、今回のセット変更とポールポジション獲得につながったということだ。決勝もHOPPY 86 MC、そしてSUBARU BRZ R&D SPORTの優位を予想する声が多いが、果たして決勝はどんな展開になるだろうか……?


■まさかの3回ストップ……!? タイヤに苦しいチーム続出


 そんな決勝に向けてだが、GT300のみならずGT500でも、多くのチームに不安要素がある。実は午前の専有走行の後のパドックはちょっとした“お祭り”になっていたのだ。なんの祭りかというと、“エンジニアたちによる他チームのタイヤ視察祭り”だ。土屋監督を含め多くのチームのエンジニアたちが、他チームのテント内にあるタイヤ表面を観察して回っていたのだ。


 それというのも、今回あまりに路面温度が低い状態となったため、各チームのタイヤがグレイニングやムービングに見舞われてしまっていたためだ。ある特定メーカーのタイヤに至っては車種を問わずグレイニングがひどく、多くのチームで「10周走れるかどうか」「明日は3ピットかな」という悲観的なコメントが飛び出しているのだ。


 グレイニングは、タイヤの表面がささくれてしまう状態。タイヤに詳しいLEXUS TEAM ZENT CERUMOの浜島裕英監督に、なぜ低温時にそういった状態が起きてしまうのか解説をお願いしたのでご紹介しよう。


「GT500(のタイヤ)もそうですが、まずチューインガムを想像してください。噛んでいるときは柔らかいですよね。その噛んでいるガムを冷蔵庫に入れると、今度はカチカチになります。では、柔らかい状態のガムをどこかにこすりつけると、ベトっとくっつきますよね。でも硬い状態のものをこすりつけても、消しゴムのようになってしまう。そういう状態なんです。単純にそれだけではないですが、基本はそういうことです」


「路面温度が今日の午後のようになると、その状態は減ってきます」


 浜島監督の言うとおり、午後はグレイニングに見舞われる状態のマシンは減少した。また午前のタイヤはひどい状態で午後は良好な状態になったマシンもいれば、逆に午前が良く、午後厳しくなった車両も。タイヤメーカーによっても大いに状況に差があるのだ。


 この状況は、8月28〜29日に行われたタイヤメーカーテストで想定されていた路気温を大きく下回っている状況が関係している。10月21日の天気予報は、予選日よりも高い気温が予想されてはいるものの、少しでも陽が陰ってしまうと一気に路面温度は下がる。


 また、今回の予選で上位につけたあるチームは「ちょっとでも上がるとムービングするし、下がるとグレイニングしてしまう」と特定の気温でなければパフォーマンスが発揮できないところすらあるという。


「正直、ウエットがいいと思っちゃったくらい」とそのマシンのドライバーは苦笑いをみせている。「セーフティカーが長めに入ってくれればなんとか……」というコメントすら聞かれた。


 もちろん、今日の段階でタイヤに苦しい状態だったチームも、ひょっとしたら走りきれるかもしれないし、予想以上にパフォーマンスを発揮するかもしれない。ただ多くのエンジニアが口を揃えるのは「やってみないと分からないですね(苦笑)」ということだ。


 予想外の低温で、ある意味ギャンブル的な要素が含まれているスーパーGT第7戦オートポリスの決勝。GT300のタイトルに近づき最終戦もてぎを迎えるのは、いったいどのチームだろうか……。


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