「勝利のため」自身の交代も決断 堀越・中村健太のブレない基準と胆力

2023年12月26日(火)22時2分 サッカーキング

堀越の中村健太キャプテン(3年) [写真]=土屋雅史

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 1点差に追い上げられた試合終盤に、キャプテンマークを巻いた10番がベンチへと下がっていく。傍から見れば「重要な局面でエースのキャプテンが交代した」というシーンに過ぎないかもしれない。だが、この一連には他のチームでは考えられないような“経緯”が隠されていた。

 この4年で3度の全国高校サッカー選手権大会出場を誇る堀越が採り入れているのが、いわゆる『ボトムアップ方式』だ。選手主導で話し合い、試合で実行する戦術もメンバー選考も、自分たちで決めていくスタイルの中心が、その年のキャプテン。それこそ試合中の選手交代もピッチの中で判断し、それをベンチに伝えることで、メンバーを入れ替えていく。

 冒頭のシーンは、今大会東京都予選Bブロック準決勝の日大三戦であった一コマ。前半のうちに2点を先行した堀越だったが、後半の63分に1点を返されると、やや焦りの色が浮かび始める。その状況の中でキャプテンの中村健太(3年)は、自身のコンディションとゲームの流れを極めて冷静に考えていた。

「もう両方のふくらはぎが攣っていて、『自分がいても役に立たないな』と思ったので、交代しました」

 さらりと口にしたが、なかなかすごいことを言っている。負ければ大会が終わってしまう準決勝の、しかも1点差で突入していく最終盤の時間帯にもかかわらず、自分で自分を交代させる決断を下したのだから。

 試合はそのまま1点差で逃げ切った堀越が勝利を収める。「昨日の夜から『誰をどのタイミングで代えるか』はずっと考えていたので、そういう状況になった時にはすぐに判断できるようにしていますし、いくつかパターンはあります」と言い切った中村の“英断”には驚くばかりだが、この日のそれには2年前のキャプテンの言葉が小さくない影響を与えていたようだ。

「一昨年のキャプテンの宇田川瑛琉くん(現:拓殖大学)に『自分が代わる判断も持っておかないといけない』と言われていたので、今日は『ここで代わるしかないな』と自分が思えたことで、あの時の瑛琉くんの言っていたことが少し分かった気がしました」

 キャプテンとはいえ、同じ立場の選手がスタメンや交代を決めていく上で、間違いなく大事になってくるのはブレない基準。そこに照らし合わせれば、『自身の交代も視野に入れておくべきだ』という考え自体は理解できるが、実際に決断を下すべき局面に立たされた時に、その選択肢を採ることは容易であるはずがない。しかも、それが高校生活最後の選手権であれば、なおさらのこと。中村の胆力には恐れ入るばかりだ。

 チームメイトには小さくない“借り”がある。今大会の東京都予選Bブロック決勝。修徳との試合はPK戦までもつれ込むと、先攻の1人目で登場した中村のキックは、相手のGKに阻まれる。ただ、堀越も守護神の吉富柊人(3年)がシュートストップを見せれば、中村以降の選手たちも相次いでキックを成功させ、最後は2年ぶりの全国切符を力強く勝ち獲った。勝利の直後には涙が止まらなかった中村は、試合後の取材エリアで仲間への感謝をこう語っていた。

「自分が決めて流れを持ってこないといけない場面で外してしまって…。でも、みんなのところに戻った時に、誰一人として文句、不満、不安がなくて、『もう仲間を信じよう』と言われて、『ああ、確かにもう信じるしかないな』って。だから、最後まで仲間を信じられたんです」

 1年時からAチームでの出場機会を獲得し、2年前の全国大会のピッチも経験。昨シーズンからチームのリーダー的な役割を担ってきただけに、改めてキャプテンに就任した中村の双肩に掛かる責任とプレッシャーは想像しようもない。だが、決して順風満帆ではなかったシーズンを経て、佐藤実監督はチームの変化を敏感に察知していた。

「良い意味で“中村健太のチーム”ではなくなってきたかなって」

 中村は晴れ舞台での目標を、明確に口にする。「堀越の今までの歴史で最高のベスト8を超えられるように頑張りたいと思います」。すべてはチームの勝利のために。自分で自分を交代させられるキャプテンを擁する堀越が、史上最高成績の全国4強を目指し、チーム一丸で新たな歴史を切り拓く。

取材・文=土屋雅史

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