【いざ、ラリージャパン2022】注目の参戦マシン紹介/Vol.3『トヨタGRヤリス・ラリー1』

2022年11月11日(金)16時2分 AUTOSPORT web

 いよいよ日本に帰ってきた、ラリージャパン。WRC世界ラリー選手権『フォーラムエイト・ラリージャパン2022』が、11月10〜13日にシーズン最終戦として愛知県と岐阜県を舞台に開催される。北海道での開催以来、実に12年ぶりのカムバックとなる日本での世界選手権を楽しみ尽くすべく、ここではエントリーリストに名を連ねる有力参戦ドライバーや、今季より導入の最高峰“Rally1(ラリー1)”クラスの最新ハイブリッド車両の成り立ちや個性を紹介する。その新規定車両解説最終回は、かつての名車185型セリカGT-FOURでWRCを戦った1993〜1994年以来、トヨタとしては2年連続のドライバー/コドライバー/マニュファクチャラーズ3冠を達成した【トヨタGRヤリス・ラリー1】にスポットを当てる。


 開幕戦こそライバルのフォード・プーマ・ラリー1に新規定初優勝を献上したものの、デビュー当初から高い完成度と信頼性を誇った新型トヨタGRヤリス・ラリー1は、第2戦スウェーデンで早くもラリー1規定初勝利を挙げる。


 すでに最終戦ラリージャパンを前に年間7勝を記録した“チャンピオンカー”は、先代となるWRカー最終形態『ヤリスWRC』と同様、Mスポーツ・フォード出身のトム・ファウラーがテクニカルディレクターとして開発を指揮。サスペンション・ジオメトリー設計で自由度の確保できる鋼管スペースフレームシャシーを採用し、ライバル同様に5速フロアシーケンシャルやセンターデフを持たない前後機械式デフの直結4WDなど新規則への対応が進められた。


 心臓部となる1.6リッター直列4気筒直噴ターボの“GRE”は、今後5年間の開発凍結を見越してWRカー最終年度となる昨季に投入されたもので、ブロックやヘッド、クランクにピストン類などレシプロ系の大型鋳物部品を筆頭に、2017年のWRC復帰以降で最大級の改良が施された。


 そのユニットを継承しつつ、燃焼のマッピングを中心に新たにサステナブル燃料への対応を実施し、共通ハイブリッドからの100kW(約134PS)/180Nmと併せた公称システム出力は500PS以上/500Nm以上を発生する。最大トルク値の面では他陣営より控えめな数値に留めるが、先代ヤリス時代からステージ上での脱出加速や最高速には定評があり、実際には競合以上のアウトプットが実現していると見られる。


 その共通ハイブリッド機構の核であるMGUや容量3.9kWhのリチウムバッテリー、そしてインバーターに制御系コントローラーなど全要素が内包された、単体重量87kgのカーボン製ケーシングは、リヤデフ前方でプロペラシャフトをまたぐように搭載されるが、その冷却用エア取り入れ口はライバルに比して大型のデザインで、まさに『サイドポッド』と呼ぶにふさわしい形状とする。

すでに最終戦ラリージャパンを前に年間7勝を記録した“チャンピオンカー”が母国に凱旋
『GRヤリス』をベースに、サスペンション・ジオメトリー設計で自由度の確保できる鋼管スペースフレームシャシーを採用する


■ハイブリッドマッピングにはLMP1-H、LMHハイパーカーのノウハウを蓄積してきたTGR-Eの知見を活用


 そしてMスポーツ・フォード陣営と同様、リヤバンパー部に配置された熱交換器には、大型ファン1基のプーマに対しわずかに小ぶりのサイズながら“2基掛け”とするなど、冷却性能の確保には充分以上のマージンが持たされている。それも復帰参戦初期のヤリスWRCが、メキシコ戦など気温の高い高地イベントで熱害に苦しんだ反省点を反映したもの……とも考えられそうだ。


 そうした独自性は空力面やサスペンション構成にも見受けられ、先代ヤリスWRCでは大型フロントカナードやリヤディフューザー、幾重にもフィンを積層したホイールハウス・アウトレットなど特徴的なデザインを数多く備えていたが、コスト抑制の一環でそれらの造形が禁止されたことも受け、ボディ全体でエアロダイナミクスの性能向上を狙っている。


 一見して造形の異なるリヤウイングは、ライバルのように翼端版両脇にミニウイングを設定せず、大型のアッパー&ロワで構成された2枚翼とし、そのうえで中央2枚は支持剛性を“担わない”バーティカルフィンにより、車体にヨーアングルがついた際の安定性とダウンフォースを確保する。


 同じく先代ではトレンドに則して傾斜搭載とされていたダンパー類も、最大ストローク値が270mmに規制された点も考慮し、アップライト側下端接続部を車軸中央に設定してほぼ直立の配置に。これにより摺動抵抗からの発熱→熱ダレを防ぐ方針にシフトした。


 そのうえで、最低地上高を“攻める”ことが可能なターマック戦やフラットサーフェースの高速グラベルなどでは、車両全体に前傾角をつける“レーキアングル”を採用。リヤに重量物が集中し、旧規定より慣性モーメントが大きいデメリットは認識しつつ、前後アクティブ&センターデフが禁止されてよりアンダーステア傾向が強まった新規定において、フロント側のダウンフォースを積極的に取りにいく。


 また回生ブレーキによる蓄電はもちろん、プラグインハイブリッドとしてサービスパークでの充電も可能な共通ハイブリッド機構では、ハイブリッドブーストの出力側となる“デプロイ”が3種類、回生側となる“リジェン”にも3種類のマップが登録されるが、そのマッピングにはWEC世界耐久選手権でのLMP1-H、そしてLMHハイパーカーの開発でノウハウを蓄積してきたTGR-E(TOYOTA GAZOO Racingヨーロッパ/旧TMG)の知見も大いに活用されたという。


 今季はTOYOTA GAZOO Racing WRT(ワールドラリーチーム)から3台、そして勝田貴元のチームであるTOYOTA GAZOO Racingネクスト・ジェネレーションの合計4台が参戦する。直近のスムースグラベル戦ニュージーランドでは、新世代エースのカッレ・ロバンペラが優勝を飾って自身の史上最年少王座に華を添え、続くスペイン・カタルーニャでは“8冠”の支柱セバスチャン・オジェがラリー1初勝利でマニュファクチャラーズタイトルも決めるなど、負けられない母国決戦ラリージャパンには王者凱旋で臨む。

リヤバンパー部に配置された熱交換器には、電動ファン“2基掛け”とするなど、冷却性能の確保には充分以上のマージンが持たされている
フィンランドではエサペッカ・ラッピがスクリーンを失う転倒を喫するも、ゴーグル装着でステージを走破。堅牢さと信頼性も兼ね備える

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