「これじゃ走りきれない!」ギヤを失ったフェラーリ、“即席の対処法”で劇的なタイトル獲得/WECバーレーン

2022年11月13日(日)11時53分 AUTOSPORT web

 WEC第6戦バーレーン8時間レースにおけるLMGTEプロクラスのタイトル争いは、劇的な幕切れが待っていた。レース終盤の2時間に入るまでトップを快走していたAFコルセ51号車フェラーリ488 GTE Evoがギヤボックスのトラブルに見舞われ、クラス最後尾まで順位を下げながらもタイトルを目指して力走したのだ。


 ドライバーのジェームス・カラドは「クルマが息絶えるまで、走り続ける覚悟があった」とレース後に激闘を振り返り、彼らがマシンを何とかゴールへと運んだ裏側について明かした。


■「突然、車内に爆弾が落ちたような音がした」


 カラドとアレッサンドロ・ピエール・グイディはレース序盤、ライバル勢が最初のルーティンピットを済ませた直後に、フルコースイエロー(FCY)とピットタイミングが合致するという幸運も得て、大きなリードを手にしてレースを優位に進めていた。


 ポルシェGTチームの92号車ポルシェ911 RSR-19(ケビン・エストーレ/ミカエル・クリステンセン)組に対して11点のリードでこの最終ラウンドに乗り込んできた彼らにとっては、ドライバーズタイトル獲得に向け楽観的な状況だった。加えて、ポルシェと同点で迎えた決勝でのマニュファクチャラーズタイトル争いにおいても、2番手に僚友52号車(ミゲル・モリーナ/アントニオ・フォコ)が浮上、ワン・ツーとなったことで、これ以上ないフィナーレへと突き進んでいた。

今回好調だった52号車。レース前半では、随所でポルシェと好バトルを見せた


 しかし残り2時間の時点で、51号車は深刻なギヤボックストラブルに見舞われてしまう。カラドがステアリングを握っているときに、それは発生した。


「マシンに乗り込んで、2回目のダブルスティントまでは何も問題がなかったんだけど、そのときおかしな音がしたんだ」とカラドはレース後に語った。


「最初は振動のようなもので、何が起きたのか分からなかった。ときどき、金属かなにかのような振動がするんだ」


「すぐに、4速ギヤだけが音を出していることに気づいた。それで、『これはまずいことになった』と思ったんだ。だんだん酷くなっていったものの、その後しばらくは安定していたし、ギヤシフトもうまくいっていたんだ」


「だけどある周に突然、車内に爆弾が落ちたような音がして、金属音があちこちから聞こえてきて、ギヤが入らなくなった」


「コース上に留まりながら、いろいろなコンビネーションを試してみた。リタイア寸前というところまで行ったけど、いくつかのギヤは機能することに気づいたんだ」


「だから5速ギヤのまま周回を重ね、最後はアレッサンドロにドライバー交代した」




 カラドはガレージにマシンを入れることなく、通常どおりの作業でピエール・グイディにバトンを渡したが、GTEプロクラスの最下位である5番手に転落してしまった。


■走りながら探った、油温を上げない方法


 カラドによれば、ピエール・グイディは交代前にフェラーリのエンジニアから状況の説明を受けたというが、140度にも達する油温の急上昇により、状況はさらに複雑化したという。


「問題があることは分かっていたが、正直なところ、乗り替わったときはどうすればいいのか分からなかった」とピエル・グイディは述べている。


「どうすればいいのか、何がベストなのか、できる限りマシンをセーブする方法がわからなかったんだ。だから僕はクルマに乗って、クラッチを使ってシフト操作を行い、4速ギヤを避けた。でもそうしているうちに、油温がどんどん上がってきてしまったんだ」


「僕は『これでは最後まで走りきれない!』と言ったんだ。そして、ハイ・ギヤを使うと、温度が少し下がることに気づいたんだ」


「シフト操作をすることなく、5速で何周か走ってみた。すると油温が下がってきて、正常な範囲に入った。だから、それがベストな方法だと理解したんだ」

4速ギヤを失い、最後は5速のみで走行を続けた51号車フェラーリ488 GTE Evo


 ピエール・グイディは、ギアの破損を避けるためにシフトチェンジを最小限にとどめたが、ラップタイムは大きく落ちた。そしてチームは、背後からGTEアマのトップ集団が迫ってきていることを気にし始めた。当然、アマ勢に追いつかれて順位を下げるようでは、タイトルが危ない。


「1周12秒程度のラップタイム差で、LMGTEアマ勢に追いつかれる計算だったんだ」とカラド。


「結局、6秒から7秒くらいのタイム差でいけたけど、もし12秒落としていたら、おそらく彼ら(GTEアマの首位)が僕らのポジションでゴールしていただろうね」


 ピエール・グイディも「あまり深く考えず、GTEアマ勢の前にいるために必要なギャップを教えてもらっていたら、必要以上に速く走ることができたんだ」と語っている。


「だから、コントロールしやすかったし、クルマが壊れるかどうかも現実的には考えなかった」


■「砂漠の中のオアシス」に見えたチェッカーフラッグ


 さらにカラドは、チームにとってリタイアは本当に怖いことだが、必要であれば最後までやり遂げる決意であった付け加えた。


「世界選手権をリードしているときに、最後のレースで何ができるというんだ? クルマが息絶えるまで、走らせるしかないだろう」とカラド。


「もちろん、完全に壊れるまで、クルマをガレージに持ち込まないことだ。世界選手権なんだから、もしガレージに入れたらどんな後悔をするか……想像してみてほしい」


 最終的に、ピエール・グイディはフィニッシュまでマシンをいたわり、さらにGTEアマの集団の前に1ラップ差でとどまり、世界選手権タイトルを獲得することができた。


「最後の15分間は、希望を持ち始め『できる』と思うようになった」とピエール・グイディは語った。


「『1時間半以上もこの調子なんだから、できるはずだ』とね。そして、(走行距離が)1周少なくなるよう、(総合トップの)プロトタイプに抜かれるのを待った。チェッカーフラッグを見たときは、砂漠の中のオアシスのようだったよ」

優勝を飾った52号車に乗り、ピットロードを逆走してパルクフェルメに向かうAFコルセ陣営

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