2度目の世界一を目指すU-17イングランド代表…注目は“インビンシブルズ”で最も無名だった監督?

2023年11月16日(木)11時52分 サッカーキング

U-17イングランド代表を率いるライアン・ギャリー監督 [写真]=Getty Images

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 現在インドネシアで開かれているFIFA U−17ワールドカップインドネシア2023で、イングランドは2度目の世界一を目指す。

 前回出場した2017年インド大会で、イングランドは今やA代表に定着しているMFフィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)やMFコナー・ギャラガー(チェルシー)、DFマルク・グエイ(クリスタル・パレス)といった輝かしい才能を擁して頂点まで上り詰めた。

 インドでU−17世代の世界一に輝いたイングランドは、前回大会(2019年)こそ出場できなかったが、6年ぶりに再びアジアでU−17ワールドカップの舞台に立ち、大いに躍動している。グループステージではブラジルと同じ難しいC組に入るも、11日のグループ初戦でニューカレドアニアに10−0で大勝。大会歴代2位となる得点差記録で勝利を収めると、続くイランとの第2戦にも2−1で競り勝った。

 そんな今大会のU−17イングランド代表を率いるのは、あの“インビンシブルズ”の一員だ。イングランドのトップリーグ史上最長となる49試合無敗を達成したアーセナルの元選手である。とはいえ、ティエリ・アンリやパトリック・ヴィエラ、アシュリー・コールといった誰もが知るレジェンドではない。むしろ、アーセナルファンでも知らない人の方が多い可能性だってある。

 彼は、伝説の49試合無敗の始まりとなった2003年5月のサウサンプトン戦に出場するも、それがアーセナルでの唯一のリーグ戦の出場となった“不運な男”なのだ。

 ロンドン生まれのライアン・ギャリー(40歳)は、イングランドの年代別代表にも選ばれる期待の若手DFだった。アーセナルの下部組織で育ち、ようやくトップチームまで上り詰めて前述のサウサンプトン戦でプレミアデビューを果たしてチームの勝利に貢献したのだが、その後は疲労骨折など度重なるケガで2年半もプレーできずにアーセナルを退団。そして、当時下部リーグにいたボーンマスで4年間プレーするも、ケガにより27歳で引退を余儀なくされた。

 選手の道を諦めたギャリーは、すぐにコーチに転向するとボーンマスで1年過ごしたあと、アーセナル下部組織のアシスタントとして経験を積み、U−18チームやU−23チームのアシスタントコーチを経て、2021年に年代別のイングランド代表監督に抜擢された。そんな苦楽を経験してきたギャリーだからこそ、若い選手たちに伝えられることがあるという。「若い選手たちは色々な経験をする。我々は、彼らがポテンシャルを最大限に発揮できるようにしてあげたい。そして“人生のリュックサック”に素敵な経験を積ませてあげたい。私は彼らに“共感と理解”を抱くことができる」

 確かにギャリーも若いうちには色々な経験をした。アーセナルのユースチームで結果を残し、初めてトップチームの練習に招かれたときは衝撃だったという。彼はユースチームの同僚と共に5対2のボール回しに参加したのだが、アンリ、ヴィエラ、デニス・ベルカンプといった豪華なグループに入れられたという。「永遠に真ん中から抜け出せなかった気がする」とスポーツ情報サイト『The Athletic』で明かしたことがある。

 だが、おかげでユースチームやリザーブチームとチャンピオンズリーグのレベルの差を一瞬で味わうことができ、目指すレベルが明確になったそうだ。さらに、当時チームを率いていたアーセン・ヴェンゲル監督の指導も財産になった。デビューを飾ったとき、試合前の監督の指示があまりにも簡潔過ぎて驚かされたという。情報過多にならないように「君たちの特長はこれで、相手はこういうプレーをしてくる。でも君たちの方が上だ」といった感じだったそうだ。それも驚くくらいに落ち着いた口調で。

 さらにピッチ外での接し方も印象的だったという。医務室で過ごすことが多かったギャリーだが、ヴェンゲル監督は彼のようなケガ人の元を訪れると、必ず一人ひとりに対して違う話題を振りながら各自の様子を確認して回った。当時は大して何も思わなかったが、自分がコーチになってからコミュニケーションの重要性を改めて理解したそうだ。「コーチとは結局のところ教育者だと思っている」とギャリーは若手育成について信念を語る。選手ではなく人を育てるのだと。「サッカー面だけを成長させるだけでは足らない。選手と人間関係を築かなくてはいけないんだ。選手は感情を持った人間だからね」

 2年前から代表チームを率いて世界大会に挑んでいるギャリーだが、彼自身も選手時代に国際大会を経験している。2002年に18歳にしてU−19欧州選手権に出場したのだが、チームは1勝もできずにグループステージで敗退した。初戦では、最終的に準優勝するドイツと対戦し、2点リードで試合終盤を迎えながらも90分以降に2失点を喫して追いつかれてしまった。「フィリップ・ラームに決められたあと、(マイク・ハンケに)同点ゴールを許した」とFIFAの取材で振り返る。のちにドイツをA代表のワールドカップで世界一に導くタレントとの対戦は大切な教訓となった。「目が覚めるような体験だった。最後まで何が起こるか分からないと学んだよ」

 今大会の予選となった今年5月のU−17欧州選手権でも、イングランドは準々決勝のフランス戦で89分にPKから決勝点を奪われて敗れた。「その敗戦の悔しさをモチベーションに変える」として、ギャリー監督が率いるチームはワールドカップ出場権をかけたプレーオフでスイスを下して大舞台にたどり着いた。そして、今月14日のU−17ワールドカップ・グループステージ第2戦では、90分に決勝ゴールを奪ってイランを退けた。開幕2連勝で、17日のブラジルとの第3戦を待たずして決勝トーナメント(ベスト16)進出を決めたのだ。

 目標は頂点だ。しかし大切なのは若い選手たちの成長である。「“勝利”という言葉の前に、まずはプロセスが大切だ。自分たちのベストを表現したい。可能な限り、大会最後まで戦い続けたい。若い選手にとって、全ての試合が貴重な新しい経験になるからね」

 ライアン・ギャリー。挫折を乗り越えた“インビンシブルズ”の最も無名なメンバーは、指導者としてU−17イングランド代表を世界の頂に導こうとしている。

(記事/Footmedia)

サッカーキング

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