【全ドライバー独自採点/F1第22戦】完璧なパフォーマンスの2022年トップ2。最後まで王者らしい走りを見せたベッテル
2022年11月30日(水)6時58分 AUTOSPORT web
長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今回はアブダビGPでの戦いぶりを振り返る。
───────────────────────────
■評価 10/10:完璧なパフォーマンスでシーズンを締めくくったフェルスタッペンとルクレール
マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選1番手/決勝1位
シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選3番手/決勝2位
シーズン最後にトップクラスのパフォーマンスを見せてもらった。最終戦アブダビGPには誰ひとり期待外れのドライバーはいなかった。なかでも素晴らしかったのは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)だ。ブラジルでは苦戦したものの、最終戦は再び優位を取り戻した。ポールポジションからスタート、タイヤをうまく守って1ストップ戦略を成功させた。一言で言うと一流のパフォーマンスだった。
もうひとり完璧だったのはシャルル・ルクレール(フェラーリ)だ。ようやくシーズン序盤のパフォーマンスを取り戻した。レッドブルより明らかに劣るマシンで、予選ではセルジオ・ペレスのタイムに0.04秒差まで迫った。決勝1周目にペレスを抜けなかったものの、相手にプレッシャーをかけつつ、タイヤをうまく労わった。それによって1ストップ戦略を成功させて、決勝2位、そして選手権2位をつかんだ。
■評価 9/10:ノリスが調子を取り戻して“ベスト・オブ・ザ・レスト”に
ランド・ノリス(マクラーレン):予選7番手/決勝6位
ブラジルでは食中毒で苦しんだランド・ノリス(マクラーレン)だが、アブダビでは調子を取り戻し、予選でも決勝でも“ベスト・オブ・ザ・レスト”のポジションをつかんだ。決勝1周目には短い間ながら、ジョージ・ラッセルの前を走った。しかしタイヤのデグラデーションもあり、メルセデスとは戦えず。セカンドスティントではハードタイヤが予想ほど長持ちせず、終盤はエステバン・オコンに急速に追いつかれた。ノリスはオコンに対してはポジションを守りきったが、マクラーレンはアルピーヌとのランキング4位争いに敗れている。
■評価 8/10:ベッテルが最後まで王者の走り
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選4番手/決勝4位
エステバン・オコン(アルピーヌ):予選8番手/決勝7位
セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン):予選9番手/決勝10位
ダニエル・リカルド(マクラーレン):予選10番手/決勝9位
角田裕毅(アルファタウリ):予選12番手/決勝11位
カルロス・サインツ(フェラーリ)は予選Q3最初のランでは2番手の速さを発揮していたが、今年何度も起きた問題、つまり2回目のランでタイムを大きく改善できないという事態に見舞われ、4番手に終わった。レース序盤にメルセデス勢とバトルをしなければならなかったことで、優勝争いからは脱落。さらにタイヤを使いすぎて2回ストップで走らざるを得なかった。
エステバン・オコン(アルピーヌ)にとって、今シーズンベストの週末だったと思う。予選でフェルナンド・アロンソに勝ち、決勝ファーストスティントでは、速さで勝るアストンマーティンに乗るセバスチャン・ベッテルを抑え続けた。2回ストップで最後にハードタイヤを履き、ミディアムのノリスを追った。あと1周あったらノリスを抜いて6位に上がっていただろう。
セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)は貴重な1ポイントをつかんだが、10位というのは週末を通した彼のパフォーマンスを考えると物足りないものだった。引退を前にしてもモチベーションの低下はなく、ルーキーのような情熱を持ってグランプリに臨み、予選ではQ3に進出。決勝ではファーストスティントでアルピーヌ勢2台の間を走った。1回ストップ戦略がうまく機能せず、無線でチームの判断に疑問を呈したベッテルだが、チームプレイに徹し、ランス・ストロールを前に出した。終盤はタイヤが残っておらず、ランキング6位争いをしていたチームにとって重要な9位をつかむことができなかった。それでも最後までチャンピオンの走りを見せてくれた。
ダニエル・リカルド(マクラーレン)は、ノリスには及ばなかったものの、F1キャリアのひとつの区切りを、非常に良い形で締めくくった。予選ではQ3に進み、ブラジルGPでのペナルティによるグリッド降格をうまく乗り越えて、レース中に4つポジションを上げて、ベッテルの前の9位でフィニッシュした。ベッテルと同様に1ストップで走ったが、リカルドの方がファーストスティントを6周短く取った。リカルドは速く走りつつもタイヤを持たせて、戦略を成功させた。
角田裕毅は予選でピエール・ガスリーに勝ち、レースでも非常に良い仕事をした。チームメイトは予選Q1で敗退したにもかかわらず、角田はQ3進出をかけて戦い、12番手を獲得。決勝ではポイント圏内への浮上を狙ったが、AT03には単純にそれだけの速さはなかった。リーダーたちと同一周回で走り続け、前方のリカルド対ベッテルの戦いに加わることを目指したが、最後のスティントに履いたソフトタイヤがレース終盤に終わってしまった。
■評価 7/10:タイヤをうまく使えず、ランキング2位を逃がしたペレス
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選5番手/決勝18位(DNF)
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選6番手/決勝5位
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選2番手/決勝3位
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選19番手/決勝13位
ランス・ストロール(アストンマーティン):予選14番手/決勝8位
周冠宇(アルファロメオ):予選15番手/決勝12位
今回、3番目のマシンだったメルセデスで最大限の結果を出そうとしていたルイス・ハミルトン(メルセデス)だが、決勝1周目からアクシデントに見舞われた。サインツとのバトルのなかでシケインをカットして縁石でジャンプしながらコースに戻った後、ハミルトンはサインツにいったんポジションを返し、改めて抜き返した。極めて高いタイヤマネジメント能力を持つハミルトンだが、ファーストスティントの序盤でタイヤを傷めてしまい、後方からサインツが追い上げてきた時にはなす術がなかった。ハードタイヤに交換した後、状況が向上したものの、2回ストップでフレッシュなタイヤを履いたサインツに抜かれ、5位確定かと思われた時にハイドロリック系のトラブルに見舞われ、残り3周のところでリタイアしなければならなかった。
ハミルトンは小さなダメージを負ったマシンで走り続けていたが、ジョージ・ラッセル(メルセデス)は完調なマシンだったにもかかわらず、最初のスティントではチームメイトと同等のペースを発揮することができなかった。スタート直後にノリスに奪われたポジションを取り返そうとするなかで、フロントタイヤを使いすぎてしまったのだ。その後、ピットストップで時間をロスした後に、チームのアンセーフリリースにより5秒のタイムペナルティを受け、6番手を走行、チームメイトのリタイアでひとつ繰り上がった。
ランキング2位争いでルクレールに勝つため、セルジオ・ペレス(レッドブル)はチームメイトの助けを期待していたが、結局はひとりで戦わう展開になった。決勝1周目になんとかルクレールを抑えたペレスは、前を行くフェルスタッペンについていこうとした結果、フロントタイヤを傷めてしまい、2回ストップ戦略で走るしかなかった。セカンドスティント序盤でプッシュしすぎて、ベッテルを抜く際にシケインをカット、結局ベッテルの前に出るのに半周を費やし、33周目という早い段階で2回目のピットストップ。ハードに交換した直後に再びタイヤを使いすぎて、ハミルトンを抜くのに時間がかかってしまい、ルクレールに追いつくことができなかった。あと2周あれば前に出られたかもしれないが、ペレスは2位争いに敗れたことで、ランキング2位も逃がす結果となった。
全10チームのなかで一番遅いウイリアムズのマシンに乗っていることで、アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)のパフォーマンスの素晴らしさが目立たないことが残念だ。彼は2022年シーズンの隠れたヒーローのひとりと言っていい。マシンの力を考えれば、最後列グリッドになってしまうことは避けられなかった。しかし決勝最初の5周でポジションを4つ上げて、必死にプッシュした。しかしそのためにタイヤが12周しか持たなかった。アンダーカットによって周冠宇とリカルドの前に出て、バルテリ・ボッタスを抜いて11番手まで上がったはいいが、アルボンは3セット目のタイヤに交換しなければならなかった。終盤ガスリーをパスしたものの、最終ラップではタイヤが残っていなかったために周冠宇とは戦えず、13位にとどまった。
ランス・ストロール(アストンマーティン)は今回もチームメイトよりも良い戦略で走り、ハミルトンのリタイアで8位をつかんだ。予選でベッテルより0.4秒も遅かったストロールは、決勝スタート直後にふたつポジションを上げた後、2回のアンダーカットによってさらに順位を稼ぎ、チームメイトに譲ってもらった後にリカルドの前に出た。しかしアストンマーティンがコンストラクターズ選手権6位争いで勝つには足りなかった。
周冠宇(アルファロメオ)のレースはチームメイトより効率的だった。センセーショナルなラップでQ2に進んだものの、マシンにそれ以上の力は残っておらず、15番手に。決勝スタートでひとつ順位を落とした後、チームは彼のミッションを、終盤、ベッテルとストロールを抑えつけることに定めた。そのプランはうまくいったようで、アルファロメオはランキング6位を守り切ることができた。終盤ソフトタイヤに交換した周冠宇は、ガスリー、アルボンを抜いて12位でフィニッシュした。
■評価 6/10:アルピーヌを去るアロンソにまたもトラブル
フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ):予選11番手/決勝リタイア
フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)にとってアルピーヌでの最後のグランプリは満足いくものにはならなかった。予選ではオコンに敗れ、決勝ではまたもやエンジンが壊れ、リタイアしなければならなかったのだ。決勝序盤は、来年の移籍先アストンマーティンを助けたいのかと思われるほどに、ベッテルを抜かずに後ろで走り続けた。タイヤ交換後はアタックし始め、マグヌッセン、ボッタス、角田を次々に抜いたが、その直後にレースを終えなければならなかった。
■評価 5/10:F1ラストレースのラティフィ
ピエール・ガスリー(アルファタウリ):予選17番手/決勝14位
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ):予選18番手/決勝15位
ミック・シューマッハー(ハース):予選13番手/決勝16位
ケビン・マグヌッセン(ハース):予選16番手/決勝17位
ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ):予選20番手/決勝19位(DNF)
アルファタウリからアルピーヌに移籍するピエール・ガスリー(アルファタウリ)は、残念ながら長年過ごしたチームでのラストレースで良い結果を残すことができなかった。予選ではQ1で敗退、1ストップ戦略で短期間、ポイントを争える位置に浮上したが、終盤にポジションを落としてしまった。
今回バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)は予選をQ1で終えたことから、その後、輝くチャンスを失ってしまった。予選ランで、アウトラップではトラフィックから抜け出せず、その結果、最初のふたつのセクターでグリップを得られなかったのだ。決勝をハードタイヤでスタートしたのは、ファーストスティントを長く取り、アストンマーティンを抑えつけるという役割をチームが彼に課したからだ。ボッタスは、やりすぎな行為やスポーツマンシップに反する行為を避けつつ、できる限りのことをした。
ミック・シューマッハー(ハース)にはもっと高い評価を与えたかったのだが、決勝でニコラス・ラティフィにヒットしたことで減点せざるを得なかった。シューマッハーは予選でマグヌッセンよりも速く、Q2に進出。決勝ではマグヌッセンの1ストップよりわずかながらに有利な2ストップで走っていたが、インシデントでタイムをロスし、5秒のタイムペナルティも受けたことで、ハースでの最後のレースを16位で終えることになった。
ケビン・マグヌッセン(ハース)にとっても失望の週末だった。予選でも決勝でも速さがなく、今回はポイント争いをするのは無理だと彼は悟っていた。
F1での最後のレースに、ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)に悪い評価をつけることなどできない。確かに予選でも決勝でも最下位だったが、予選でアルボンとの差はあまりなかったし、レースはシューマッハーにヒットされてスピンに追い込まれ、マシンのリヤに深刻なダメージを負ってしまったのだ。
今回は全体的に甘めの採点だったが、これは私から全ドライバーたちへの早めのクリスマスプレゼントだ。